■転がる石に苔むさず(その2)

 丸くない車輪,たとえば,ルーローの三角形でも中心位置は上下にブレて高さは一定には保たれません.(その1)では,2次曲線(楕円・放物線・双曲線)が基線上を転がるときに,焦点の描く軌跡がそれぞれアンデュラリー・カテナリー・ノーダリーと呼ばれる曲線になることを紹介しました.

  楕円   → アンデュラリー

  放物線  → カテナリー(懸垂線)

  双曲線  → ノーダリー

 そして,逆問題,ある曲線に付帯する定点(焦点)が直線を描く場合,その基線となる曲線を求めてみて,車輪の形が楕円で道の形が三角関数のとき,楕円の焦点は直線を描くことを確かめました.

 それでは,車輪の形が放物線・双曲線のとき,焦点が直線を描く道の形は?というのが今回のコラムのテーマです.結論を先にいうと

  楕円  → 三角関数

  放物線 → 放物線

  双曲線 → 懸垂線

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【1】順問題

 2次曲線を極座標表示を用いて

  r=l/(1+ecosθ)

と定義します(e:離心率,l:最近接点距離).その方が曲線の転がりを簡単に表せるからです.

  x=rcosθ,y=rsinθ

ですから,2次曲線上の点Pにおける接ベクトルは,(’=d/dθ)として

  x’=r’cosθ−rsinθ

  y’=r’sinθ+rcosθ

したがって,

  x’=−lsinθ/(1+ecosθ)^2

  y’=l(e+cosθ)/(1+ecosθ)^2

となります.

 次に,ベクトルOP↑=(x,y)と接ベクトル(x’,y’)のなす角をφを求めてみます.内積は

  xx’+yy’=−l^2esinθ/(1+ecosθ)^3

ですから,ノルムの積で割ってやると

  cosφ=−esinθ/(1+2ecosθ+e^2)^(1/2)

  sinφ=(1+ecosθ)/(1+2ecosθ+e^2)^(1/2)

が得られます.

 また,周長は

  s(θ)=∫(0,θ){r^2+(dr/dθ)^2}^(1/2)dθ

=∫(0,θ)l(1+2ecosθ+e^2)^(1/2)/(1+ecosθ)^2dθ

となります.

 したがって,焦点の座標(x,y)は

  x(θ)=s(θ)+r(θ)cosφ(θ)

  y(θ)=r(θ)sinφ(θ)

となることがわかります.

 楕円の場合,中心角ψ,長径a,短径bを用いて,

  x=rcosθ=acosψ−(a^2−b^2)^(1/2)

  y=rsinθ=bsinψ

でパラメトライズできますから,周長s(θ)は第2種楕円積分を変数変換したものになりますが,簡単な形には表せません.放物線・双曲線でも同様です.

 そのため,

  x(θ)=s(θ)+r(θ)cosφ(θ)

  y(θ)=r(θ)sinφ(θ)

のままにしておきますが,この曲線は離心率eの値によって,

  楕円(0≦e<1) → アンデュラリー

  放物線(e=1)  → カテナリー(懸垂線)

  双曲線(e>1)  → ノーダリー

と呼ばれます.

 eを変化させると,楕円→放物線→双曲線となるのに応じて,焦点の描く軌跡はアンデュラリー→カテナリー→ノーダリーへと連続的に変化します.

 e=1のとき,孤長パラメータをsとすると,

  x=∫(0,s)c/{c^2+t)^2)^(1/2)dt=clog((s+(c^2+s^2)^(1/2))/c)

  y=(c^2+s^2)^(1/2)

2つの式からsを消去すると

  y/c=cosh(x/c)

となり,

  y=cosh(x)

を相似変換したものであることがわかります.

 これは懸垂線(カテナリー)で,伸び縮みしないひもの両端を固定しぶら下げてできる曲線です.懸垂線はちょっとみると放物線ではないかと思われがちですが,放物線よりもずっときつく上昇する曲線です.

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【2】逆問題

 タイヤが歪んでいるとき,平らな道の上を滑らかに転がることができません.しかし,逆に考えると,歪んだタイヤでも凸凹具合によっては滑らかに転がることができる道があるはずです.そこで,ここでは,ある曲線に付帯する定点(回転軸)が水平線を描く場合の基線となる曲線を求めることにします.

