■無理数・代数的数・超越数(その4)

 (その2)では,平方根のディオファントス近似における「ディリクレの定理」を述べた.すなわち,近似分数列{an/bn}で非常によく近似できる実数αについて

  |α−an/bn|<1/bn^2

が成立するならばαは無理数である(右辺はこの定数倍でもよい).これは無理数が無限に多くの既約分数解{an/bn}をもつことを示している.

 それでは

  |α−an/bn|<1/bn^k

が無限に多くの解をもつことができるような最大の実数kはいくつになるのだろうか? kを求める問題は1種の最良近似問題であるが,今回のコラムでは「ロスの定理」を紹介することにする.

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【1】ディリクレの定理の証明

 αが有理数で,α=p/qと表されたとする.{bn}は次々に大きくなる整数列であるから,q<bnである番号をとると

  |α−an/bn|=|p/q−an/bn|=|pbn−qan|/qbn

 しかし,an/bnはαとは一致しないので分子は1以上.したがって

  |α−an/bn|≧1/qbn

であるが,これが<1/bn^2なのでq>bnとなり矛盾.すなわち,αは有理数ではあり得ないことになる.

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【2】トゥエの定理

 リューヴィルは代数的数αの次数をn(≧2)とすると,

  |α−p/q|>1/q^n

がすべての有理数p/qに対して成り立つことを示した(リューヴィルの定理,1844年).この指数を改良するために多くの研究がなされた.

 20世紀にはいって,トゥエはリューヴィルの不等式を

  |α−p/q|<1/q^(1+n/2)

のように改良した(1908年).

 αの次数をnとすると,

  k≦n/2+1   (トゥエ,1908)

  k≦s+n/(s+1) (s=1,2,・・・,n−1)   (ジーゲル,1921)

  k≦√2n   (ダイソン,1947) (ゲルファント,1952)

などの結果が知られている.

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【3】ロスの定理

 これらの結果はすべてαの次数nに関係した結果であったが,ジーゲルは実はk≦2であろうと予想した.彼の予想が正しいとすると,ディリクレの定理からk≧2であるから,合わせるとk=2という結論を得ることができる.

 この予想は1955年,イギリスの数学者ロスによって証明された.

「無理数αが無限に多くの既約分数解{an/bn}をもてば,k≦2が成立する.」

 つまり,ロスの定理は次数n≧2の代数的数αは最良無理測度2をもつというもので,ディリクレに始まった無理数を有理数で近似する問題に関する決定的な結果(k=2)であって,ディオファントス近似に対する一応の終止符が打たれたことになる.この業績によりロスにはフィールズ賞が与えられることになった(1958年)

  [参]平松豊一「初等数学アラベスク」牧野書店

によると,この証明は高度な数学理論を使わずとも可能なごく初等的なものであるそうである.いささかの感動をおぼえる話である.

 なお,リドゥやシュミットによるロスの定理の拡張もあるとのこと.リドゥ(1957年)はp,qの素因子に関するある制限のもとにkの下限がより小さくできることを示した.シュミット(1971年)の拡張は部分空間定理と呼ばれるものである.

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【4】雑感

 ギリシア人は√2が有理数でないことを知って驚き,1900年,ヒルベルトは2^√2が超越数であるか否かを「数学の問題」として提示した.ロスの定理はそのひとつの著しい進展である.

 ところで,これとはまったく関係のない話であるが,たとえば

(Q)1からnまでの自然数の中で2の倍数でも3の倍数でもない数は何個あるか?

という問題を考えてみよう.

(A)#{2の倍数または3の倍数}=#{2の倍数}+#{3の倍数}−#{2の倍数かつ3の倍数}

2と3の最小公倍数は6であるから,#{2の倍数かつ3の倍数}=#{6の倍数}

これより,

  n−[n/2]−[n/3]+[n/6]

が答えになる.

 ここでは包除原理{A∪B}={A}+{B}−{A∩B}が用いられている.集合の数が多くなるとややこしくなるが,包除原理は一般的には

  {A1∪・・・∪An}=Σ{Ai}−Σ{Ai∩Aj}+Σ{Ai∩Aj∩Ak}−・・・+(−1)^(n-1){A1∩・・・∩An}

と書くことができる.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  n−[n/2]−[n/3]+[n/6]

はガウス記号を使っているので一括りにすることはできないが,

  n(1−1/2)(1−1/3)

をみて,オイラー関数φ(n)を想起された方も少なくないだろう.φ(n)はnと互いに素な自然数の個数として定義される.たとえば,

  φ(2)=1,φ(3)=2,φ(4)=2,φ(5)=4,φ(6)=2,・・・

 φ(n)の明示式は

  φ(n)=nΠ(1−1/pi)   piはすべての素因数をわたる

で与えられる.たとえば1176=2^3・3・7^2より

  φ(1176)=1176(1-1/2)(1-1/3)(1-1/7)=336

 包除原理はオイラー関数の明示式を示すためにも用いられる.すなわち,

  φ(n)=n−Σn/pi+Σn/pipj−Σn/pipjpk+・・・+(−1)^mΣn/p1p2・・・pm

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