■ある有名な数論の定理(その2)

 コラム「ルジャンドルの定理」では,3元2次形式に関するルジャンドルの定理「正整数nが3つの平方数の和として表せる←→4^m(8k+7)の形をした数ではない.」とこの定理から導かれる結果を取り上げてみましたが,数論においてはどのような整数が2次形式で表現されるかというのは基本的な問題のひとつです.

 2元2次形式f(x,y)=3x^2+6xy−5y^2について,f(1,1)=4より4がfの値のひとつでることはすぐわかりますが,f(x,y)=7となる(x,y)を見つけだせという問題は答えがすぐに見つかるような問題ではありません.すべての(x,y)について試してみるというのも明らかに不可能です.実はこのディオファントス方程式は整数の範囲では解けないのです.

 結論を先にいうと,2元2次形式のディオファントス方程式

  ax^2+bxy+cy^2=n   (a,b,c,nは整数)

  [x,y][a,b/2][x]=n

       [b/2,c][y]

が整数解(x,y)をもつか否かを判定し,それを決定するためのアルゴリズムが存在し,それは判別式をd=b^2−4acとすると

「nが判別式dのある2元2次形式で表現されるための必要十分条件は

  x^2=d  (mod 4n)

が解をもつことである.」

 また,2元2次形式の同値類を決定する方法も存在します.今回のコラムではこれらについてまとめてみることにします.

  [参]ベイカー「初等数論講義」サイエンス社

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【1】同値な2元2次形式

 整数係数の2元2次形式

  f(x,y)=ax^2+bxy+cy^2

の判別式はd=b^2−4acで与えられる.与えられた判別式dをもつ2次形式では主形式と呼ばれる2次形式が存在する.たとえば,

  bが偶数→d=0 (mod4)→x^2−d/4y^2

  bが奇数→d=1 (mod4)→x^2+xy+(1−d)/4y^2

が判別式dの主形式である.

  4af(x,y)=(2ax+by)^2−dy^2

であるから,d<0ならばfは同じ符号をとり,正定値または負定値2次形式となる.

  x=[x]  h=[a,h/2]

    [y]    [h/2,b]

とおいて行列・ベクトル表現すると,f=x’hxとなる.整数係数ユニモジュラー変換とは,ps−qr=1を満たす整数により

  x=[x]=[p,q][X]=uX

    [y] [r,s][Y]

fはX’u’huX=X’HXに変換されるが,その際,x’hxがとる値の集合とX’HXがとる値の集合は一致する.

 また,判別式は

  b’^2−4a’c’=d(ps−qr)^2

となり,同値な2次形式は同じ判別式をもつことがわかる.たとえば,a=a’,b=±b’,c=c’は同値な2次形式となる.

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【2】2元2次形式の簡約理論

 正定値2次形式

  f(x,y)=ax^2+bxy+cy^2  (d<0,a>0,c>0)

はaとcを交換する整数係数ユニモジュラー変換

  [x]=[0, 1][x’]

  [y] [−1,0][y’]

およびbをb±2aにかえる整数係数ユニモジュラー変換

  [x]=[1,±1][x’]

  [y] [0, 1][y’]

を有限回行うことによって,

  |b|≦a≦c

を満たす2次形式に簡約される.

 与えられた判別式dをもつ簡約2次形式は有限個しかない.−d=4ac−b^2≧3acであるから,a,c,|b|は|d|/3を越えることはないからである.

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 2変数2次形式

  [a,h]

  [h,b]

がミンコフスキー簡約であるための条件は

  |2h|≦a≦b

 3変数2次形式

  [a,h,g]

  [h,b,f]

  [g,f,c]

がミンコフスキー簡約であるための条件は

  a≦b≦c

  |2h|≦a,|2g|≦a,|2g|≦b

  2|h±g±f|≦a+b

 次元が高くなるに従って条件不等式は爆発的に増える.その不等式を全部書き下すことができるのはせいぜい7次元くらいまでであるから,正定値2次形式に関する簡約理論がいかに見事かわかるだろう.

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【3】簡約2次形式と類数

 それでは,与えられた判別式dをもつ簡約2次形式は何個あるのだろうか?判別式dの簡約2次形式の個数を類数と呼び,h(d)と書く.たとえばd=−4のとき,3ac≦4よりa=c=1,b=0.したがってh(−4)=1

 −d=4ac−b^2≧3ac→−a<b≦a<cまたは0≦b≦a=cより,(a,c)を定め,それらに対しb^2=4ac+dより,bが定められるかどうかを見てみよう.

