■デルトイドの平行曲線(その2)

 ある曲線に対して,その曲線上の各点より法線方向へ一定の距離にある曲線を「平行曲線」といいます.平行曲線とは鉄道の線路のようなものと考えてもらって差し支えないのですが,ある曲線上を円が転がるとき円の中心の描く軌跡であり,また,初期曲線を波面と考えたときの波面(フロント)の時間発展でもあります.

 すなわち,平行曲線の考え方は,幾何光学におけるホイヘンスの原理にすでに認めることができます.ホイヘンスの原理とは,光を波とみなすとき,波面の各点から波が新たに発生すると思って半径一定の球面を描くと,その球面の包絡面が次の波面を決めるという光の進行原理のことです.

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【1】平行曲線

 直線の場合,「平行曲線」は平行線であり,円の場合は同心円になります.直線と円は曲率が一定の平面曲線で,曲率一定の平面曲線は直線と円に限られます.ある曲線(ξ,η)の平行曲線(x,y)が特異点を作らずに平面をただ一回だけ覆いつくすためには,曲率一定の直線と円のみがこの性質を満たします.

 それでは楕円の場合はどうなるでしょうか?

  x=acosθ+cbcosθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)

  y=bsinθ+casinθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)

を実際に描いてみることにしましょう.下図は楕円の平行曲線の時間発展です.楕円の場合は4つのカスプをもつ曲線が浮かび上がってきます.

 これは単純閉曲線の4頂点定理と関係しています.曲線上で曲率が極大,極小になる点を頂点といいます.円の曲率は一定ですが,楕円には極大と極小が2つずつ計4個の頂点があります.「単純閉曲線上には頂点が少なくとも4個存在する」というのが4頂点定理です.そして,曲線の頂点は対応する縮閉線上に特異点を作ります.

 x,yの多項式:f(x,y)=0で与えられている曲線を代数曲線,多項式の次数をこの曲線の次数と呼びます.次数が2より大きい代数曲線は尖点や自己交差点のような特異点をもつこともあります.楕円の平行曲線の次数は2ではなく,2より大きいことがわかります.

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【2】平行曲線の次数

 「トロコイドの幾何学」シリーズでは,デルトイドは交差項をもたない4次曲線,アステロイドは6次曲線となることを示すことができました.また,「アステロイドの平行曲線」では交差項をもつ6次式で表すことができることをみました.

         代数曲線としての次数    平行曲線の次数

  直線       1次            1次

  円        2次            2次

  楕円       2次            ?

  デルトイド    4次            ?

  アステロイド   6次            6次

 デルトイドの平行曲線の包絡線の接線極座標における方程式は

  p(θ)=2asin2θ−asinθ+bcos(θ/2)

で与えられます.このことから,デルトイドの平行曲線は交差項をもつ?次曲線となることが予測されるのですが,ここで考えるのは実際の直交座標の式ではなく,その次数のみとします.

 多くの曲線で極座標による式のほうが直交座標による式よりはるかに簡単になります.卵形線の接線へ原点から引いた垂線の足の軌跡を垂足曲線といいますが,そこで

  p(θ)→r=√(x^2+y^2)

  cosθ→x/r

  sinθ→y/r

と置き換えてみることにします.

 すると

  r=4axy/r^2−ay/r+b√(1+x/r)/2

  r(r^2+ay)−4axy=br^2√(1+x/r)/2

  r^2(r^2+ay)^2−8axyr(r^2+ay)+16a^2x^2y^2=b^2r^4(1+x/r)/2=b^2r^4/2+b^2xr^3/2

  r^2(r^2+ay)^2+16a^2x^2y^2−b^2r^4/2=r{8axy(r^2+ay)+b^2xr^2/2}

  {r^2(r^2+ay)^2+16a^2x^2y^2−b^2r^4/2}^2=r^2{8axy(r^2+ay)+b^2xr^2/2}^2

  {(x^2+y^2)(x^2+y^2+ay)^2+16a^2x^2y^2−b^2(x^2+y^2)^2/2}^2=(x^2+y^2){8axy(x^2+y^2+ay)+b^2x(x^2+y^2)/2}^2 → 12次曲線

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 次に,楕円の平行曲線の方程式を,計算の都合上

  x=acosθ+cbcosθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)

  y=−bsinθ−casinθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)

とおいて

  xsinθ−ycosθ=p(θ)

に代入すると,接線極座標における方程式は

  p(θ)=(a+b)sinθcosθ+c(a+b)sinθcosθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)

で与えられます.

 同様に

  p(θ)→r=√(x^2+y^2)

  cosθ→x/r

  sinθ→y/r

とおくと

  r=(a+b)xy/r^2+c(a+b)xy/r(a^2y^2+b^2x^2)^(1/2)

  r^3−(a+b)xy=rc(a+b)xy/(a^2y^2+b^2x^2)^(1/2)

  {r^3−(a+b)xy}^2=r^2c^2(a+b)^2x^2y^2/(a^2y^2+b^2x^2)

  (a^2y^2+b^2x^2){r^6−2r^3(a+b)xy+(a+b)^2x^2y^2}=r^2c^2(a+b)^2x^2y^2

  2r^3(a^2y^2+b^2x^2)(a+b)xy=(a^2y^2+b^2x^2){r^6+(a+b)^2x^2y^2}−r^2c^2(a+b)^2x^2y^2

  4r^6(a^2y^2+b^2x^2)^2(a+b)^2x^2y^2={(a^2y^2+b^2x^2){r^6+(a+b)^2x^2y^2}−r^2c^2(a+b)^2x^2y^2}^2

  (x^2+y^2)^3(a^2y^2+b^2x^2)^2(a+b)^2x^2y^2={(a^2y^2+b^2x^2){(x^2+y^2)^3+(a+b)^2x^2y^2}−(x^2+y^2)c^2(a+b)^2x^2y^2}^2  → 16次曲線

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【3】まとめ

         代数曲線としての次数    平行曲線の次数

  直線       1次            1次

  円        2次            2次

  楕円       2次            16次

  デルトイド    4次            12次

  アステロイド   6次            6次

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