■5回対称性と準周期的結晶(その3)

 合同な菱形30枚からなる菱形30面体は正12面体と正20面体のあいのこ多面体です.長い対角線を結ぶと正20面体,短い対角線を結ぶと正12面体ができます.どちらも同じ対称性(正20面体群)をもっています.

 コラム「菱形30面体の木工製作」において,中川宏さんがもう一つの菱形30面体の木工製作法を考え出されたことを紹介しました.これまでは菱形三十面体を正20面体経由で作っていたのですが,立方体から直接木工製作する方法です.

 5回対称性を有する多面体として,サッカーボール(切頂20面体)があげられます.正20面体では1つの頂点に5枚の正三角形が集まっていますが,正三角形のどの辺も3等分しそれらの点を結ぶと20枚の正六角形と12枚の正五角形が現れます.これが切頂20面体です.

 また,セパタクロー(東南アジアのスポーツで足を使うバレーボール)の蹴鞠は12・20面体です.これは正20面体を辺の中点で切ってできる多面体で,菱形30面体の双対になっています.

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【1】正20面体群に属する多面体

 正20面体,正12面体と同じ対称性を有する多面体は多数ある.たとえば,切頂によって

  正12面体←→切頂12面体←→12・20面体←→切頂20面体←→正20面体

のような切頂型の準多面体系列ができる.さらにこれらに対して切稜を加えると大菱形12・20面体[4,6,10]や小菱形12・20面体[3,4,5,4]のような切頂・切稜型準正多面体となる.

 これらは正多角形を面とするシンプルな準正多面体であるが,正20面体の切頂比を変えていろいろ変形させてみよう.正二十面体のある頂点から隣接する頂点までの距離の約24%

  (7-√5-2√(10+2√5)/3))/(6-2√5)=0.242947

のところを五角錐状に切り落とすと,正五角形面12枚と不等辺六角形面20枚の合計32枚の面で構成される外接球・内接球を併せもつ多面体になる.

 サッカーボール(切頂20面体)は33.3%切頂であるから,この多面体はサッカーボールと正二十面体の間,

  正12面体←→切頂12面体←→12・20面体←→切頂20面体←→★←→正20面体

に位置すること,また,サッカーボールでは正五角形面の方が正六角形面よりも低いことがわかるのである.→コラム「色即是空・空即是色」参照

 正20面体を切頂して不等辺六角形の2種類の辺の長さの比が黄金比になるようにするには,切頂比を

  1/(2+τ)=0.276393

あるいは

  1/(2+1/τ)=0.381966

にすればよい.

  [参]平賀賢二「準結晶の不思議な構造」アグネ技術センター

p21には後者の図が描かれているが,後者では前者に較べて正五角形面が大きくなる.

 また,同ページには小菱形12・20面体[3,4,5,4]の変形である多面体も掲載されている.これは正20面体の切頂・切稜多面体であって,切稜20面体の頂点を五角錐状に切り落としたものである.その際,長方形面が黄金長方形になるようにするには,切稜比を

  1/(3+τ)=0.216542

  1/(3+1/τ)=0.276393

にすればよい.「準結晶の不思議な構造」に描かれている図は前者である.これらの計算方法についてはコラム「正多面体の木工製作(その5)」を参照されたい.

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【2】正20面体群に属する多面体の木工製作

  (1)切稜比1/(3+τ)=0.216542の正20面体の切頂・切稜多面体

  (2)切頂比1/(2+1/τ)=0.381966の正20面体の切頂多面体

では,もとの立方体の1辺の長さを2とすると

  正20面体の正三角形の面間距離:1.86834

  (1)の長方形の面間距離:1.83458

  (1)の正五角形の面間距離:1.78827

  (2)の歪六角形の面間距離:1.85471

と計算された.

 以下に,中川宏さん製作の木工模型を掲げる(左(1),右(2)).

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 12・20面体の双対を考えると菱形三十面体が現れる.

  正12面体←→切頂12面体←→12・20面体←→切頂20面体←→正20面体

                   ↑↓

                 菱形三十面体

 対角線の長さの比が黄金比の菱形が黄金菱形である.その頂角は約63.4°であって,一見正三角形を2つ貼り合わせ形と見間違うほどよく似ている.そして黄金菱形6枚からできる平行六面体が黄金菱形六面体である.黄金菱形六面体には鋭角型と鈍角型があり,それぞれ10個ずつ組み合わせる菱形三十面体,鋭角型のみ20個を組み合わせると花形十二面体ができあがる.

 菱形三十面体は凸多面体,花形十二面体は凹多面体でそのへこみには菱形三十面体がすっぽりおさまる.Mathematica V2,V3のロゴとして双曲空間における正12面体が使われているが,花形十二面体はそれにそっくりである.花形十二面体は小川泰先生がペンローズ格子(3次元版)について研究中に見つけられて命名された多面体とのことでまさしく「黄金の華」である.

 菱形三十面体を切頂した多面体も正二十面体群の対称性を有している.たとえば正120胞体は4次元空間における正十二面体対応物であるが,菱形三十面体の5価の頂点を切頂比

  1/(1+τ)=1/τ^2=0.381966

で切頂すると,正120胞体を3次元空間に投影した模型となる.→コラム「4次元正120胞体の3次元投影(その1)」参照

 また,切頂菱形三十面体が外接球をもつための条件は,切頂比

  1/√5=0.447214

それに対して,内接球をもつための条件は,切頂比

  4/(10+2√5)^(1/2)+2)=0.919299

であることはコラム「4次元正120胞体の3次元投影(その2)」で述べたとおりである.このことから,正120胞体の3次元投影模型は球には外接・内接せず,正五角形面の方が不等辺六角形面よりも高いことがおわかり頂けるであろう.

 これらの他に,花形12面体の出っ張ったところを切ることによってできる凹多面体や4種類の星形正多面体(凹多面体)なども正20面体と同じ対称性を有する多面体である.

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