■デルトイドの平行曲線

 円の接線極座標における方程式は

  p(θ)=a0/2+a1cosθ+b1sinθ

で与えられます.

  p(θ)+p(θ+π)=a0

ですから定幅曲線で,その曲率半径はa0/2となります.

 ルーローの三角形は定幅曲線ですが,ルーローの三角形の平行曲線もまた定幅曲線です.それではルーローの三角形ではなく,デルトイドの平行曲線は定幅曲線になるでしょうか?

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【1】デルトイドの平行曲線

 デルトイド

  ξ=a(2cosθ+cos2θ)=2acosθ(1+cosθ)−a

  η=a(2sinθ−sin2θ)=2asinθ(1−cosθ)

において,

  dε/dθ=−a(2sinθ+2sin2θ)=−2asinθ(1+2cosθ)

  dη/dθ=a(2cosθ−2cos2θ)=2a(1−cosθ)(1+2cosθ)

  (dε/dθ)^2+(dη/dθ)^2=8a^2(1−cos3θ)=8a^2(1+2cosθ)^2(1−cosθ)=16a^2(1+2cosθ)^2sin^2(θ/2)

ですから,平行曲線は

  x=2acosθ(1+cosθ)−a+rsin(θ/2)

  y=2asinθ(1−cosθ)+rcos(θ/2)

および

  x=2acosθ(1+cosθ)−a−rsin(θ/2)

  y=2asinθ(1−cosθ)−rcos(θ/2)

のようになります.

 a=1,r=0.5〜2の範囲で図示すると,6つのカスプをもつ曲線が描かれます.6つの尖点はデルトイドの平行曲線の特異点です.

 a=1,r=5〜20の範囲で図示すると,r=10では特異点が解消されていることがわかります.これは定幅曲線となるのでしょうか?

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【2】接線極座標と内転形

 計算の都合上,デルトイドの平行曲線の方程式を

  x=2acosθ(1+cosθ)−a+rsin(θ/2)

  y=−2asinθ(1−cosθ)−rcos(θ/2)

とおいて

  xsinθ−ycosθ=p(θ)

に代入すると,包絡線の接線極座標における方程式は

  p(θ)=2asin2θ−asinθ+rcos(θ/2)

で与えられます.

  p(θ)+p(θ+π)≠(一定)

ですから,デルトイドの平行曲線は定幅曲線ではありません.

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【3】訂正

 [参]「東北大学数学教室の歴史」

には『フルヴィッツはフーリエ級数論を応用して「デルトイドの平行曲線が定幅曲線(平行な支持線間の距離が一定な卵形線)である」ことを証明した』という意味のことが書かれています.

 それを受けて(信じて)

  コラム「デルトイドの幾何学(その8・藤原と掛谷)」

  コラム「デルトイドの幾何学(その9)」

などに引用したのですが,

  「デルトイドの平行曲線は正方形の内転形である」

はどうやら間違いであって,

  「アステロイドの平行曲線は正三角形の内転形である」

が正しいようです.

 ともあれ,この論文から刺激をうけた藤原松三郎は,一般的な凸多角形の内転形をフーリエ級数論

  p(θ)=a0/2+Σ(akcoskθ+bksinkθ)

を応用して解析的に研究しました.

[1]同じ凸多角形のすべての内転形の周長は等しい

[2]正n角形の内転形は少なくとも2(n−1)個の頂点をもつ

などはその業績の一例です.

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【補】平行曲線

 中心の軌跡が(ξ(θ),η(θ))でパラメータ表示される半径rの円

  (x−ξ(θ))^2+(y−η(θ))^2=r^2

  y=η(θ)±{r^2−(x−ξ(θ))^2}^(1/2)

の一部がドリルの円弧であるとき,

  ∂y/∂θ=0 → (x−ξ(θ))dξ/dθ+(y−η(θ))dη/dθ=0

 これより,包絡線の方程式は

  x=ξ(θ)+rdη/dθ/{(dξ/dθ)^2+(dη/dθ)^2}^(1/2)

  y=η(θ)−rdξ/dθ/{(dη/dθ)^2+(dξ/dθ)^2}^(1/2)

および

  x=ξ(θ)−rdη/dθ/{(dξ/dθ)^2+(dη/dθ)^2}^(1/2)

  y=η(θ)+rdξ/dθ/{(dη/dθ)^2+(dξ/dθ)^2}^(1/2)

とパラメータ表示されます.

 これは中心の軌跡(ξ,η)と直交する方向(法線方向)にrだけ離れた2点の軌跡です.すなわち,中心の軌跡の平行曲線を描くというわけです.

 例をあげると,楕円:x^2/a^2+y^2/b^2=1

のパラメータ表示

  ξ=acosθ,η=bsinθ

については

  x=acosθ+rbcosθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)

  y=bsinθ+rasinθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)

および

  x=acosθ−rbcosθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)

  y=bsinθ−rasinθ/(a^2sin^2θ+b^2cos^2θ)^(1/2)

のようになります.

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