■ボロノイ細胞と平行多面体(その9)

 一般に三角錐では隙間なく空間を埋めつくすことは不可能であるが,森義彦先生(福島県立清陵情報高校)より,特殊な単独空間充填三角錐が存在することを教えていただいた.この三角錐は辺の長さの比が2:√3:√3の三角形を4枚貼り合わせてできるもので,「工藤滋の空間充填三角錐」と呼ばれている.

 工藤の三角錐は,菱形十二面体の分割から出発して発見されたものであるが,中川宏氏は切頂八面体の分割から「中川宏の空間充填六面体」を発見した.驚いたことに,中川宏の空間充填六面体4個を併せると工藤の空間充填三角錐ができる.

 菱形十二面体の六分割と同じ方法で切頂八面体の六分割を試みたら何かできるに違いないとは想像していたものの,それが工藤の三角錐になるとは思いも寄らなかった.それにしても面白い結果である.

===================================

【1】工藤の空間充填三角錐の計量

 辺の長さの比がa:b:c=2:√3:√3の二等辺三角形を4枚貼り合わせると,長さ2の辺を挟む二面角が90°,長さ√3の辺を挟む二面角は60°の三角錐ができる.

 この4枚の三角形は合同であるから,この四面体は等積四面体である.

  a=d≠b=e=c=f

また,相対する3組の辺のうち,長さ2の辺1組の辺だけが直交する.

  a^2+d^2≠b^2+e^2=c^2+f^2

 一般の四面体と正四面体の間に「等積四面体」と「直交四面体」という2種の特徴ある四面体の族があり,等積四面体かつ直交四面体であるのは正四面体に限られる.そこで,1組の辺だけが直交する四面体を半直交四面体と呼ぶことにすると,同じ二等辺三角形4枚の組合せは等積四面体かつ半直交四面体となる.

 工藤の空間充填三角錐は等積四面体かつ半直交四面体となる特別な四面体である.最も正四面体に近い三角錐という見方もできるであろう.コピーしてそのまま組み立てられるように,臼井和也氏(東北大学・金属研究所)にお願いしてその展開図を描いてもらった.

===================================

【2】中川の空間充填六面体の計量

 切頂八面体を六角形面の中心を通るように六分割するとダイヤモンドの指輪のような9面体(4^55^4)ができるが,さらにこれを正方形面が田の字になるように4等分すると,正方形1枚,大きな凧形1枚,小さな凧形2枚,不等辺四角形2枚からなる6面体(4^6)となる.

 この中川の六面体を4つ,小さな凧形と正方形が内側に隠れるように併せると四面が合同な三角錐が得られるのだが,各面は辺の長さの比が2:√3:√3の三角形となっていて,工藤の空間充填三角錐であることがわかる.

 とはいっても頭の中でこのことを想像することはむずかしいし,実物を手にしてもいざ組立てようとすると迷ってしまう.中川の六面体にはパズルのような面白さがある.

 以下に,その計量と展開図を掲げる.正方形の辺の長さを1とすると

小凧:辺の長さは1:√3

   内角は(90°×2,120°,60°)

大凧:辺の長さは√3:√6

   内角は(90°×2,109.471°,70.5288°)

不等辺四角形:辺の長さは1:√3:√6:2√2

       内角は(90°×2,125.264°,54.7357°)

 また,二面角は

正方形・小凧間(125.264°)

小凧・小凧間(109.471°)

小凧・大凧間(90°)

正方形・不等辺四角形間(90°)

小凧・不等辺四角形間(90°)

大凧・不等辺四角形間(60°)

不等辺四角形・不等辺四角形間(90°)

===================================

【3】立体蝶番返し

 正三角形が4つの断片に切り分けられていて,ハトメを中心として回転させると正方形に変形するというパズルをご存知でしょうか? もちろん正三角形と正方形の面積は等しいのですが,このパズルには平面充填形(タイル張り)の理論が潜んでいることに気づけばその切り分け方を見いだすことができます.

 私はこのことをスタインハウス「数学スナップショット」紀伊国屋書店の冒頭で知ったのですが,デュドニーのカンタベリー・パズルと呼ばれているそうです.デュドニーのカンタベリー・パズルは正三角形をそれと等積の正方形に直す問題ですが,正五角形や正六角形を切り刻んで正方形に再構成する仕方も知られています.また,正六角形をいくつかの小片に切り離して並び替え正八角形をつくることや星形を正方形にかえることも可能です.

 デュドニーのカンタベリー・パズルは「平面ハトメ返し」による分割合同なのですが,立体の2つの断片のどれかの辺を蝶番でつなぐことによって「立体蝶番返し」を考えることができます.菱形十二面体や切頂八面体はよく知られた空間充填立体ですが,実際,菱形十二面体と直方体の間の立体蝶番返し,切頂八面体と直方体の間の立体蝶番返しなど空間充填形同士の蝶番返しが作られています.

 工藤の空間充填三角錐や中川の空間充填六面体は菱形十二面体,切頂八面体にまたがる重要な空間充填多面体ですが,菱形十二面体と切頂八面体の間の相互移行が可能な立体蝶番返しができればパズル愛好家がよろこぶものになるはず・・・.中川宏さんの検討ではいまのところうまく立体蝶番返しにはならないようですが,いずれ再チャレンジするつもりとのことです.

  ○菱形十二面体と直方体の間の立体蝶番返し

  ○切頂八面体と直方体の間の立体蝶番返し

  ×菱形十二面体と切頂八面体の間の立体蝶番返し

 なお,任意の三角形を平行四辺形に直す→長方形に直すことは小学校の教科書にも載っている方法ですが,平面上に面積の等しい2つの多角形が与えられたとき,どちらにも組み立てられる有限個の小片が必ず存在します(ボヤイ・ゲルヴァインの定理,1833年).そこで,1900年,ヒルベルトは体積の等しい2つの多面体が切断によって合同かどうかを問いかけました.それに対して,1901年,デーンは体積の等しい立方体と正四面体は切断によって合同でないという結果を証明しました.任意の三角形は長方形と分割合同であることが証明されるので,デーンの定理は2次元と3次元の違いを際立たせていることになります.

===================================