■正四面体の幾何学(その2)

 一般の平行四辺形と正方形の間には,長方形と菱形という2種の平行四辺形の族が存在する.長方形かつ菱形であるのは正方形に限られる.一般の平行六面体と立方体の間には,直方体と菱形六面体という2種の平行六面体の族が存在する.直方体かつ菱形六面体であるのは立方体に限られる.

 一般の四面体と正四面体の間にも,「等積四面体」と「直交四面体」という2種の特徴ある四面体の族があり,等積四面体かつ直交四面体であるのは正四面体に限られる.

 等積四面体の定義は本来の定義は4面の面積が等しい四面体であるが,

  等積四面体=4面が合同な鋭角三角形より四面体

に限られるというのが「バンの定理」である.

 また,直交四面体は相対する3組の辺が直交する四面体である.2組の対辺が直交すればもう1組の辺も直交するから,2組の辺だけが直交する四面体は存在しない.そこで,1組の辺だけが直交する四面体を半直交四面体と呼ぶことにすると,コラム「ボロノイ細胞と平行多面体(その6)」で取り上げた工藤の空間充填三角錐は等積四面体かつ半直交四面体となる特別な四面体である.最も正四面体に近い三角錐という見方もできるであろう.

 今回のコラムでは2種類の特別な四面体に関する話題をまとめることにした.任意の四面体は平行六面体に埋め込んで,ひとつおきに結んだ形に表現できる.その平行六面体を外包平行六面体と呼ぶ.一方,四面体の各辺の中点を結ぶと,対面が互いに合同な三角形からなる内包八面体ができる.以下に要点を示す.

           等積四面体        直交四面体

外包平行六面体  :  直方体         菱形六面体

内包八面体の軸  :  直交            等長

対辺の中点を結ぶ線:  直交            等長

対辺       :  等長          2乗の和が共通

面        :合同な鋭角三角形       特徴なし

心        :重心・外心・内心が一致    垂心が存在

垂線の足     :ド・ロンシャン点        垂心

  [参]一松信「現代に活かす初等幾何学入門」岩波書店

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【1】一般の四面体(モンジュ点とオイラー線)

 三角形の外接球,内接球の半径をそれぞれR,rとすれば,R≧2rが成り立つ.三次元空間では三角形は四面体に,正方形は立方体に,正五角形は正十二面体に,円は球に拡張されると考えられる.実際,三次元空間において四面体ではR≧3rが成り立つ(n次元ではR≧nrとなることが知られている).

 このように,3次元空間の四面体は2次元平面の三角形の拡張で三角形の性質は四面体に遺伝するが,同様に扱うことができる面と性質が異なる面がある.たとえば,外心,内心,重心,傍心は任意の四面体に存在するが,垂心は必ずしも存在しない.

 しかし,各辺の中点を通って対辺に垂直な6枚の平面は1点(モンジュ点)で交わる.モンジュ点,重心,外心は同一直線(オイラー線)上にあり,重心はその中点である.

 三角形の外心と重心と垂心はその順番に一直線上に並んでいて,外心と垂心を結ぶ線分が重心によって1:2に内分される.この共線はオイラー線と呼ばれる.三角形のオイラー線では,重心は外心と垂心を結ぶ線分を1:2に内分するが,四面体ではそれが1:1であるというわけである.

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[補]任意の三角形の三辺の長さをa,b,c,面積をSとすると,

  (4S)^2=(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−ここで,2s=a+b+cとおくと

  S^2=s(s−a)(s−b)(s−c)   (ヘロンの公式)

となり,おなじみの平面三角形のヘロンの公式が得られる.

 また,三角形の外接円(半径R)と内接円(半径r)の中心間の距離をdとおくとき,

  R^2−2Rr=d^2

が成り立っている.この定理は1746年にチャップル,1765年にオイラーがチャップルとは独立に証明した.欧米ではオイラーの定理と呼ばれるのだが,ここではチャップル・オイラーの定理と呼ぶことにする.

 この関係式を導き出せば,ただちにR≧2rがわかるが,この関係式を導き出すことは見かけよりもやっかいで,ヘロンの公式を使ったほうがほうが簡単である.

 一方,円に内接する四角形については,プトレマイオス(トレミー)の定理「円に内接する四角形の対角線の積は,対辺の積の和に等しい」がある.

