■n角の穴をあけるドリル(その42)

 (その35)ではフルヴィッツ・藤原曲線,(その40)ではルーローの奇数角形,(その41)では藤原・掛谷の二角形,ルーローの二角形がそれぞれ内転形であることを検証した.フルヴィッツ・藤原曲線とは異なり,ルーロー曲線は円弧を区分的に接続したものであるから,内転形であることの証明は煩わしいものとなった.

 ルーロー曲線について,このシリーズでは

(1)nが偶数のとき

  円弧の中心はn−1角形の頂点

  n=4 → ルーローの三角形

(2)nが奇数のとき

  円弧の中心はn−1角形の辺の中点

  n=3 → 藤原・掛谷の二角形(例外)

(3)中心の軌跡は楕円の弧の組合せ

  円もどき (n=3を除く)

となることを紹介してきた.

 (2)のルーローの偶数角形を実際に作図して正n角形の中を内転させてみると,目測ではこれで正しいようにみえるのだが,きちんとした証明がなされたわけではなく,ルーローの奇数角形の円弧の中心がn−1角形の頂点にあるならば偶数角形ではn−1角形の辺の中点にあるべきだという小生の希望に過ぎないのである.

 無論正しいことを期待しているが,今回のコラムではルーローの奇数角形の場合と類似の方法を使って検証してみることにした.ところが・・・

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【1】ルーローの円弧多角形の頂角

 ルーローの奇数角形では円弧の中心はn−1角形の頂点にあり,頂角βは

  β=π−π/(n−1)=π(n−2)/(n−1)

で与えられる.

  n=4 → 120°

  n=6 → 144°

  n=8 → 154.3°

 それに対して,ルーローの偶数角では円弧の中心はn−1角形の辺の中点にある.奇数角形の場合に比べて難しくなるが,円弧の中心角を2αとすると頂角βは

  β=2α+π(n−3)/(n−1)

 また,正n角形の高さをH,正n角形の内接円の半径をr1,ルーローのn−1角形の弧の曲率半径r0,中心角を2α,正n−1角形の内接円の半径をr2とおくと,

  2r2tanα=r2tan(π/(n−1))

より,

  α=arctan(1/2・tanπ/(n−1))

  β=2arctan(1/2・tanπ/(n−1))+π(n−3)/(n−1)

  n=5 → α=26.6°,β=143.1°

  n=7 → α=16.1°,β=152.2°

  n=9 → α=11.7°,β=158.4°

となる.

 また,これらの相互関係は

  r0cosα=2r2

  r0(1+sinαtanπ/n)=r1(1+secπ/n)=H

と定まる.

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【2】ルーローの偶数角形

 このとき,ルーローのn−1角形の中心座標は(0,r0−r2)になるから,ここを始点とし正(n−1)角形の頂点や辺の中点を終点とするベクトルを考える.すると

(1)0≦θ≦αのとき

  円弧の中心(0,r0),半径r0

 → p(θ)=r0−r0cosθ,p(0)=p’(0)=0

(2)α≦θ≦α+π−βのとき

  円弧の中心(R2sin(π/(n−1)),r0−r2−R2cos(π/(n−1)),半径0

 → p(θ)=−{r0−r2−R2cos(π/(n−1))}cosθ+r2sin(π/(n−1))sinθ

(3)α+π−β≦θ≦3α+π−βのとき

  円弧の中心(−r2sin(2π/(n−1)),r0−r2(1−cos(2π/(n−1)),半径r0

 → p(θ)=r0−{r0−r2(1−cos(2π/(n−1))}cosθ−r2sin(2π/(n−1))sinθ

(4)3α+π−β≦θ≦3α+2(π−β)のとき

  円弧の中心(R2sin(3π/(n−1)),r0−r2−R2cos(3π/(n−1)),半径0

 → p(θ)=−{r0−r2−R2cos(3π/(n−1))}cosθ+r2sin(3π/(n−1))sinθ

(5)3α+2(π−β)≦θ≦5α+2(π−β)のとき

  円弧の中心(−r2sin(4π/(n−1)),r0−r2(1−cos(4π/(n−1)),半径r0

 → p(θ)=r0−{r0−r2(1−cos(4π/(n−1))}cosθ−r2sin(4π/(n−1))sinθ

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(6)2π−α≦θ≦2πのとき

  円弧の中心(0,r0),半径r0

 → p(θ)=r0−r0cosθ

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【3】内転形であることの証明(?)

 次に,正n角形の内接円の半径をrとして

  Σ(k=0~n-1)p(θ+kω)=nr1(一定),ω=2π/n

であることを証明したい.

