■スターリングの公式の同値な言い換え(その3)

  [参]黒川信重・小山信也「多重三角関数論講義」日本評論社

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【1】オイラーと三角関数

 オイラーは三角関数sinxの零点が0,±π,±2π,±3π,・・・であることから三角関数を因数分解して,無限乗積

  sinx=xΠ(1−x^2/n^2π^2)

  sin(πx)=πxΠ(1−x^2/n^2)=π/Γ(x)Γ(1−x)

を得ました.

 sinxの無限乗積とベキ級数展開(テイラー展開)

  sinx=x−x^3/3!+x^5/5!−x^7/7!+・・・

を用いれば,偶数ゼータの値

  ζ(2)=π^2/6,ζ(4)=π^4/90,ζ(6)=π^6/945,ζ(8)=π^8/9450,・・・

が得られます.

  S1(x)=2sin(πx)=2πxΠ(1−x^2/n^2)=(exp(πix)−exp(−πix))/i

と定義すると,n分値,2n分値に関して

  ΠS1(k/2n)=n^(1/2)   (k=1~n-1)

  ΠS1(k/n)=n   (k=1~n-1)  (→楕円関数への一般化がある)

が成り立ちます.

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【2】ヘルダーの2重三角関数

 ヘルダーは1886年に2重三角関数

  S2(x)=exp(∫(0,x)πtcot(πt)dt)

       =exp(x)Π((1−x/n)/(1+x/n))^nexp(2x)

を研究しました.

 n→∞のとき,

  (1−x/n)^n→exp(−x)

  (1+x/n)^n→exp(x)

  ((1−x/n)/(1+x/n))^nexp(2x)→1

となることはは容易に理解されるところですが,三角関数の一般化になっているかどうか直ちにはわかりません.

  ∫(0,x)πcot(πt)dt=log(sinπx)

より

  S1(x)=2exp(∫(0,x)πcot(πt)dt)

また,

  S2(x)=exp(∫(0,x)πtcot(πt)dt)

と表示されますから,三角関数の類似物になっていることがおわかりいただけるでしょう.この関数は初等関数では表すことができません.

 新谷卓郎は1977年に2重三角関数の一般論の研究をしました.

  F(z,ω1,ω2)=Π((1−z/(n1ω1+n2ω2)/(1+z/(n1ω1+n2ω2))

 なお,ガンマ関数の無限積表示

  Γ(x)=1/x・exp(−γx)Π{(1+x/n)^-1exp(x/n)}

より

  Γ(1−x)=(−x)Γ(−x)

=exp(γx)Π{(1−x/n)^-1exp(−x/n)}

  Γ(x)Γ(1−x)=1/x・Π{(1−x^2/^2n)^-1

=π/sin(πx)

が得られる.

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【3】黒川の3重三角関数・多重三角関数

 黒川先生はヘルダーの研究にならって,20年ほど前から3重三角関数

  S3(x)=exp(∫(0,x)πt^2cot(πt)dt)

       =exp(x^2/2)Π(1−x^2/n^2)^n^2exp(x^2)

を導入しています.

 n→∞のとき,(1−x^2/n^2)^n^2→exp(−x^2)

ですから

  (1−x^2/n^2)^n^2exp(x^2)→1

 なお,sinxの無限積表示

  sinx=xΠ(1−x^2/n^2π^2)

より

  Π(1−x^2/^2n)=sin(πx)/πx

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 一般のr≧2に対しては

  Sr(x)=exp((x^r−1/(r−1))Π{Pr(x/n)Pr(−x/n)^(-1)^(r-1)}^n^(r-1)

  Pr=(1−x)exp(x+x^2/2+・・・+x^r/r)

で定義するのですが,正規化のための係数を除けば

  exp(∫(0,x)πt^(r-1)cot(πt)dt)

という別表示をもっています.この関数(多重サイン関数)は初等関数では表されません.

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【4】多重三角関数の性質

 多重三角関数については興味深いことがいろいろと知られていて,いくつかの特徴的な性質を有しています.

(1)対称性

  S1(−x)=−S1(x)

  S2(−x)=S2(x)^(-1)

  S3(−x)=S3(x)

(2)周期性

  S1(x+1)=−S1(x)

  S2(x+1)=−S2(x)S1(x)

  S3(x+1)=−S3(x)S2(x)^2S1(x)

(3)2分値

  S1(1/2)=2

  S2(1/2)=2^(1/2)

  S3(1/2)=2^(1/4)exp(−7ζ(3)/8π^2)

 ここで,

  S1(1/2)=2

  Σζ(2m)/m4^m=log(π/4)

  S2(1/2)=2^(1/2)

はオイラー積分

  I=∫(0,π/2)log(sinx)dx=-π/2log2

の言い替えになっています.

 オイラーは,フーリエ展開といわれるずっと前に

  log(sinx)=-Σcos(2nx)/n-log2

であることをつきとめ,これを代入して計算すれば

  1/1^3+1/3^3+1/5^3+・・・=π^2/4log2+2∫(0,π/2)xlog(sinx)dx

  ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx

  S3(1/2)=2^(1/4)exp(−7ζ(3)/8π^2)

  ζ(3)=8π^2/7log(2^(1/4)/S3(1/2))

はその言い換えになっているというわけです.

 さらに,ゼータ関数の特殊値との関連では,S1(1/2)=2より

  ζ(5)=32π^4/93log(S5(1/2)2^(11/112)/S3(1/2)^(9/14))

  ζ(2m+1)=(有理数)π^2mlog(ΠSk(1/2)2^(有理数))

(4)n分値

  ΠS1(k/n)=n

  ΠS2(k/n)=n^(1/2)

 テータ関数やアイゼンシュタイン級数の性質,たとえば,

  Ek(z+1)=Ek(z)    (周期性)

  Ek(-1/z)=z^kEk(z)  (双対性)

の双対性の代わりに対称性が加わったもの(半保型性?)といってもよいかもしれません.

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