  AC・BD=AB・CD+BC・DA

 この定理において,もし四角形が長方形ならば

  AC^2=AB^2+BC^2

となり,ピタゴラスの定理に帰着し,4点が同一円周上にないとき,不等式

  AC・BD<AB・CD+BC・DA

が成り立つ.

 なお,円に内接する四角形では

  S^2=(s−a)(s−b)(s−c)(s−d)

内接円と外接円の両方をもつ四角形(双心四角形)では,

  2R^2(r^2+d^2)=(r^2−d^2)^2    (フースの定理)

が成り立つ.フースは双心五角形,六角形,七角形,八角形に関する同様の公式も見つけている.

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【2】等積四面体

 等積四面体では重心・外心・内心が一致する(2点が一致すれば、他の1点も同じ点になる).内接球と各面の接点は各面の外心であり,傍接球と各面の接点は各面の垂心である.4つの傍接球の半径は等しく,内接球の半径の2倍である.また,1頂点から対面に引いた垂線の足はその面の外心に対してその面の垂心と対称な位置(ド・ロンシャン点)にある.

[補]三角形の外心に対する垂心の対称点をド・ロンシャン点と呼ぶ.△ABCの各頂点を通って対辺に平行な直線を引き,その交点をG,H,I,△GHIを大三角形と呼ぶことにすると,両者の重心とオイラー線は一致する.もとの三角形の垂心は大三角形の外心に,外心は9点円の中心に,ド・ロンシャン点は垂心になる.このことが3本の垂線が1点で交わる証明にもなっている.ついでながら,△ABCの各辺の中点をD,E,Fとすると,△ABCの内心は△DEFの外心となっていることを申し添えておく.

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 一般の四面体のヘロンの公式は,

  (12V)^2=a^2d^2(b^2+c^2+e^2+f^2−a^2−d^2)

         +b^2e^2(c^2+a^2+f^2+d^2−b^2−e^2)

         +c^2f^2(a^2+b^2+d^2+e^2−c^2−f^2)

       −a^2b^2c^2−a^2e^2f^2−d^2b^2f^2−d^2e^2c^2

 一見複雑であるが,相対する線分の2乗の積に,他の線分の2乗の和から自分自身の2乗を引いた量をかけた和が

  a^2d^2(b^2+c^2+e^2+f^2−a^2−d^2)

 +b^2e^2(c^2+a^2+f^2+d^2−b^2−e^2)

 +c^2f^2(a^2+b^2+d^2+e^2−c^2−f^2)

であり,4個の三角形の周辺3本の2乗の積の和が

  a^2b^2c^2+a^2e^2f^2+d^2b^2f^2+d^2e^2c^2

である.

 この公式はオイラーの公式とも呼ばれるものであるが,複雑であり平面三角形のヘロンの公式のように因数分解できない.ただし,等積四面体の場合,

  a=d,b=e,c=f

であるから

  72V^2=(−a^2+b^2+c^2)(a^2−b^2+c^2)(a^2+b^2−c^2)

と因数分解した形で簡易化して表される.なお,等積四面体ではチャップル・オイラーの定理に類似の公式は成立しない.

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【3】直交四面体と垂心

 一般の四面体では各頂点から対面に引いた4本の垂線が1点で交わるとは限らないが,直交四面体では同一点で交わり,垂心が存在することになる(この垂心はモンジュ点と一致する).逆に,垂心が存在するならば直交四面体である.垂線の足はその面の垂心である.また,直交四面体では空間のオイラー線を各面に正射影すると,各面のオイラー線になる.

 相対する辺が直交することと相対する辺の2乗の和が3組共通であることは同値である(相対する辺が直交する=相対する辺の2乗の和が3組共通).

  a^2+d^2=b^2+e^2=c^2+f^2

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[補]三角形の外心と重心の中点はフォイエルバッハの9点円の中心であり,フォイエルバッハの9点円は各辺の中点,各頂点から対辺へ下ろした垂線の足,頂点と垂心の中点の9個の点を通る円となっている(1821年:ポンスレとブリアンション).

 このことから,オイラー線(1767年)は外心・重心・垂心・フォイエルバッハの9点円の中心を相互に結ぶ直線ということになるし,フォイエルバッハの9点円の中心はオイラー線の中点で,その半径は外接円の半径の半分となる.

 フォイエルバッハの9点円が三角形の内接円と傍接円の各々に接するなど,三角形のような簡単な図形が無数に未知の性質を有することはまことに不思議なことであるが,直交四面体では三角形のファイエルバッハの9点円類似の12点球が存在することが知られている.

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