■n角の穴をあけるドリル(その14)

 (その7)(その8)で示したように,n角の穴をあけるドリルの軌跡を描くと,ドリルの円弧をなす曲線族が覆っている領域の境界に新しい曲線が得られます.この曲線を包絡線と呼ぶのですが,楕円なのか,ほかの円錐曲線なのか,それらとも異なる曲線なのか・・・.今回の問題はこの包絡線の方程式を求めることです.

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【1】包絡線の求め方

 曲線:y=f(x,θ)において,パラメータθが動くとき,θとθ+Δθに対応する2本の隣り合った曲線を考えると,その交点はΔθ→0の極限で包絡線上の点となります.

 xを固定するとき,この交点のy座標はパラメータθが変わっても変化しないことで特徴づけられますから,

  ∂y/∂θ=0 → θ=g(x)

を求め,元の方程式に代入すると包絡線の方程式

  y=f(x,g(x))

が得られます.

 自明な例として,x軸上を転がる半径rの円を考えます.中心が原点から距離ξ(θ)だけx方向に離れた円の方程式は

  (x−ξ(θ))^2+(y−r)^2=r^2

  y=r±{r^2−(x−ξ(θ))^2}^(1/2)

  ∂y/∂θ=0 → (x−ξ(θ))dξ/dθ=0

より,x=ξ(θ)を元の方程式に代入すると

  y=0,y=2r

となって,x軸とそれに平行な直線が包絡線となることがわかります.

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【2】ドリルの場合

 n角の穴をあけるドリルの場合は,もちろんこんなに簡単ではありませんが,同様のアイディアで包絡線の方程式を求めることができます.中心の軌跡が(ξ(θ),η(θ))でパラメータ表示される半径rの円

  (x−ξ(θ))^2+(y−η(θ))^2=r^2

  y=η(θ)±{r^2−(x−ξ(θ))^2}^(1/2)

の一部がドリルの円弧であるとき,

  ∂y/∂θ=0 → (x−ξ(θ))dξ/dθ+(y−η(θ))dη/dθ=0

 これより,包絡線の方程式は

  x=ξ(θ)+rdη/dθ/{(dξ/dθ)^2+(dη/dθ)^2}^(1/2)

  y=η(θ)−rdξ/dθ/{(dη/dθ)^2+(dξ/dθ)^2}^(1/2)

および

  x=ξ(θ)−rdη/dθ/{(dξ/dθ)^2+(dη/dθ)^2}^(1/2)

  y=η(θ)+rdξ/dθ/{(dη/dθ)^2+(dξ/dθ)^2}^(1/2)

とパラメータ表示されます.

 これは中心の軌跡(ξ,η)と直交する方向(法線方向)にrだけ離れた2点の軌跡です.すなわち,中心の軌跡の平行曲線を描くというわけです.実際に描いてみると,以下のようになります.

[1]n=3

[2]n=4

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【3】ドリルの包絡線の性質

 ドリルの中心の描く軌跡は楕円(を区分的に連結させたもの)ですから,(ξ,η)の軌跡は楕円上に中心をおく円周上を回転する点の軌跡に帰着されます.その性質を決めるために,単純にパラメトライズすると,

  ξ=acosθ+ccosφ

  η=bsinθ+csinφ

と書くことができます.

 もっと単純化して

  ξ=2cosθ+ccos3θ

  η= sinθ+csin3θ

なる具体例を考えてみましょう.パラメータcをc=0→1/3→2/3→1と変化させると,c=2/3ではこの曲線に2箇所の尖点がみられます.θ=±π/2のとき,dξ/dθ=0となることが計算でも確かめられます.

 これは閉曲線の正則変形でない例でしたが,滑らかさを保ったままの変形(正則変形)の例として,楕円上に中心をおく単振動する点の軌跡

  ξ=2cosθ

  η= sinθ+csin3θ

をあげておきます.

 以上のことより,どうやら(ξ,η)の軌跡は円錐曲線(2次曲線)では表せないようです.まして包絡線

  x=f(ξ,η,dξ/dθ,dη/dθ)

  y=g(ξ,η,dξ/dθ,dη/dθ)

が円錐曲線になることは考えにくいというわけです.

 なお,コラム「楕円の平行曲線」を参照すれば,包絡線と曲率が互いに関連した問題であることがおわかり頂けるでしょう.直線の場合,「平行曲線」は平行線であり,円の場合は同心円になります.直線と円は曲率が一定の平面曲線で,曲率一定の平面曲線は直線と円に限られます.ある曲線(ξ,η)の平行曲線(x,y)が特異点を作らずに平面をただ一回だけ覆いつくすためには,曲率一定の直線と円のみがこの性質を満たします.

 曲率について考えると縮閉線や伸開線の概念に自然にたどりつきます.縮閉線は元の曲線の法線族の包絡線であって,ところどころで尖った点がみられることがあります.それらは特異点と呼ばれます.また,曲線上で曲率が極大,極小になる点を頂点といいます.円の曲率は一定ですが,楕円には極大と極小が2つずつ計4個の頂点があります.「単純閉曲線上には頂点が少なくとも4個存在する」というのが4頂点定理です.そして,曲線の頂点は対応する縮閉線上に特異点を作ります.・・・

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