■ボロノイ細胞と平行多面体(その6)

 正三角形の各辺の中点を結ぶとミツウロコ型の4個の正三角形に分割される.これは相似比1:2→面積比1^2:2^2=1:4であることを示している.それでは,正四面体の各辺の中点を結んで頂点を切り落とすとどうなるのだろうか?

 たいていの人は5個の同じ大きさの正四面体に分割されると答える.正三角形の場合の4個の正三角形に分割されることからの類推なのであろう.しかし,相似比1:2→体積比1^3:2^3=1:8であるから,5個の同じ大きさの正四面体に分割されるはずはない.それでは8個の同じ大きさの正四面体に分割されるのだろうか?

 答えはNo.もとの正四面体の表面にある4枚の正三角形と切断面に新たにできる4枚の正三角形の計8枚の正三角形面をもつ多面体ができるのだから正八面体が現れるというが答えである.この正八面体の体積は切り落とした正四面体4個分(元の正四面体の半分)である.また,正四面体の二面角は70.5°であるが,正八面体の二面角と補角(足して180°)をなすことも理解される.

 このように正四面体は直感の働きにくい厄介な存在である.直交座標よりも正四面体の3辺が作る斜交座標を使う方が便利なのだが,・・・.

 一般に三角錐では隙間なく空間を埋めつくすことは不可能である.ところが,森義彦先生(福島県立清陵情報高校)より,特殊な単独空間充填三角錐が存在することを教えていただいた.今回のコラムでは,工藤の空間充填三角錐(辺の長さの比が2:√3:√3の三角形を4枚貼り合わせてできる三角錐)を紹介したい.

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【1】工藤の空間充填三角錐の木工製作

 辺の長さの比が√2:√2:1の四角柱の天地面の正方形に対角線(長さ2)を描き入れる.このとき,天面と地面に対角線は互いに直交方向を向くようにする.この対角線の両側を45°の角度で切り落とすと,長さ2の辺を挟む二面角が90°の三角錐ができる.長さ√3の辺を挟む二面角は60°になる.

 ただし,これを木工で実現させるのは大変厄介で危険でもある.以下に中川宏さん製作の木工模型を掲げるが,本文の説明とは別の方法で製作したものである.ともあれ,これが工藤滋氏が発見した単独空間充填多面体で,この立体8個で相似な立体をなすのである.

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【2】立方体の分割

 立方体を各面を底面として中心から放射状に6等分すると四角錐が6個できる.これを1/6四角錐と呼ぶことにする.この四角錐を正方形面の対角線で2等分したものが1/12三角錐,対角線で4等分したものが1/24三角錐である.

 1/24三角錐2個を底面同士で貼り合わせると,六面体ではなく,辺の長さの比が2:√3:√3の三角形を4枚貼り合わせた三角錐(2/24三角錐)ができる.これが工藤の空間充填三角錐である.

 立方体(f=6),菱形十二面体(f=12),切頂八面体(f=14)はよく知られた空間充填立体であるが,その分割多面体も単独で空間を充填可能なものがある.森先生のお話では,自己鏡像形となっている空間充填可能な三角錐は

(1)2/24三角錐(工藤の空間充填三角錐)

(2)1/12三角錐

(3)1/24三角錐

の3種類だけということである.

 これらは6個で平行六面体をなすが,工藤の空間充填三角錐が3個で三角柱をなすのに対して,(2)(3)ともに6個で三角柱をなす,さらに(1)は4個で八面体,8個で相似な立体をなすという秀逸さを併せもっているのである.

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【3】空間充填の必要条件

 ところで,2つの多面体(多角形)が分割合同とは,一方を有限個の小多面体(小多角形)に分割し,それを別の仕方で寄せ集めることにより他方の多面体(多角形)ができることをいう.多面体の分割に関するデーンの定理(1900年)

  「正四面体と直方体は(たとえ同じ体積をもっていたとしても)分割合同ではない.」

ことが証明されている.それに対して,任意の三角形は長方形と分割合同であることが証明されるので,デーンの定理は2次元と3次元の違いを際立たせていることになる.

 分割合同であるための必要条件と空間充填形ができるための必要条件は,ほぼ同じと考えられ,空間充填形ができるための必要条件は二面角δが4直角の整数分の1であることである.

(a)工藤の空間充填三角錐の二面角:δ=π/2,π/3

(b)菱形十二面体の二面角    :δ=2π/3

なので立方体と分割合同となることが理解される.

 一方,n次元正単体の二面角は

  cosδ=1/n

であり,n=2,すなわち,δ=π/3以外のときは4直角の整数分の1にはならないのである.

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【4】空間充填可能な立体図形

 再び,森先生のお話では,空間充填可能な立体図形は立方体,より一般的には平行六面体を適当に切り貼りしたものに限られるという.(その4)で紹介した別宮利昭氏の切頂四面体による空間充填,すなわち,正四面体の

(1)2つの尖端からt=1/2の相似形を切り取った6面体

(2)3つの尖端からt=1/3の相似形を切り取った7面体

(3)4つの尖端からt=1/4の相似形を切り取った8面体

の場合について,このことを検証してみよう.

 (1)の2等分2点切頂体は四角形面同士を貼り合わせれば平行六面体ができる.(2)の3等分3点切頂体は六角形面同士を貼り合わせれば平行六面体ができる.この平行六面体は6面とも正三角形を2つ併せた菱形(内角が60°,120°)になっている菱面体で,正四面体2個と正八面体1個に分解することができる(正四面体と正八面体の二面角は補角(足して180°)をなす.これらは平行六面体を切断した形が平行移動だけで空間充填し得る単位ブロックを作っていると見ることができる.

 (3)の4等分4点切頂体でも面をずらした2個単位で平行移動だけで空間充填し得るブロックを作っている.しかし,このブロックは平行六面体になりそうにない.もしかしたら何個か(3個以上)の4等分4点切頂体を組み合わせれば直接的に平行六面体を作れるかもしれないが,そうでない場合であっても適当に切り貼りすれば平行六面体と分割合同になるはずである.

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 なお,それほど単純でない単独空間充填多面体の例としては,切頂4面体の正三角形部分に正4面体を4分割した扁平な4面体をくっつけたもの(森先生のレポートでは扁平頂四面体と呼ばれている)が知られています.この多面体も適当に切り貼りすれば平行六面体と分割合同になるという典型例です.

 空間充填可能な凸f面体すべてを決定することは現在でも未解決になっています.ちなみに現在は4≦f≦38であるすべてのnに対し,空間充填可能な凸f面体が存在することが判明しています.f=38に対しては1980年にエンゲルが2つの異なる38面体の存在を示したのですが,f≧39に対して空間充填凸f面体が存在するか否かはいまだ不明です.

 もし2種類以上を使ってよければ,正四面体と正八面体の二面角が互いに補角ですから,両者を組み合わせて空間充填が可能になります.一種類の合同な正多面体による空間充填では立方体だけが空間充填形なのですが,正多面体同士の組合せでは,正四面体と正八面体を組み合わせたものだけが空間を充填します.

 一方,2種類以上の多面体による空間充填については,すでに述べた切頂4面体と正4面体(1:1),切頂立方体と正8面体(1:1),切頂8面体と切頂立方8面体と立方体(1:1:3)の組合せなど,非常に多くの例があります.

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