■多面体はDNAをもっている(学会抄録版)

 準正多面体は,

[1]正多面体を切頂する(切頂型)

[2]さらに切稜を加える(切頂切稜型)

ことによって作ることができる.切稜だけでは準正多面体はできないが,切頂あるいは切頂と切稜を組み合わせることによって,ねじれ型を除く11種類の準正多面体ができあがる.

 たとえば,切頂八面体を作るには

[1]正八面体を辺の3等分点で切頂する={3,4}(110)

[2]立方体を(辺の中点を越えて)辺長の3/4の点で切頂する={4,3}(011)

[3]正四面体を辺の中点で切頂して,辺長の1/6の点で切稜する(これはいったん正八面体を作ってから,辺の3等分点で切頂することと同じ操作である)={3,3}(111)

の3通りが考えられる.

 ここで切頂八面体の頂点数,辺数,面数を3通りの方法で数え上げてみてほしい.2円または3円が交わったヴェン図を描いたことがあるだろう.[2]では包除原理が必要になるが,2円の場合,共通部分がひとつ,3円の場合は2円の共通部分が3つ,3円の共通部分がひとつできる.中学・高校で4円以上が取り扱われることはまずないが,n円となっても原理は同じで,共通部分に含まれるものを引いて,引き過ぎた分を足し直してということを繰り返すのである.

 ところで,3次元では実際に数えることもできるが,4次元以上ともなるとみることも数えることもできないし,直観も効かなくなる.ではどうするか? 実は,切頂八面体の頂点数,辺数,面数を3通りの方法で数え上げることができれば,高次元の準正多面体の場合もうまく行くのである.その数え上げアルゴリズムをここに記すには余白が少なすぎるので,そのアイディアのみを述べる.多くの読者にとってかなり意外なものであろうと思う.

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[1]多面体に遺伝子を導入する.

 DNAは4つの塩基(A・C・G・T)をもっていて,たとえば,

  TGTGTGAACCCCTTGCCAAA・・・

のように並んでいる.あるものはアミノ酸と対応し,あるものは翻訳の開始と停止をコードする.

 無生物である多面体にも,それによって多面体の形が一意に定まるDNAのようなものを導入する.それは0/1からなるn桁の数字の並びである(仮にワイソフ情報と呼ぶことにする).ワイソフ情報のあるものは切頂あるいは切稜と対応し,あるものは切断の開始と停止をコードする.DNAとの大きな違いは,DNAの情報読みとりは単方向性であるのに対し,ワイソフ情報は双方向性であることである.

 冒頭に書いたように,ワイソフ記号はシュレーフリ記号と一緒に用いられる.シュレーフリ記号は準正多面体のもととなる原正多面体(親)を表すのに対して,シュレーフリ記号は子を表す.

  {3,4}(100)={3,4}:正八面体

  {3,4}(001)={4,3}(100)={4,3}:立方体

  {3,4}(110)={4,3}(011):切頂八面体

[2]遺伝子コードを解読する.

 正多面体は順序づけられた基本単体系列(旗)で構成されるが,準正多面体でも一連の多面体の階層構造が存在する.下層構造を所与とした場合,これらの解の有限集合から上層の解を導く漸化式が存在する.具体的には行列の所定の位置に下層構造の解を代入し,行列とベクトルの積を計算することによって,高次元準正多面体のk次元面数を計算することができる.

 また,準正多面体の体積は,ワイソフ情報が双方向性読みとりであることに対応して,順方向と逆方向の下層構造を所与として解を導くアルゴリズムが存在する.

[3]数え上げアルゴリズムを鑑賞する.

 高次元図形の計量について,はじめは複雑な問題・手強い問題だと感じていたが,問題を解決したとたんに,結局のところ実に単純な問題だったことが判明した.完成したあとからながめてみると,小学生が解いたとしてもおかしくない初等的な方法を素朴に高次元に敷衍しただけになっていることが実におもしろい.

 ともあれ,高次元準正多胞体の基本計量がいざできあがってみると,かくも簡単な計量がなぜこれまで知られていなかったのか不思議でならないのだ.結局うわべの難しさに怖じ気づいていただけなのである.真理とは案外そういうものなのかもしれない.高次元図形についてあまり怖じ気づく必要はない.

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[後記]

 ワイヤーフレームモデルは図形を網目として素通しで見るものであるから,複雑な手順を必要としない最も簡単な表示法であった.その反面,表示された図形はリアリティーに欠けるものになってしまう.

 われわれ3次元人は所詮高次元図形を見ることはできないけれど,ソリッドモデルはリアリティーの高い図形を供給してくれるので,見る人のイマジネーションをかき立て,多くのインスピレーションを生み出すことができる.つまり,ソリッドモデルは高次元図形の世界の風景を一変させてくれるのである.私の知る限り,

  石井源久「多次元半正多胞体のソリッドモデリングに関する研究」

が具体的で本格的なソリッドモデル研究の最初のものであろう.

 私は「多次元半正多胞体のソリッドモデリングに対する研究」を2年ほど前にご本人から謹呈して頂いたのであるが,その考察はすばらしいの一言につきる.このような立派な研究が行われていたことをまったく知らなかったことを恥じ入るばかりであった.

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