曲線全体が常に接線の片側にあるとき,その曲線を凸閉曲線あるいは卵形線と呼びます.このことは曲率κ(s)が符号を変えないことと同値です.平面上の閉じた曲線が凸曲線であるかどうかといった大域的な形状に関する性質も,曲率という局所的に計算できる量を用いて確かめることができるというわけです.
そして,曲率κ(s)が極大値あるいは極小値をとる点,すなわち,κ’(s)=0となる点を頂点といいます.別の言い方をすると,通常のなめらかな曲線上では曲率円は曲線の2次近似となるのですが,頂点とは曲率円が3階微分以上に過剰に近似されてしまう特別な点のことと解釈されます.
「単純閉曲線上には頂点が少なくとも4個存在する」というのが4頂点定理です.円の場合はκ(s)は定数ですから,すべての点が頂点ということになります.また,楕円の場合は
κ(t)=ab/(a^2sin^2t+b^2cos^2t)^(3/2)
ですから,x軸,y軸との交点だけが頂点となります.ちょうど4つある例が楕円であり,楕円の場合が頂点数が最小になるというわけです.
4頂点定理は「単純閉曲線上に曲率円が曲線の内側にある点が少なくとも2つ,曲線の外側にある点が少なくとも2つ存在する」とさらに精密化することができます.また,球面単純閉曲線についても4頂点定理は成り立ち,その応用としてテニスボール定理「球面単純閉曲線が球面を同じ面積の領域に2分するならばその曲線は少なくとも4個の変曲点をもつ」が知られています.
卵形線の4頂点定理はさておき,今回のコラムでは内転形「正n角形に内接しながら回転することができる円以外の図形は何か」について考えてみることにします.
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【1】卵形線研究
藤原松三郎はゲッチンゲン留学中卵形線に大きな興味を抱き,以後卵形線研究は東北大学数学教室の輝かしい業績が生まれることとなった.内転形(凸多角形の各辺に接しながらそのなかで1回転できる卵形線)は,凸多角形が正方形の場合は定幅曲線に他ならず,定幅曲線の概念の拡張になっている.
フルヴィッツはフーリエ級数論を応用して「デルトイドの平行曲線が定幅曲線(平行な支持線間の距離が一定な卵形線)である」ことを証明した.この論文から刺激をうけた藤原は一般的な凸多角形の内転形をフーリエ級数論を応用して解析的に研究した.
[1]同じ凸多角形のすべての内転形の周長は等しい
[2]正n角形の内転形は少なくとも2(n−1)個の頂点をもつ
などはその業績の一例である.
また,正n角形の内転形で面積最小のものをAn,接点と正n角形の頂点との距離が最小のものをBnとすると,藤原はA3,B3はともに藤原・掛谷の2角形(半径が正三角形の高さに等しい2つの円弧で囲まれたレンズ型図形)であることを証明した.A4,B4がともにルーローの三角形であることはそれぞれブラシュケ,藤原が証明している.卵形線論ではブラシュケ(ハンブルグ大学)と東北大学が研究の二大中心をなしていた観がある.
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【2】接線極座標
卵形線上に原点をとり,曲線上の点P(x0,y0)における接線とx軸とのなす角度をθとすると,
接線方向の単位ベクトル : e1=(cosθ,sinθ)
それと直交する単位ベクトル: e2=(−sinθ,cosθ)
となります.
また,接線の方程式は
y−y0=tanθ(x−x0)
(x−x0)sinθ−(y−y0)cosθ=0
xsinθ−ycosθ=x0sinθ−y0cosθ=p(θ)
と表されます.このとき,右辺はベクトルPOと法線ベクトルの内積ですから,原点から接線までの距離は|p(θ)|で与えられます.
同様に,法線の方程式は
xcosθ+ysinθ=x0cos+y0sinθ=p’(θ)
原点から法線までの距離は|p’(θ)|で与えられます.
