■正三角形と六斜術(その15)

 三角形の面積は,ヘロンの公式

  S=(s(s−a)(s−b)(s−c))^1/2,

  s=(a+b+c)/2

で求めることができる.

 和算では,三角形の内接円を考えて,3つの頂点から内接円への接線の長さをd,e,fとすると,

  S=(def(d+e+f))^1/2

というのが和算におけるヘロンの公式の標準形らしい.

  a=d+e,b=e+f,c=f+d

であるから,

  s=d+e+f,

  s−a=f,s−b=d,s−c=e

となって,ヘロンの公式

  S=(s(s−a)(s−b)(s−c))^1/2,

と一致する.

 一方,内接円の半径は

  1/2・2(d+e+f)・r=S

であるから,

  r=(def/(d+e+f))^1/2

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【1】トリック(ブラーマグプタの公式)

 4辺の長さを与えてもその形は決まらないので,そのような公式は期待できないが,四角形が円に内接するとき,面積は最大値をとり,ブラーマグプタの公式

  S=((s−a)(s−b)(s−c)(s−d))^1/2,

  s=(a+b+c+d)/2

が成り立つ.

 四角形の内接円を考えて,4つの頂点から内接円への接線の長さをe,f,g,hとすると,

  a=e+f,b=f+g,c=g+h,d=h+e

であるから,

  s=e+f+g+h

  s−a=g+h,s−b=h+e,s−c=e+f,s−d=f+g

  s−a=c,s−b=d,s−c=a,s−d=b

となって,

  S={(g+h)(h+e)(e+f)(f+g)}^1/2,

  S={abcd}^1/2,

となる.

 こんな簡単な形になるはずはない.実際,

  S^2=(s−a)(s−b)(s−c)(s−d)

=(b+c+d−a)(a+c+d−b)(a+b+d−c)(a+b+c−d)/16

={(c+d)^2−(a−b)^2}{(a+b)^2−(c−d)^2}/16

={(a+b)^2(c+d)^2+(a−b)^2(c−d)^2−(c^2−d^2)^2−(a^2−b^2)^2*/16

=2a^2b^2+2a^2c^2+2a^2d^2+2b^2c^2+2b^2d^2+2c^2d^2−a^4−b^4−c^4−d^4≠abcd

となる.

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【2】種明かし

 円に内接する四角形が内接円をもつことは少ない.外接円と内接円の両方もつ四角形を双心四角形と呼ぶことにすると,双心四角形では,外接円と内接円の中心間の距離をdとおくとき,

  2r^2(R^2+d^2)=(R^2−d^2)^2   (フースの定理)

が成り立つ必要がある.

  S={abcd}^1/2,

が成り立つのは,双心四角形というわけである.

 なお,三角形では,外接円と内接円の中心間の距離をdとおくとき,

  R^2−2Rr=d^2

が成り立っている(オイラーの定理).

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