■n角の穴をあけるドリル(その30)

 n角の穴をあけるドリルのローター設計では「包絡線」が重要な役割をになっている.それに比べると,ローターの軌跡として生じる包絡線はあまり重要とはいえないが,実際にそれを描こうとすると結構骨の折れる作業である.

 また,曲線に特異点がある場合,曲線群の特異点を結ぶ曲線は保証されない.どうしても全貌を描ききれないところがでてくることもおわかり頂けるであろう.なお,以下に掲げる外包絡線は厳密なものではなく,ローターの頂点の軌跡で近似してある.ローターの膨らみが大きい場合はローターの頂点の軌跡からはみ出すことになる.

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【1】3角形の穴をあけるドリルの包絡線

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【2】4角形の穴をあけるドリルの包絡線

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【3】5角形の穴をあけるドリルの包絡線

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【4】6角形の穴をあけるドリルの包絡線

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【5】雑感

 ルーローの三角形はいたって単純な形状であるから,ルーロー以前に誰もこの図形を利用しなかったのか不思議に思う方もおられるだろう.フランツ・ルーロー(1829-1905)が定幅図形であることを示すまで実用的な応用はなかったし,実際の機械にこの図形を応用したのも彼が最初である.

 その後さまざまな用途に利用されるようになった.マンホールのフタ,コイン,正方形の穴を穿つドリル,マツダ車のエンジン,ヴィックスドロップ,・・・.回転するドリルでは丸い穴しかあけられないはず,したがって正方形の穴をあけるドリルなどと聞いても常識外れとしか思えないだろう.

 しかし,定幅曲線はいかなる方向に関しても等しい幅をもっているわけであるから,正方形に内接しながら回転することができる図形であり,これを応用すれば正方形の穴をあけるドリルを作ることができる.(もちろん,中心が固定されていてはダメである.また,ルーローの三角形であけられる正方形はその角がごくわずかだが丸くなっていて,穿かれる穴の面積は正方形の面積を1とすると0.9877・・・となる.)

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 非常に単純だが,深淵な数学的発見が今日なお可能であるもう一つの例として,正多角形でない多角形による平面充填形があげられる.ただし,非凸な多角形による平面のタイル張り問題は難しいので,ここでは正多角形ではない不規則な凸多角形に限ってみる.三角形と四角形の場合は凸でなくてもよいのであるが,どんな形の三角形,四角形でも平面を過不足なく敷きつめることができる.凸六角形では本質的に異なる3つのタイプの六角形だけが平面を埋めつくす.また,凸な多角形では七角以上になるとどんな型のものもうまくいかない.

 五角形は特に興味津々である.正五角形はどうしても隙間があいてしまうが,凸五角形ではホームベース形も含めて,現在,14種の平面充填形が知られている.六角形に関しては3種類以外のものは存在しないことが示されているが,五角形に関しては14種ですべてかどうかはまだ証明されていない.このような問題はとかくとり漏らしやすいもので,見逃されているものがあるやもしれない・・・.

 1975年にはほとんど数学を学んだことのない主婦ライスが「サイエンティフィック・アメリカン」誌の記事に触発されて,五角形で平面を敷き詰めるパターンでそれまで知られていないものを3種類も発見したほどである.彼女は5人の子供の母親で,台所仕事をしながら数学の教授達があり得ないといった新しい五角形タイルを発見した.また,彼女は高校より上の教育は受けていなかった.新たに何か学んで新しい発見をするのに何歳になっても遅すぎることはないという教訓である.

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