 ここまでは一般式の形で求めたが,この節ではn=5の場合について調べてみる.すなわち,ω=2π/5=72°とおいて,

  p(θ)+p(θ+ω)+p(θ+2ω)+p(θ+3ω)+p(θ+4ω)=5r1

(1)0≦θ≦αのとき(0≦θ≦26.565)

  円弧の中心(0,r0),半径r0

 → p(θ)=r0−r0cosθ,p(0)=p’(0)=0

(2)α≦θ≦α+π−βのとき(26.565≦θ≦63.435)

  円弧の中心(r2,r0−2r2),半径0

 → p(θ)=−(r0−2r2)cosθ+r2sinθ

(3)α+π−β≦θ≦3α+π−βのとき(63.435≦θ≦116.565)

  円弧の中心(−r2,r0−r2),半径r0

 → p(θ)=r0−(r0−r2)cosθ−r2sinθ

(4)3α+π−β≦θ≦3α+2(π−β)のとき(116.565≦θ≦153.435)

  円弧の中心(r2,r0),半径0

 → p(θ)=−r0cosθ+r2sinθ

(5)3α+2(π−β)≦θ≦5α+2(π−β)のとき(153.435≦θ≦206.565)

  円弧の中心(0,r0−2r2),半径r0

 → p(θ)=r0−(r0−2r2)cosθ

(6)5α+2(π−β)≦θ≦5α+3(π−β)のとき(206.565≦θ≦243.435)

  円弧の中心(−r2,r0),半径0

 → p(θ)=−r0cosθ−r2sinθ

(7)5α+3(π−β)≦θ≦7α+3(π−β)のとき(243.435≦θ≦296.565)

  円弧の中心(r2,r0−r2),半径r0

 → p(θ)=r0−(r0−r2)cosθ+r2sinθ

(8)7α+3(π−β)≦θ≦7α+4(π−β)のとき(296.565≦θ≦333.435)

  円弧の中心(−r2,r0−2r2),半径0

 → p(θ)=−(r0−2r2)cosθ−r2sinθ

(9)7α+4(π−β)≦θ≦2πのとき(333.435≦θ≦360)

  円弧の中心(0,r0),半径r0

 → p(θ)=r0−r0cosθ

 ところが,これを用いて

  Σ(k=0~n-1)p(θ+kω)=nr1(一定),ω=2π/n

であることを検証しようと思ったのだが,場合分けが煩雑となり三角形,四角形のようにはいかなかった.宿題として遺しておきたい.

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【4】雑感

 2αとπ−βが簡単な整数比の関係になっていないことが問題を難しくしている.もしかすると,ルーローの偶数角形でも奇数角形と同じ式

  β=π−π/(n−1)=π(n−2)/(n−1)

が正しいのかもしれない.

 そうすればn=5のとき,α=π/8,β=6π/8.また,もうひとつパラメータが必要になって,円弧の曲率半径ra=r0,曲率中心からルーローのn−1角形の中心までの距離をrbとおいて

(1)0≦θ≦5π/40のとき

  円弧の中心(0,ra),半径ra

 → p(θ)=ra−racosθ,p(0)=p’(0)=0

(2)5π/40≦θ≦15π/40のとき

  円弧の中心(r2,ra−rb−r2),半径0

 → p(θ)=−(ra−rb−r2)cosθ+r2sinθ

(3)15π/40≦θ≦25π/40のとき

  円弧の中心(−rb,ra−rb),半径ra

 → p(θ)=ra−(ra−rb)cosθ−rbsinθ

(4)25π/40≦θ≦35π/40のとき

  円弧の中心(r2,ra−rb+r2),半径0

 → p(θ)=−(ra−rb+r2)cosθ+r2sinθ

(5)35π/40≦θ≦45π/40のとき

  円弧の中心(0,ra−2rb),半径ra

 → p(θ)=ra−(ra−2rb)cosθ

(6)45π/40≦θ≦55π/40のとき

  円弧の中心(−r2,ra−rb+r2),半径0

 → p(θ)=−(ra−rb+r2)cosθ−r2sinθ

(7)55π/40≦θ≦65π/40のとき

  円弧の中心(rb,ra−rb),半径ra

 → p(θ)=ra−(ra−rb)cosθ+rbsinθ

(8)65π/40≦θ≦75π/40のとき

  円弧の中心(−r2,ra−rb−r2),半径0

 → p(θ)=−(ra−rb−r2)cosθ−r2sinθ

(9)75π/40≦θ≦2πのとき

  円弧の中心(0,ra),半径ra

 → p(θ)=ra−racosθ

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