■置換多面体の空間充填性(その122)

【1】分布の混合と畳み込み

 まず,分布の混合(compoundまたはmixture of probability distribution)という用語について説明します.「分布の混合」は2つの意味で使われています.

 1つは,複数の独立な確率分布

  f1(x),f2(x),・・・,fk(x)

がある比率

  w1,w2,・・・,wk  (Σwi=1,wi>0)

をもって混ぜ合わさっている場合であり,

  f(x)=w1f1(x)+w2f2(x)+・・・+wkfk(x)=Σwifi(x)

が求める確率密度関数となります.これはいわば単純な加重和であって,混合される各分布は成分ということになります.また,合計1になる正の重み自体が1つの確率分布(g)に従うと考えることができます.例をあげると,非心χ2分布はχ2分布(f)とポアソン分布(g)の混合となっています.

 もう1つは,確率密度関数のパラメータが確率変数となっている確率分布関数を指す場合です.母数θを含む確率密度関数f(x)をパラメータまで含めてf(x,θ)と表します.f(x,θ)の母数θがまた確率密度関数g(θ)に従うとすると

  h(x)=∫f(x,θ)g(θ)dθ

によって新しい確率密度関数h(x)が定義されます.また,混合分布の累積分布関数は

  H(x)=∫h(x)dx=∫F(x,θ)g(θ)dθ=∫F(x,θ)dG(θ)

となります.

 これでθに関する重み付き平均を考えたことになりますが,位置母数モデルf(x,θ)=f(x-θ)のとき,hはfとgとの畳み込みそのものです.

 X線,γ線などの電磁波はそれぞれの線スペクトルに固有の幅と分布をもっていて,光の線スペクトルのようなコーシー分布(f):

  f(x)=1/π・β/(β^2+(x-θ)^2)

を示すものを分光器で測定したとすると,分光器には固有の分解能があり,それは正規分布(g)

  g(θ)=1/√2πσexp(-θ^2/2σ^2)

で近似できることが多いわけですから,測定したスペクトルの分布hはコーシー分布と正規分布を合成したものになります.すなわち,フォークト関数(h)はコーシー分布と正規分布の位置混合になっているというわけです.

 また,ある生体システム(g)にあるパルス(f)を入力した場合,出力としてh(t)が観察された場合,たとえば,薬物経口投与後の血中濃度h(t)は,静注後の血中濃度fと吸収速度gの関数として表現することができます.このようにfとgを合成した関数は畳み込みと呼ばれ,一般に,分布のたたみ込みは

  p*q(x)=∫(-∞,∞)p(x-t)q(t)dt

として定義されます.この式は,薬物体内動態評価のみならず,量子力学,数理生物学,赤外線分析,X線回折,クロマトや反応工学および多くの物理現象にわたって現れる普遍的関係式です.

 一方,尺度母数モデルf(x,θ)=f(x/θ)/θのとき,hはfとgの尺度混合であるといいます.g(θ)としてはガンマ分布(カイ2乗分布)が用いられることが多く,たとえば,ポアソン分布(f)をガンマ分布(g)で混合すれば,負の2項分布(h),指数分布を(f)をガンマ分布(g)で混合すれば,パレート分布(h)が得られます.t分布も正規分布(f)のσ2がガンマ分布(g)にしたがうと仮定,すなわちガンマ分布で尺度混合した混合分布です.

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