■スピログラフと太陽系のX個の惑星

 水金地火木土天海冥のさらに遠方に10番目の惑星が存在するかもしれないという問題は数年前に「超冥王星」(2003UB313)が発見されて解決しました.この10番目の惑星が実際に存在するかどうかを解明するために長い歳月が費やされました.ずいぶん以前から9個の惑星は知られていたのですが,冥王星の外側にはもう一つ未発見の10番目の惑星(超冥王星)が存在するらしい・・・というまどろっこしい状態が続いていましたから,私はこのニュースを喜んで受け入れることができました.

 ところが,今年のお盆に太陽系の惑星を12個に拡大する国際天文会議の提案がなされたというニュースが報道されました.そのなかには超冥王星のほか,従来は冥王星の衛星とされていたカロン,冥王星の外側ではなく火星と木星の間に小惑星帯にある最大の小惑星セレスも含まれていましたから,今度は戸惑いを禁じ得ませんでした.

 私にとってセレスは非常になじみの深い天体なのですが,パラス,ジュノーは惑星に含まれないのか,さらに月やタイタンなどの衛星はどうなるのか,等々.小惑星(アステロイド)の中には,セレス,パラス,ジュノーのように直径が数百キロメートルのものもありますが,直径が1キロにも満たないものもあります.天体観測の精度があがるにつれて,ますます小さい天体が発見されていますが,どこまでが小惑星で,また,どこからが宇宙塵になるか区別することは天文学者にとっては興味のあることでしょう.しかし,私が調べた限り,その違いの明確な取り決めはなされていないようです.

 惑星とは何かも定義されていないのですが,本日,さらに冥王星を惑星から外して太陽系の惑星を8個に縮小するという一転した案も報道されましたから,この状況はしばらく混乱が続く見通しです.注目していきたい.

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【1】スピログラフ

 回転円が固定円に接して滑ることなく転がっていくとき,回転円の周上の点の軌跡を考えよう.回転円が固定円に外接するとき,その軌跡をエピサイクロイド,内接するとき,ハイポサイクロイドと呼ぶ.

 いま,娘達は歯車の穴に鉛筆を差し込んでクルクル回転させると花びら模様が描かれるおもちゃに夢中である.これをスピログラフというらしい.この装置がハイポサイクロイドの応用であることはすぐに理解される.固定円と回転円の半径比R/rが無理数なら曲線は決して閉じないから,有理数倍になっているのであろう.

 たとえば,ギア比を1:3に固定し穴の位置を変えてエピトロコイドとハイポトロコイドを描いてみると惑星の軌道を想起させるような図形が描かれる.

 ハイポサイクロイドで,R/r=4の場合(固定円の半径が回転円の半径の4倍になっている場合)がアステロイド(星形曲線)である.

  x^2/3+y^2/3=R^2/3

アステロイドはx,y軸上に端点のある長さRの線分により作られる包絡線であり,また,長半径と短半径の和がRである楕円

  x^2/a^2+y^2/(R−a)^2=1

の包絡線ともなっている.アステロイドが囲む周長は6Rであるが,サイクロイドと同様,定数πに依存していない.また,面積は3πR^2/8で,固定円の面積の3/8(回転円の6倍)である.

 一方,エピサイクロイドは地球から見たときの惑星の逆行運動の説明に用いられた曲線で,古代ギリシア人は,惑星の動きを表現するために周転円(円の周りをまわる円)を考えていたことが知られている.

 エピサイクロイドで,R/r=1の場合(固定円と回転円の半径が等しい場合)がカージオイド(心臓型曲線)である.カージオイドは定円上に中心があり,カスプを通るような円の包絡線でもある(周長16R,面積6πR^2).

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【2】周転円軌道(エピサイクル)

 ギリシア時代の天文学では,惑星は地球の周りを等速円運動すると考えられていました.神の創造した世界は完全な調和の世界であり,完全なる図形である円こそが神の世界にふさわしいとされたのです.

 したがって,当時の常識としては,「幾何学における神聖な作図とは定規とコンパスという基本的な2つの道具だけしか使わないものであって,直線と円の世界から外れるものは不純である.したがって,神秘的であるべきすべての天体の運動は円とその組み合わせによって支配される(周転円説).」という思想があり,惑星は地球の位置とは少しずれた中心の円の上を運動する(離心円)とか,その円軌道上を小さく円を描きながら動く(周転円)とか工夫して惑星の運動を説明しようとしましたため,非常に複雑なものとなってしまいました.

 天動説を否定して地動説を唱えたコペルニクスでさえも,太陽を中心に離心円と周転円を組み合わせることで惑星運動の原理を説明しています.パラダイムシフト(発想法の転換)が必要であったのですが,ケプラーはこの思想の壁を破って「惑星は楕円軌道を描き,太陽はそのひとつの焦点にある」に到達したのです.

 答えを知っている私たちから見れば常識のように思っている法則なのですが,それまで支配的であった見方・考え方を克服して確立されたもので,必ず何らかの美しい法則がこの宇宙を支配しているという強烈な思い入れ(狂信?)がケプラーの法則の発見へとつながったわけです.

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【3】ボーデの法則

 1772年,ベルリン天文台長のボーデは惑星を太陽に近い順に0(水星),1(金星),2(地球),3(火星),・・・番と数えるとき,太陽から地球軌道の平均半径を1天文単位とすれば,第n番目(n≧1)の惑星の平均距離は(3×2^(n-1)+4)/10になるという,いわゆるボーデの法則を発見しました.