連立方程式
xsinθ−ycosθ=p(θ)
xcosθ+ysinθ=p’(θ)
を解くと
x=p(θ)sinθ+p’(θ)cosθ
y=−p(θ)cosθ+p’(θ)sinθ
が得られますが,これにより曲線(x,y)は(p,θ)でパラメトライズされることがわかります.
また,曲線の長さをs,曲率半径をρとすると
ds^2=dx^2+dy^2=(p+p”)dθ^2
より,
ρ=ds/dθ=p(θ)+p”(θ)
[補]平面曲線についてのフレネー・セレーの公式は,
d/dtE=AE
で表されます.ここで,
E=(e1(t),e2(t))’
A=| 0 , κ(t)|
|-κ(t), 0 |
Aは交代行列で,κ(t)は曲率を表すスカラー関数です.曲率の逆数を曲率半径といいます.sを弧長パラメータとして,フレネー・セレーの公式より曲率半径は
ρ=ds/dθ=p(θ)+p”(θ)
と表されます.
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【3】定幅曲線
任意のθについて幅hが一定,すなわち,
p(θ)+p(θ+π)=h
である曲線を定幅曲線といいます.また,
ρ(θ)=p(θ)+p”(θ)≧0
は曲率半径が符号を変えないこと,すなわち卵形線であるための条件です.
ρ(θ)≧0であって,幅hをもつすべての定幅曲線の周長はπhで等しくなります(バービエ).また,定幅曲線のなかで面積が最大になるのは円,最小になるのはルーローの三角形です(ブラシュケ・ルベーグ).
定幅であるための必要十分条件は,各対点(x(θ),y(θ))と(x(θ+π),y(θ+π))を結ぶ直線がそれらの点での接線に直交することといってもよく,
p(θ)+p(θ+π)=h
は
ρ(θ)+ρ(θ+π)=h
としても同値で,(x(θ),y(θ))での曲率中心と(x(θ+π),y(θ+π))での曲率中心は一致します.
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【4】面積最小の内転形
[1]定幅曲線の場合
定幅曲線上に原点をとると,一般性を失うことなく
p(0)+p(π)=h
p’(0)+p’(π)=0
p(0)=p’(0)=0
ですから,
p(π)=h,p’(π)=0
また,ρ=ds/dθより弧長パラメータsからパラメータθに変更することができ,
x=∫(0,s)cosθ(s)ds=∫(0,θ)ρ(θ)cosθdθ
y=∫(0,s)sinθ(s)ds=∫(0,θ)ρ(θ)sinθdθ
より
xsinθ−ycosθ=p(θ)
xcosθ+ysinθ=p’(θ)
はそれぞれ
p(θ)=sinθ∫(0,θ)ρ(θ)cosθdθ−cosθ∫(0,θ)ρ(θ)sinθdθ
p’(θ)=cosθ∫(0,θ)ρ(θ)cosθdθ+sinθ∫(0,θ)ρ(θ)sinθdθ
と書くことができます.
接点と正方形の頂点との距離が最小のものをB4とする問題は
∫(0,π)ρ(θ)sinθdθ=h
∫(0,π)ρ(θ)cosθdθ=0
0≦ρ(θ)≦h
の付帯条件の下で,
p(π/2)=∫(0,θ)ρ(θ)cosθdθ=minimize
という変分問題に帰着します.
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[2]定幅曲線でない場合
「正三角形に内接しながら回転することができる円以外の図形は何か」について考えてみると,それは定幅曲線ではありませんが,定幅曲線の場合と類似の
p(θ)+p(θ+ω)+p(θ+2ω)=h, ω=2π/3
ρ(θ)=p(θ)+p”(θ)≧0
であることが物理的条件です.
