■売れない本

 理論(theory)と実践(practice)は,いわば車の両輪として現在の科学の体系を築き上げてきました.理論なくして実践なし,実践あってこその理論であって,理論と実務,問題を問いかける者と問題を解く者双方の活躍があって科学が発展してきたことはまず間違いないところで,また,実践なしに科学の理論的発展は望めなくなったことも確かです.二つのバランスがうまくとれないと科学の進歩はままならないのです.

 小学生の算数教育に対しても,まさにそのことがあてはまり,理論を学んでもそれを用いる機会が乏しければ理論は身につきませんし,身につかなければ理論を学んだことにはなりません.

 先日,秋山仁先生が,

  「新しい算数の話:5年生」

  「新しい算数の話:6年生」いずれも東京書籍

が売れないとこぼしておられました.

 ホーキング博士はその著書「ホーキング,宇宙を語る」の中で,一般書に数式をひとつ載せるごとに売れ行きは半減すると書いていますが,数式を使った説明と言葉による説明とどっちがよいかと問われたら,たいていの人は後者を選ぶに違いありません.

 しかし,当該書においては,方程式をまったく使わないで解説してありますし,理論よりも実際的側面を強調しているようです.少し難しい問題を扱っているかもしれませんが,そもそも日本の算数教育が抽象的なことを教え過ぎていることへの反抗から生まれた本なのです.

 この本については,実は何回かの営業上のすったもんだがあったと聞いております.売れる本がいいものであるとは限りませんが,本は売れなければその存在証明にならず,たとえ下らぬ俗書と呼ばれても売れれば勝ちです.販売戦略の常套手段として有用性よりも採算性を重視するのは当然のことなのでしょうが,自然科学にたずさわる者と出版文化にたずさわる者の考えの間には正反対に近い違いがあることを実感させられました.

 本稿を読んで,興味を持たれた方は,ぜひ

  「新しい算数の話:5年生」

  「新しい算数の話:6年生」いずれも東京書籍

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