■4次元図形の基礎雑学(その3)

 正多面体が5種類(正4面体,立方体,正8面体,正12面体,正12面体)しか存在しないことはギリシャ以来知られてきた.自然界の複雑さ・深遠さの一方で,古代の人々は5種類しか存在しない正多面体に神の摂理を見ていたのである.

 のちに,方程式の根の置換群が正多面体群となるものを研究していたクラインは「正20面体と5次方程式」の中で正多面体群と方程式論が交差する美しい小宇宙を論じている.また,クラインは3次元空間内の回転対称図形は巡回群か,二面体群か,3種類の正多面体群(正四面体群,正八面体群,正二十面体群)のどれかに分類できることを証明した.

 正四面体系(正5胞体系)と正八面体系(正16胞体系)は任意のn次元空間に拡張されるが,正二十面体系(正600胞体系)は3次元と4次元空間のみ,正24胞体系は4次元空間にのみ存在する.

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【1】基本単体

(問)1つの3角形を辺に関して次々折り返していって,3角形が互いに重なることなく,平面を埋めつくすことができるか?

(答)2次元図形の基本単体は

  (6,6,6) → 正三角形

  (4,8,8) → 直角二等辺三角形

  (4,6,12) → 30°,60°,90°の三角形

  (3,12,12)→ 30°,30°,120°の三角形

の4通りある.

 それでは3次元図形の基本単体はどうかということになりますが,その前に一般的なn次元図形の基本単体を考えてみます.n次元空間の正多胞体とは「n個の超平面に囲まれ,全体の中心onから各頂点o0,各辺の中点o1,各面の中心o2,・・・,各超辺の中心on-2,各超平面の中心on-1までの距離がそれぞれ相等しく,そのm次元成分はすべてm次元の正多胞体である」と定義されます.

 このとき,onon-1・・・o1o0を結んだn次元単体を「基本単体」と呼びます.o0o1,o1o2,・・・,on-1onは互いに直交するので,n次元正多胞体の諸量を計算するための基本となっています.基本単体は万華鏡のように隣同士が互いに鏡像形で,半分ずつが互いに合同です.

 基本単体の個数gは正多胞体にとって最も大切な基本量です.基本単体は隣同士が鏡像形であり,半分ずつが互いに合同であることより,3次元正多面体の基本単体の個数は

  g=2pf=2qv=4e

すなわち,正多面体の辺の個数eの4倍と等しくなります.

  正4面体(自己双対)      → 24

  正6面体(正8面体と双対)   → 48

  正12面体(正20面体と双対) → 120

 基本領域は超球面上,または,ユークリッド空間内の単体になるのですが,それに応じて有限群(正多面体)か離散無限群(空間充填形)になります.ちなみに

  正5胞体(自己双対)        → 120

  正8胞体(正16胞体と双対)    → 384

  正24胞体(自己双対)       → 1152

  正120胞体(正600胞体と双対) → 14400

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【2】ワイソフ構成

 3次元正多面体の基本単体を外接球面上に投影すると,合同な三角形(シュワルツの三角形)を描きます.

  正4面体(自己双対)      → 球面24面体

  正6面体(正8面体と双対)   → 球面48面体

  正12面体(正20面体と双対) → 球面120面体

 この球面多面体上に1点をとり,すべての稜に関して鏡映すると,それぞれの正多面体群の回転対称性と鏡映対称性をもつ多面体の頂点が得られます.このような構成法をワイソフ構成と呼びます.

 基準点の取り方は単位三角形の内部にあるか,3辺のうちどの上にあるか,3頂点のうちどの上にあるかの7種類あります.7種類の位置に応じてですが,たとえば単位三角形の内部にある場合は[111]で与えられます.切頂8面体は正4面体系の[111]です(V=24,E=36,F=14)

 4次元正多胞体で得られる単位4面体については,内部にあるか,4面のうちどの上にあるか,6辺のうちどの上にあるか,4頂点のうちどの上にあるかの15種類あり,15種類のいずれかに決めればすべての頂点の位置を決定することができます.コラム「4次元図形の基礎雑学(その2)」に掲げた切頂八面体(466)×10と正六角柱(644)×20からなる4次元空間充填図形

  V=120,E=240,F=150,C=30

  1つの頂点の周りに集まる胞数は(466)×2,(644)×2

は正5胞体系の[1111]ということになります.

 なお,正120胞体の600個の頂点をうまくとると,他の4次元正多胞体(正5,8,16,24,600胞体)がすべて作れるので,その意味で正120胞体は4次元の万能正多面体です.3次元の正十二面体はその頂点から正四面体,正六面体を作ることができますが,正八面体や正二十面体を作ることはできません.

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 同様に,n次元正多胞体で得られる単位n+1胞体については,2^n−1種類の構成要素ののどこにあるかを決めればすべての頂点の位置を決定することができます.

 fkをn次元多面体のk次元面の数とし,

  (f0,f1,・・・,fn-2,fn-1)

を構成要素とするn次元正多胞体では,組み合わせ的方法によって,k次元胞数fkが求められます.たとえば,正単体では

  fk=(n+1,k+1)

なのですが,k=n−1のときfk=n+1であって,胞数はn+1と計算されます.同様に,双対立方体では

  fk=2^k+1(n,k+1),k=n−1のとき,fk=2^n

立方体では

  fk=2^n-k(n,k),k=n−1のとき,fk=2n

となります.

 もちろん,

  正単体:fk=(n+1,k+1)

  双対立方体:fk=2^k+1(n,k+1)

  立方体:fk=2^n-k(n,k)

はオイラー・ポアンカレの定理:

  f0−f1+f2−・・・+(−1)^(n-1)fn-1=1−(−1)^n

すなわち,nが奇数なら2,偶数なら0を満たします.この定理は正多胞体に限らず,n次元凸多胞体について常に成立します.

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【3】平行多面体による空間充填

 3次元空間を埋め尽くす正多面体は立方体のみです.1種類の正多胞体による空間充填形をまとめると,平面充填形3種類,3次元空間充填形1種類,4次元空間充填3種類,5次元以上の空間充填形は1種類ということになります.5次元以上の空間でもn次元立方体のみが空間充填図形となるのに対して,4次元空間の充填図形は多彩です.

 1種類の平行多面体による3次元空間の周期的充填図形は,立方体,正六角柱,切頂八面体,菱形十二面体,長菱形十二面体の5種類あります.規則的なn次元平行多胞体は,n次元立方体[0・・・01],n次元切頂八面体[1・・・10],正n+1胞体系の[1・・・1],正2^n胞体系の[1・・・1]があり,これらは1種類あるいは何種類かを混合させた形でn次元空間を周期的に充填します.

 3次元空間の場合,正8面体を切頂すると切頂8面体ができ単独空間充填図形となりますが,4次元切頂16胞体の場合は4次元立方体と混在させないと空間充填できません.一般のn(≧4)次元において,3次元立方体と切頂8面体の組合せた切頂2^n胞体とn次元立方体を混在させたn次元空間充填図形が存在します.

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