■2013・わが闘争(その2)
本年9月,京都大学数理解析研究所で行われた「タイル張り力学系とその周辺」の研究会で,
space filling semi-regular polytopes and their Wythoff arithmetic
を講演.
そこでは計量的な方法や多面体的組み合わせ論の方法を用いて,空間充填準正多胞体の諸量の計算結果について発表したところ,参席のムーディー先生からいろいろなサジェスチョンを賜った.
その後,ムーディー先生から古典的な単純リー環を使った面数数え上げの論文が送っていただいた.
RV Moody, J Patera: Voronoi and Delaunay cells of root lattices: classification of their faces and facets by Coxter-Dynkin diagrams, J Phys A Math Gen 25(1992), 5089-5134
抽象代数学が発展し,いまとなっては何百もの代数構造が数学では使われている.それぞれが独自の公理系によって定義されている.
代数学(algebra)は数学用語で多元環(線形空間に積の構造が入ったもの)である.多元環(algebra)はそれぞれ異なった公理系で指定される.たとえば,乗法についての結合法則が成り立たない場合は,通常の行列の積ではなくて,交換積:XY−YXに依って定義した場合はリー代数という多元環になる.
リー群が現代数学において重要なのは,古典力学や量子力学,光学などの多くの系は対称性をもっており,その対称性はリー群の構造をしているからである.
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【1】ムーンシャイン予想とカッツ・ムーディー・リー代数
有限単純群の分類の完成は,ムーンシャイン予想という予期せぬものを生み出しました.
19世紀の後半,デデキントとクラインは独立に保型関数
j(az+b/cz+d)=j(z)
を構成しました.j(z)は古典的なSL(2,Z)不変な保型関数です.
ここで,q=exp(2πiz)とおくと,
j(z)=j(q)=Σcnq^n
=1/q+744+196884q+21493760q^2+864299970q^3+・・・
と展開されます.
モンスターの既約表現の次数dnと係数cnを小さい方から数個あげると
d0=1
d1=196883 c1=196884
d2=21296876 c2=21493760
d3=842609326 c3=864299970
このq展開に現れる係数196884とモンスターの既約表現の最小次数196883がほとんど等しいことに注目すると,q,q^2,q^3等の係数は
c1=d0+d1
c2=d0+d1+d2
c3=2d0+2d1+d2+d3
のようにモンスターの既約表現の簡単な線形結合となっていることを見いだされました.これは単なる偶然の一致なのでしょうか?
ムーンシャイン予想の出発点の出発点であるマッカイ・トンプソン予想,コンウェイ・ノートン予想には,このような不思議な事実がたくさん収集されています.しかし,後にボーチャーズが,現代物理学の弦理論にその原点をもつ頂点作用素代数を用いることによって,これは単なる偶然の一致ではなく,そこに何か真実が隠されていることをつきとめます.
ボーチャーズはその功績によりフィールズ賞を受賞するのですが,さらに,ボーチャーズは一般化されたカッツ・ムーディー・リー代数を導入して,マクドナルド恒等式を導いた論法を適用することにより,分母公式は
J(p)−J(q)=p^(ー1)Π(1−p^mq^n)^c(mn)
となることを示しました.この等式は19世紀のデデキントのイータ関数の変形のようでもあり,ヤコビの3重積公式にも結びついています.
これにより,ムーンシャイン予想の一応の解決となったわけですが,ムーンシャイン予想は保型関数論のように古典的なものでもあり,また,物理学の弦理論のように新しいものでもあったというわけです.
リー型の単純群に比べると,散在型単純群は例外的なものにみえるのですが,ミステリアスなムーンシャイン現象を知ると,散在型単純群にも深い存在理由がありそうです.しかし,疑問は残ったままであり,今後は有限単純群の分類論の明瞭化・簡明化とともに,この神秘的現象の解明が研究課題とされています.
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