そして
p(ω)+p(2ω)=h, ω=2π/3
p’(ω)+p’(ω)=0
p(0)=p’(0)=0
より,B3問題は最終的に
∫(0,2ω)ρ(θ)G(θ)dθ=h
∫(0,2ω)ρ(θ)H(θ)dθ=0
ρ(θ)≧0 (0≦θ≦2ω)
ρ(θ)+ρ(θ+ω)≦h (0≦θ≦ω)
の付帯条件の下で,
p(ω)=∫(0,ω)ρ(θ)sin(ω−θ)dθ=minimize
という変分問題の形に帰着されることになります.
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[3]面積最小の内転形
卵形線の接線へ原点から引いた垂線の足の軌跡を垂足曲線といいますが,その面積は
1/2∫p^2(θ)dθ
卵形線と垂足曲線との間に挟まれる面積は
1/2∫p’^2(θ)dθ
より,卵形線の面積は
∫(0,2π)(p^2(θ)−p’^2(θ))dθ
になりますから,A3,A4は変分問題
∫(0,2π)(p^2(θ)−p’^2(θ))dθ=minimize
p(θ)+p(θ+π)=h (定幅曲線の場合)
p(θ)+p(θ+ω)+p(θ+2ω)=h (定幅曲線でない場合)
に帰着されます.
また,周長が所与である場合の同様の問題は,
∫(0,2π)(p^2(θ)−p’^2(θ))dθ=minimize
∫(0,2π)p(θ)dθ=constant
0≦p(θ)+p”(θ)≦h
に帰着されます.
もし,p(θ)をフーリエ級数に展開し
p(θ)=a0/2+Σ(akcoskθ+bksinkθ)
とすると,その面積はパーセヴァルの定理より
1/2∫(0,2π)(p^2(θ)−p’^2(θ))dθ=1/2{a0^2π+Σ(ak^2+bk^2)(1−k^2)π}
になります.
ルーローの三角形(A4問題の解),藤原・掛谷の二角形(A3問題の解)はそれぞれ正方形,正三角形に内接しながら回転することができる図形であり,これを応用すれば正方形の穴,正三角形をあけるドリルを作ることができます.藤原・掛谷の二角形では完全な正三角形の穴をあけることができますが,ルーローの三角形であけられる正方形はその角がごくわずかだが丸くなっていて,穿かれる穴の面積は正方形の面積を1とすると0.9877・・・となります.
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【補】把持定理
ここでは2次元の凸多角形に対して辺に直交する力を加えて水平面上で動かないようにするという問題を考えます.この場合,物体にかかる力の和=0,トルク(回転モーメント)の和=0となることが平衡(平行移動も回転もしない)のための物理的条件です.
はじめに三角形物体を考えると,任意の三角形物体は3つの固定点で不動化できることがこの物理的条件から証明されるのですが,辺上の3点をP1,P2,P3とすると,これらの点からその辺に垂直な線を引き,この3つの直線が1点Oで交わるというのが不動化のための条件となります.
このような点Oの典型例は,点Oが三角形の最大内接円の中心(すなわち内心)となることで,そのとき,P1,P2,P3は最大内接円と三角形の接点(すなわち内心から各辺に下ろした垂線の足)として与えられます.
しかし,点Oは必ずしも三角形の内部にある必要はなく,点Oから各辺に下した垂線の足がその辺上で交わればよいのです.辺の延長線上ではいけません.
三角形は3点で不動化可能ですが,一般に凸多角形は4点で不動化できます.この場合も最大内接円が関係してきます.さらに細かくいうと,長方形,平行四辺形,台形のように平行な辺をもつ凸多角形ではどうしても4点が必要になりますが,平行な辺をもたない任意の凸多角形は3点で不動化できます.
この定理の3次元版は少し複雑になりますが,任意の3次元多面体は6点で,平行面をもたない多面体は4点で不動化できることが証明されています.さらに,任意のn次元胞体の場合,固定点は2n個,平行な胞(n−1次元対応物)をもたないときはそれよりずっと少なくでき,n+1個まで減らせることが示されています.
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