■n角の穴をあけるドリル(その20)

 (その13)において四角い穴をあけるドリルの模型を製作したが,今回はn=3,5,6のドリルの模型も製作したので紹介する.まず,n角の穴をあけるドリルについて,これまでのまとめをしておきたい.

(1)nが偶数のとき

  円弧の中心はn−1角形の頂点

  n=4 → ルーローの三角形

(2)nが奇数のとき

  円弧の中心はn−1角形の辺の中点

  n=3 → 藤原・掛谷の二角形(例外)

(3)中心の軌跡は楕円の弧の組合せ

  円もどき (n=3を除く)

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【1】六角の穴をあけるドリル

 ルーローの三角形同様「定幅図形」の応用である.正三角形の代わりに正(2q+1)角形とし,各頂点を中心にして円弧を描くと作られる定幅図形(ルーローの多角形)とするだけのことである.

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【2】三角の穴をあけるドリル

 n>3であれば中心の軌跡はほとんど円軌道を描いているといっていいくらいなので,n角の穴をあけるドリルの模型製作は容易である.しかし,n=3の場合,中心の軌跡は円からかけ離れてしまうので,秋山仁先生は(理論的には可能であろうが)実際に作ることは難しいと申しておられた.ところが困難というほどでもなく,思ったより簡単にできあがってしまった.

 円形歯車と非円形歯車の組み合わせであるため,動かしにくいという難点はあるが,構造上仕方がないことである.動作を精密に行わせるためには非円形歯車の1個1個の歯形を変えてやる必要があると思われるが,原理を示す模型であるからそれほど高い精度は必要なかろう.歯車の噛み合わせと軌跡は見ることができるのでこれで良しとしたい.

 なお,非円形歯車を使わずに三角おむすび型軌道を描かせるための方法として,n=3のハイポトロコイド近似,すなわち,藤原・掛谷の二角形の中心から離れた点に円形歯車を固定する方法も考えてみたのだが,そのためには固定子と回転子の歯数比が3:1である必要がある.しかし,三角の穴をあけるドリルの歯数比は3:2であるので,ハイポトロコイド近似は無意味であった.

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【3】五角の穴をあけるドリル

 偶数n角形の穴をあけるドリルは「定幅図形」の応用であるが,逆に,奇数n角形の穴をあけるドリルは「定幅図形」ではできないことは確かである.

 五角の穴をあけるドリルの場合,円弧の中心は四角形の辺の中点にくる.このことは偶数n角形の穴をあけるドリルの円弧の中心がn−1角形の辺の中点にくることから自然に発想されるアイディアであろう.

 当時のノートを読むと私もそのような発想に至っていたのであるが,いつのまにか棄却されていた.それは作図がはなはだ不正確であったうえ,藤原・掛谷の二角形(n=3)の場合のように,円弧の中心をn角形の頂点に置くか,あるいは,奇数n角形の頂点から底辺に下ろした垂線を対角線とする偶数(n−1)角形が正n角形の頂角にピッタリとはまりこむように丸みをつける位置に中心を置いた方が正解と思いこんでしまったからである.

 しかし,n=3の場合だけが例外であって,n=5,7,9,・・・では円弧の中心はn−1角形の辺の中点にくるのである.作図はできる限り正確にを心掛けるべきであり,また,類推あるいは相似思考と呼ばれるものは直感的で人の心にストレートに訴えるものがあるが,往々にして失敗するという教訓である.

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【4】雑感

 ここでは金属板をワイヤー・カット加工した模型を製作したが,いずれアクリル板をレーザー・カットしてn角の穴をあけるドリルの模型を製作するつもりである.これは廉価版を製作するためばかりではなく,軽量版にすることでスピログラフのような動作を実現させたいからである.

 歯車が二重になっていて歯車の穴に鉛筆を差し込んでクルクル回転させると花びら模様が描かれるおもちゃがある.これをスピログラフというらしい.いま,娘達はスピログラフに夢中である.n角の穴をあけるドリルの場合は,歯車の穴に鉛筆を差し込んでクルクル回転させるとn角形が描かれるという代物が考えられる.

 回転円が固定円に接して滑ることなく転がっていくとき,回転円の周上の点の軌跡を考えよう.回転円が固定円に外接するとき,その軌跡をエピサイクロイド,内接するとき,ハイポサイクロイドと呼ぶ.この装置がハイポサイクロイドの応用であることはすぐに理解される.固定円と回転円の半径比R/rが無理数なら曲線は決して閉じないから,有理数倍になっているのであろう.

 一方,エピサイクロイドは地球から見たときの惑星の逆行運動の説明に用いられた曲線で,古代ギリシア人は,惑星の動きを表現するために周転円(円の周りをまわる円)を考えていたことが知られている.

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