■補遺・ファレイ数列

 アルキメデスのアルベロス円列は2つずつ接する3つの円に対し,3つの円に接する円を次々に描き加えていくものであるが,フォードの円列は最初の3つの円のうち1つが直線(半径∞の円)に変わったものである.

 一般に3つの円に接する4つ目の円を描く問題が「アポロニウスの問題」であり,この操作を無限に繰り返してできる図形をアポロニウスのガスケットという.フォードの円列,アルキメデスのアルベロス円列はアポロニウスのガスケットの特別な場合になっている.

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【1】フォードの円列

 フォードの円列と直線との接点は常に有理数であり,区間[0,1]のすべての有理数はフォードの円列とx軸との接点として得られる.

 たとえば,x^2+(y−1/2)^2=(1/2)^2と(x−1)^2+(y−1/2)^2=(1/2)^2によって表されるような2円から始め,隣接する2項p/qとr/sの間に中間分数

  (p+r)/(q+s)

を挿入すると,ファレイ数列

[0/1,1/1]

→[0/1,1/2,1/1](2位のファレイ数列)

→[0/1,1/3,1/2,2/3,1/1](3位のファレイ数列)

→[0/1,1/4,1/3,2/5,1/2,3/5,2/3,3/4,1/1](5位のファレイ数列)

→[0/1,1/5,1/4,2/7,1/3,3/8,2/5,3/7,1/2,4/7,3/5,5/8,2/3,5/7,3/4,4/5,1/1](8位のファレイ数列)

が得られる.

 n位のファレイ数列とは分子と分母がnを超えない既約な正の有理数全体を大きさの順に並べたものである.たとえば,位数4のファレイ数列は

  [・・・,0/1,1/4,1/3,1/2,2/3,3/4,1/1,・・・]

位数6のファレイ数列は

  [・・・,0/1,1/6,1/5,1/4,1/3,2/5,1/2,3/5,2/3,3/4,4/5,5/6,1/1,・・・]

位数7のファレイ数列は

  [・・・,0/1,1/7,1/6,1/5,1/4,2/7,1/3,2/5,3/7,1/2,4/7,3/5,2/3,5/7,3/4,4/5,5/6,6/7,1/1,・・・]

 位数nのファレイ数列の長さは,オイラー関数φ(n)を用いて,

  1+φ(1)+φ(2)+・・・+φ(n−1)+φ(n)

 〜3(n/π)^2〜0.30396n^2

になる.この近似はnが大きくなるにつれてよくなっていく.

 0と1の間にある既約分数で分母かnを越えない分数というだけでなく,わざわざ分子まで入れてある理由は,ファレイ数列を拡張させるためである.たとえば,位数5のファレイ数列は

  [0/1,1/4,1/3,2/5,1/2,3/5,2/3,3/4,1/1,5/4,4/3,3/2,5/3,2/1,5/2,3/1,4/1,5/1]

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【2】ファレイ数列とディオファントス近似

 ファレイ数列では相隣り合う2項[m1/n1,m2/n2]の分母と分子からなる行列式の値m1n2−m2n1は±1である.すなわち,交差積m1n2とm2n1は連続する整数になる.

 また,フォードの円列では(m1/n1,1/2n1^2)を中心とする半径1/2n1^2の円と(m2/n2,1/2n2^2)を中心とする半径1/2n2^2の円が接することになる.フォードの円列は重なり合うことはなく,この2つの円の間に入る一番大きな円はその中間分数(m1+m2)/(n1+n2)の円である.

 フォードの円列において,直線y=1は∞=1/0に対応すると解釈しよう.すると,有理数p/qに対応するフォードの円は半径1/2q^2で,x軸上の点p/qにおいて接する円となる.

 同様に分母が高々dの有理数からなる位数dのファレイ数列の各項は1/d^2≦y<1/(d+1)^2の任意の水平線と交わるフォードの円と対応することになる.

 これにより,いくつかのディオファントス近似に関する定理は,(双曲)幾何学的に自明なものとなる.たとえば,任意の無理数αに対して

  |α−p/q|<1/2q^2

を満たすものが無数に存在するという定理がそうである.直線x=αが連接する2つのフォードの円p/q,r/sのどちらか一方に交わる.それがp/qであるとすると|α−p/q|<1/2q^2が成り立たなければならないからである.

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[補]フルヴィッツの定理

 連続する2つの近似分数をan/bn,an+1/bn+1とすると,それらのうち一方は|α−a/b|<1/2b^2を満たす.連続する3つの近似分数をan/bn,an+1/bn+1,an+2/bn+2とすると,それらのうち少なくともひとつは

  |α−a/b|<1/√5b^2を満たす.

 この結果から「フルヴィッツの定理」

  |α−a/b|<1/√5b^2を満たす有理数a/bは無限に多く存在する.

を証明することができる.

 この定数√5は最良のもので,これより大きな数に置き換えることはできないが,黄金比φのようにαの連分数展開が有限個を除いてすべて1になる無理数を除外すれば,フルヴィッツの定理は√5の代わりに√8を用いても成り立つ.

  |α−a/b|<1/√8b^2

  →コラム「無理数・代数的数・超越数(その5)」参照

 次に問題になるのは√2のようなαの連分数展開が有限個を除いてすべて2になる無理数で,それを除くと定理を

  |α−a/b|<1/√(221/25)b^2

に改良できる.

 同様の改良を続けていったときの定数√5,√8,√(221/25),・・・がラグランジュ数である.それらは

  √(9−4/m^2)

において,それぞれm=1,2,5とおいたものである.

  m=1,2,5,13,29,34,89,169,194,233,433,610,985,・・・

はマルコフ数と呼ばれる.マルコフ数は2次のディオファントス方程式

  x^2+y^2+z^2=3xyz

の解として現れる.たとえば(x,y,z)=(1,1,1),(2,1,1),(5,1,2),(13,1,5),(29,5,2),・・・

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【3】等角同値

 フォードの円列では群PSL(2,Z),すなわち,上半平面から上半平面への写像

  z → (az+b)/(cz+d)

  a,b,c,dは整数,ad−bc=1

全体のなす群を考えたが,群SL(2,Z)とGL(2,Z)の有理数への作用は,たとえば,等角写像

  z → (z−i)/(z+i)

により上半平面からポアンカレ円板に写して考えると,ユークリッド幾何学的なフォードの円は双曲幾何学的な円板の境界に接する円となる.

 アポロニウスのガスケットは自己相似性をもつ図形であるが,2つのアポロニウスのガスケットは1次分数変換で写り合う等角同値な図形でもあることになる.

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