 車輪の曲線を極座標表示してr=r(θ),道の曲線をy=y(x)とします.その際,直交座標上での曲線の長さは

  l(x)=∫(0,x){1+(dy/dx)^2}^(1/2)dx

また,極座標上における曲線の長さは,前述したように,

  s(θ)=∫(0,θ(x)){r^2+(dr/dθ)^2}^(1/2)dθ

で与えられます.

 車輪が滑らずに転がることから,l(x)=s(θ)

この両辺をxで微分して,2乗すると

  1+(dy/dx)^2={r^2+(dr/dθ)^2}(dθ/dx)^2

 また,道の深さと車輪の動径が等しいことより

  r(θ(x))=−y(x)

これを微分すると

  dr/dθ・dθ/dx=-dy/dx

前式にこれを代入して

  dθ/dx=−1/y(x)

が得られます.

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[1]楕円の場合(コサインの道)

 逆に,道の定義y=y(x)が与えられているときは,微分方程式

  dθ/dx=−1/y(x)

を初期条件:θ(0)=-π/2の下に解くことになります.

  θ(x)=-∫(0,x)1/y(u)du-π/2

 道の曲線が関数:y=cos(x)−√2で与えられている場合の車輪の形を求めてみましょう.

  θ(x)=-∫(0,x)1/y(u)du-π/2

より,

  θ=arctan((√2+1)tan(x/2))−π/2

したがって,

  tan(x/2)=(√2−1)tan(1/2(θ+π/2))

 あとは,変数変換によって,

  cos(x)=(1−√2sinθ)/(√2−sinθ)

これより,極座標表示された車輪の曲線の式は

  r=−y=√2−cosθ=1/(√2−sinθ)

となり,楕円を表すことがわかります.

 実際,x=rcosθ,y=rsinθを代入すると,

  √2r−rsinθ=√2r−y=1

  √2r=y+1,r=(x^2+y^2)^(1/2)

より,楕円

  x^2+(y−1)^2/2=1

が得られますが,この場合も順問題の答がアンデュロイドだったのに対して,逆問題の答は三角関数になるというわけです.

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[2]接線座標

 曲線上の点Pにおける接線とx軸とのなす角度をσ,OP=rとすると,曲線(x,y)は接線座標(r,σ)でパラメトライズされることがわかります.焦点Fを原点とする接線方程式をr=f(σ),基線となる曲線を(x,y)とすると

  y=f(π/2−τ),τ=arctan(dy/dx)

  dy/dx=tanτ

  dx/(dx^2+dy^2)^1/2=cosτ

  dy/(dx^2+dy^2)^1/2=sinτ

これを積分すれば所要の曲線が得られます.

 焦点を原点とする楕円の接線方程式は

  r(2a−r)sin^2σ=b^2

したがって,微分方程式

  y(2a−y)=b^2/cos^2σ=b^2(1+(dy/dx)^2)

を解いて

  y−a=csin(x/a)・・・三角関数

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[3]放物線の場合

 接線方程式は

  rsin^2σ=a

微分方程式

  ycos^2σ=a,すなわち,y=a(1+(dy/dx)^2)

を解いて

  x^2=4a(y−a)・・・放物線

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[4]双曲線の場合

 接線方程式は

  r(2a+r)sin^2σ=b^2

微分方程式

  y(2a+y)=b^2/cos^2σ=b^2(1+(dy/dx)^2)

を解いて

  y+a=c/2(exp(x/b)+exp(−x/b))・・・懸垂線

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[5]接線極座標

 曲線上の点Pにおける接線に原点Oから引いた垂線の長さをp,接線とx軸とのなす角度をφとすると,

  xsinφ−ycosφ=p(φ)

と表されます.(p,φ)を接線極座標といいます.

 接線座標(r,σ)との関係は

  p=−rcosσ,dp/dφ=rsinσ

  r=(p^2(φ)+p’^2(φ))^1/2,σ=arctanp/p’

から得られます.

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[参]高桑昇一郎「微分方程式と変分法」共立出版

[参]窪田忠彦「歯車の幾何学」河出書房