[1]d=−3

 3ac≦3→(a,c)=(1,1),b=±1.しかし,変換

  [x]=[1,−1][x’]

  [y] [0, 1][y’]

により(a,b,c)=(1,1,1)と(1,−1,1)は同値.ゆえにh(−3)=1

[2]d=−4,h(−3)=1

[3]d=−7

 3ac≦7→(a,c)=(1,2),b=±1.(a,b,c)=(1,1,2)と(1,−1,2)は同値.ゆえにh(−7)=1

[4]d=−8

 3ac≦8→(a,c)=(1,2),b=0.h(−8)=1

[5]d=−11

 3ac≦11→(a,c)=(1,3),b=±1.(a,b,c)=(1,1,3)と(1,−1,3)は同値.ゆえにh(−11)=1

[6]d=−19

 3ac≦19→(a,c)=(1,5),b=±1.(a,b,c)=(1,1,5)と(1,−1,5)は同値.ゆえにh(−19)=1

[7]d=−43

 3ac≦43→(a,c)=(1,11),b=±1.

        (a,c)=(1,13),b=±3.

しかし,変換

  [x]=[1,−1][x’]

  [y] [0, 1][y’]

により(1,1,11)→(1,−1,11),(1,3,13)→(1,1,11),(1,−1,11)→(1,−3,13).ゆえにh(−43)=1

[8]d=−67

 3ac≦67→(a,c)=(1,17),b=±1.

        (a,c)=(1,19),b=±3.

しかし,変換により(1,1,17)→(1,−1,17),(1,3,19)→(1,1,17),(1,−1,13)→(1,−3,19).ゆえにh(−67)=1

[9]d=−163

 3ac≦163→(a,c)=(1,41),b=±1.

         (a,c)=(1,43),b=±3.

         (a,c)=(1,47),b=±5.

         (a,c)=(1,53),b=±7.

しかし,変換により(1,1,41)→(1,−1,41),(1,3,43)→(1,1,41),(1,−3,43)→(1,−5,47),(1,5,47)→(1,3,43),(1,7,53)→(1,5,47),(1,−5,47)→(1,−7,53),(1,−1,41)→(1,−1,43).ゆえにh(−163)=1.

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 類数h(d)とは判別式dをもつ2次形式の非同値な類の個数にほかならないのであるが,ところで,一意分解性をもつ虚2次体Q(√d)はすべて知られていて

 d=−1,−2,−3,−7,−11,−19,−43,−67,−163

であることが1966年,ベイカーとスタークにより独立に証明された.(両者の方法はまったく異なり,一方は超越数の理論,他方は楕円モデュラー関数の研究に依拠するものである.)

 Q(√−5)において

  6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)

Q(√−6)において

  6=2・3=(√−6)(−√−6)

はQ(√−5)やQ(√−6)が一意分解性をもたないことを示すものである.

 たとえば,2=(a+b√−6)(c+d√−6)とおいて,ノルムをとれば4=(a^2+6b^2)(c^2+6d^2).これより(a,b,c,d)=(±1,0,±2,0),(±2,0,±1,0).ゆえに2は既約.同様に3,√−6も既約である.

 それに対して,Q(√3)において

  22=2・11=(5+√3)(5−√3)

はQ(√3)が一意分解性をもつことと矛盾しない.2,11,5+√3,5−√3は既約ではないからである.

  2=(−1+√3)(1+√3)

  11=(−1+2√3)(1+2√3)

  5−√3=(−1+√3)(1+2√3)

  5+√3=(−1+2√3)(1+√3)

 一意分解性をもつ実2次体Q(√d)のすべてを見いだす問題は未解決であるが,無限に多く存在するだろうと予想されている(それすら証明されていない).

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【4】2元2次形式による表現

  f(x,y)=ax^2+bxy+cy^2=n

「nが判別式dのある2次形式で表現されるための必要十分条件は

  x^2=d  (mod 4n)

が解をもつこと」である.

