■ボロノイ細胞と平行多面体(その13)

 今回のコラムでは去る2月14日,仙台にて開催された秋山仁先生の講演会をレポートしたい.

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【1】牛乳のテトラパックと工藤の三角錐

 空間充填形ができるための必要条件は二面角が4直角の整数分の1であることである.たとえば,正四面体の二面角は

  arccos(1/3)=70.5°

であり,一般に三角錐では隙間なく空間を埋めつくすことは不可能である.

 昨年,森義彦先生(福島県立清陵情報高校)より,辺の長さの比が2:√3:√3の三角形を4枚貼り合わせてできる三角錐が単独空間充填三角錐であることを教えていただいた.それが工藤の空間充填三角錐であり,その二面角は90°と60°である.

 先日,秋山仁先生が講演で仙台に来られた折,牛乳のテトラパックが工藤の三角錐そのものであることを知った.牛乳のテトラパックは最近あまり見かけなくなったせいもあってか,正四面体と誤解されていることが多いようであるが,正四面体ではなく(それとよく似た)工藤の三角錐なのである.

 工藤の三角錐(牛乳のテトラパック)は空間充填立体(space filler)であるとともに,その展開図(三角形であれ平行四辺形であれ)も平面充填図形になっている.すなわち,牛乳のテトラパックはダブル充填可能というすばらしい利点をもっていて,ひとつには隙間なく詰め込めるので保管が効率的に行えること,2つ目のメリットはテトラパックの型紙(平行四辺形,長方形)を大きなロール紙から無駄なく裁断できるという点である.

  [参]秋山仁「知性の織りなす数学美」中公新書

にはテトラパック以外にもダブル充填可能な凸n面体が掲載されている.現在までn=4,5,6,7,8,9,12に対してダブル充填可能立体が明らかにされているものの,それらをすべて決定することはかなりの難問であるとのことである.n=10,11は本当に存在しないのだろうか?

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【2】立体ハトメ返しと中川の六面体

 任意の三角形を平行四辺形に直す→長方形に直すことは小学校の教科書にも載っている方法であるが,これによって面積を求める公式が導き出される.

 菱形十二面体や切頂八面体はよく知られた空間充填立体であるが,これらの体積を求めることは容易ではない.しかし,これを同じ体積の直方体に直すことによって,体積を簡単に求めることができるようになる.

 実際,菱形十二面体と直方体の間の立体ハトメ返し,切頂八面体と直方体の間の立体ハトメ返しなど空間充填形同士のハトメ返しが作られていて,秋山仁先生の講演ではそのような小道具を使って菱形十二面体,切頂八面体の体積を求めておられた.

 また,このとき多面体の形が変形するばかりでなく,菱形十二面体,切頂八面体の表面が直方体の内部に隠れることを利用して,黄色(キタキツネ)を緑(ヘビ)に変色させ,キタキツネが一瞬にしてヘビに飲み込まれる様子を表現.ここで一斉に拍手と歓声が起こったことはいうまでもない.

 ところで,中川の空間充填六面体は工藤の三角錐(テトラパック)を4等分したものである.中川の六面体4ピースで工藤の三角錐になる.

 中川の六面体のすごい所は菱形十二面体,切頂八面体にまたがる重要な空間充填多面体であるという点であり,24ピースで切頂八面体,96ピースで菱形十二面体になる.

 また,切頂八面体の表面になっていた部分が工藤の三角錐に組み替えられたとき内部に隠れるという表裏逆転現象も見られる.

 菱形十二面体と切頂八面体の間の相互移行が可能な立体ハトメ返しができればパズル愛好家がよろこぶものになるはず・・・.中川宏さんの検討ではいまのところうまく立体ハトメ返しにはならないようだが,いずれ再チャレンジするつもりとのことである.

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