 この経験則は,1766年にドイツのティティウスが発見した関係を掘り出したもので,ティティウス・ボーデの法則とも呼ばれます.この法則は驚くべき正確さで太陽から惑星までの距離に対応していますが,理論的根拠があるわけでなく,全くの経験的法則であったため,あまり注意を払われませんでした.

 ところが,1781年,イギリスのハーシェルがボーデの法則のn=7,第7番目の位置に天王星をみつけたことから,俄然この法則は注目され,人々に受け入れられるようになりました.そして,n=4の空席,すなわち火星と木星の間にも未知の惑星があるのではという期待がもたれるようになり,天文学者たちは熱心に未発見の新惑星を探し求めました.

   太陽系のデータ

 惑星   平均距離(天文単位) 公転周期(年)

 水星     .387         .24

 金星     .723         .61

 地球    1            1   

 火星    1.524        1.88

 小惑星   2.721            

 木星    5.203       11.86

 土星    9.539       29.46

 天王星  19.183       84.04

 海王星  30.057      164.8 

 冥王星  39.530      248.6 

 この表は太陽から惑星までの実際の距離とボーデの法則によって予測された値を対比したものです.その後,海王星や冥王星といった惑星が発見されましたが,ボーデの法則が予測する値とは正確には一致していませんでした.

 惑星の距離に関するボーデの法則は,この系列の欠番の位置に新惑星が発見されたことから大騒ぎになりました.惑星の配置を表すボーデの法則と呼ばれる簡単な数列が太陽から惑星までの距離をほぼ正確に予測しているという事実は,太陽系の創生期に作用した必然的な構造原理なのでしょうか,それとも,単なる偶然の所産であって無意味なものなのでしょうか.海王星,冥王星にはよく当てはまらないことから法則そのものが疑わしいともいえますが,少なくとも惑星発見の指導原理として歴史的には大きな役割を果たした数秘術の例となっています.

[補]天王星,海王星,冥王星は望遠鏡の発達に伴って,それぞれ1781年,1846年,1930年に発見されています.1820年頃,天王星の運動に不可解な偏差が観察されました.ニュートンの万有引力の理論から,天王星の運動の乱れは未知の惑星の引力によるものと予想されていましたが,一種の逆問題によって未知の惑星の質量と軌道が導かれました.天王星のずれから未知の惑星の位置を予測したのはフランスのルヴェリエとイギリスのアダムスです.その惑星は海王星と名付けられたが,海王星は当時の望遠鏡でやっと見えるほどであり,位置の予測がなければ発見することはできなかったと思われます.

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【4】小惑星セレスの発見

 今日,小惑星は火星と木星のあいだの空間に幾百となく散在していることが知られています.天文学史上,最初に発見された小惑星はセレスで,セレスは第1号であり,かつ,最大の小惑星です.セレスは1801年1月1日の夜,イタリアの天文学者ピアッツィによって発見されました.

 ピアッツィはボーデの予測した位置にある小惑星の運行を追い続けましたが,2月初旬,この天体は太陽に接近しそのまぶしい光に消されてしまったために観測できなくなってしまいました.

 ピアッツィが観測した41日間だけのデータ(9°の弧)だけを使って楕円軌道を確定することは,当時の天文学者たちの計算能力の限界を超えていました.なぜなら,それまでの軌道決定法は豊かな資料に基づくものであり,セレスの場合,少ないデータからケプラー運動を推論することが要請されたからです.

 そこで,24才の若きガウスはたった3回の完全な観測からその軌道を計算し,太陽の近くで姿を消してしまったセレスがその年の終わり頃再び姿を現す位置を計算しました.1801年12月31日,セレスはガウスの予測した位置に再び姿を現しました.

 その位置は粗い円軌道近似で推定したものよりも7°以上も東にずれていましたから,結局,ガウスの予測は非常に正確であることがわかり,若いガウスに最初の大きな名声を与えることになりました.この成果は予知と観測とニュートン力学による軌道計算の劇的な合流点を表す天文学史上の事件であったと考えられるのですが,いまでもガウスの最も知られた業績の一つになっています.

 セレス以降,ドイツでは小惑星の発見ラッシュとなり,1802年に2番目の小惑星パラス,1804年に3番目の小惑星ジュノー,1807年に4番目の小惑星ベスタが発見されています.

 1794年,ガウスは18才のときすでに最小2乗法を考案していたと記録されていますが,ガウスによって天体の運動・軌道を決定するための新しい方法として創始され,ある時刻の位置を予測して再発見の手がかりを与えた方法が最小2乗法なのです.当時の望遠鏡の解像度を考えると,位置の予測なしに再発見は難しかったと思われますが,小惑星セレスの再発見によって最小2乗法は有名になり,実用に供されるようになりました.そして,1821年と1823年にガウスは最小2乗法を発表し,1820年代までに今日広く使われている最小2乗法の基本的な大筋が完成しています.

 また,ガウスはこの過程で実験データの期待値からのバラツキが一定の法則に従うことに注目し,その分布を理論的に計算しました.この分布が正規分布(ガウス分布)で,ガウスの結果を厳密に証明したものが中心極限定理です.正規分布はあらゆる種類のデータ解析において中心的な役割を果たしています.測定誤差の基礎となる誤差論も19世紀の始めガウスによって始められ,これが端緒となって数理統計学が進歩しました.換言すれば,数理統計学は正規分布を中心として展開され,ガウス以来200年,誤差,変動,撹乱,ばらつき,偏りのあるデータを適切に処理し情報を抽出する方法を開発してきたのです.

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