[1]フェルマー・オイラーの定理(2平方和定理)

 m=4k+3の形をした数は2つの平方数の和になりません.mの素因数分解におけるp=4k+3の形のすべての素因数の指数が偶数であるときに限り,2つの平方数の和の形に表すことができるのです.すなわち,

「x^2+y^2=nと表されるための必要十分条件は,p=3 (mod 4)なるnの素因数pが偶数ベキであることである.」

[2]3平方和の定理

  「正整数nが3つの平方数の和として表せる←→4^m(8k+7)の形をした数ではない.」

 n≠4^m(8k+7)はnが高々3個の平方数で表されるための必要十分条件です.ガウスの定理ともルジャンドルの定理とも呼ばれますが,ルジャンドルは2次形式ax^2+by^2+cz^2の研究を通して,より一般的な3元2次形式論としてこの結果を得ています.

[3]バシェ・ラグランジュの定理

 「すべての正の整数は高々4個の整数の平方和で表される」というのが,「バシェ・ラグランジュの定理」です.驚くべきことに,任意の自然数がたった4つの平方数の和の形に表せるのです.このことを,シンボリックに書くと

  n=□+□+□+□

となります.□は平方数の意味です.

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【5】ウェアリングの問題

 1770年,ウェアリングは4平方和定理を拡張して,

  「任意の整数はたかだか9個の3乗数の和として,あるいは19個の4乗数の和として表される」

ことを証明抜きで主張しました(9三乗数定理,19四乗数定理).これが,有名なウェアリングの問題です.

 g(2)=4はラグランジュにより,g(3)=9はヴィーフェリッヒによって証明されました(1909年).

 4^k(8n+7)の形の数は4個の2乗を必要とする(たとえば,7=2^2+1^2+1^2+1^2)のに対して,9個の3乗を必要とする数は,たった2つの場合だけが知られています.

  23=2・2^3+7・1^3

 239=2・4^3+4・3^3+3・1^3

そして,1939年,ディクソンは23,239以外の整数はすべて8個の3乗数の和で書けることを示しています.(8個の立方数の和として表せない自然数は,15,22,50,114,169,175,186,212,231,238,303,364,420,428,454の15個だけである.)

 ウェアリングの問題は,2次形式ではなく高次形式を扱っていて,多くの数学的思考を刺激しました.そして,1909年,ヒルベルトによって

  「どの数もg個のk乗数の和で表される」

ことが肯定的に証明されています.

  n=x1^k+・・・+xg^k

 ヒルベルトはg(k)の値がkのみによって表されることを証明したのですが,それはg(k)の存在のみを証明したのであって具体的な値を決める方法を示したものではありませんでした.

 1859年,リューヴィルはg(4)≦53を示しました.g(4)=19ですからこの結果は実際とはかなり隔たりがあるのですが,g(4)の限界を与える方法を初めて示したことになります.そのあたりからいろいろな研究がなされることになりました.そして,19四乗数定理:

  「すべての正の整数は19個の4乗数の和で表される」

は1986年に証明されています.つまり,ウェアリングの問題(18世紀)も200年以上かかって解決されたことになります.

 なお,g乗数は平方数よりもずっとまばらにしか分布しませんから,以下,37個の5乗数の和,73個の6乗数の和,・・・と続きます.実は,ガウス記号を用いて

  g(k)=2^k+[(3/2)^k]−2

の式が正しいだろうと予想されています.1≦k≦10では

  k  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10

  下界 1  4  9  19  37  73 143 279 548 1079

となり,ここに示した値はすべてこの式を満たし,かなりの範囲のところまで正しいことが確認されます.

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(Q)kを正の整数として,n=2^k[(3/2)^k]−1とするとき,n=x1^k+・・・+xg^kと書かれるような最小の正の整数gを求めよ.

(A)2^k[(3/2)^k]−1<3^kであるから,nをk乗数の和として表すときに1^kと2^kしか使えないことがわかる.

  7=2^2+1^2+1^2+1^2

  23=2・2^3+7・1^3

のように,n=2^k+・・・+2^k+・・・とできるだけ2^kを並べ,あとは1^k+・・・+1^kとすればよい.

 そのときの2^kの個数は[(3/2)^k]−1,2^kの個数はn−2^k{[(3/2)^k]−1}=2^k−1であるから

  g=[(3/2)^k]−1+2^k−1=2^k+[(3/2)^k]−2

  g(k)≧2^k+[(3/2)^k]−2

の不等式を証明したのはオイラーの息子,ヨハン・アルブレヒト・オイラー(1772年)で,この式では等号が成立すると予想されているのです.

 なお,ウェアリングの予想は1909年ヒルベルトによって証明されましたが,1929年にまったく異なった証明法(円周法)がハーディとリトルウッドにより与えられています.

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