■n角の穴をあけるドリル(その12)

(Q)円周mの大円がある.この円に内接しながら円周1の小円が転がるとき,1周するまでに小円は何回転するか? また,外接しながら転がるときは何回転するか?

(A)論より証拠,同じ大きさのコインを2つ用意して,一方を固定し他方をそれに外接するようにして実際に転がしてみると,円周は等しいのに2回転することがわかる.大円が小円のm倍のときは内転,外転に応じてそれぞれm−1回転,m+1回転することになる.もちろん円周の内側と外側で長さが違うわけではない.パップス・ギュルダンの定理をもちだすまでもなく,この問題のポイントは,小円が自転しながら同時に1公転していることにある.なお,大円は任意の閉曲線としても構わない.

 常識的には,内側であろうが外側であろうがm回転すると考えるのがアタリマエであるから,このように説明されても何となくだまされているような気分になるのが「自転・公転問題」である.

===================================

【1】n角形の穴をあけるドリルの場合

 n角の穴をあけるドリルの場合,内側の円(半径r)を固定させて,外側の円(半径2r)をそのまわりを回転させる.このとき,ステーター(内側の円)はローター(外側の円)の中心の軌跡に一致する.そしてローターの内歯数をr,ステーターの外歯数をsとすると,1ピッチでそれぞれ360°/r,360°/s回転することになる.

 冒頭に掲げた自転・公転問題に焼き直してみると,大円の円周は小円のr/s(=m)倍と考えることができる.そして,

  α:小円の中心の大円の中心に対する公転角

  β:小円の自転角

として,弧の長さを等しいとおけば

  mα=α+β → m−1=β/α

冒頭で説明したm−1の−1が生じた理由は,これでわかっていただけるものと思う.

 ローターの(n−1)公転で1回転(自転)するから,

  β/α=1/(n−1)

  m−1=r/s−1=(r−s)/s=1/(n−1)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 一見これで正しいように思えるのだが,自転・公転問題とは大円,小円の「定」「動」の関係が逆になっている.ドリルの問題で回転するのは小円ではなく大円のほうであるから,

  大円の中心の小円の中心に対する公転角=α

  大円の自転角=小円の自転角×s/r=β×s/r

  m−1=β/α×s/r=1/(n−1)

  (r−s)/r=1/(n−1)

が求める式である.

 実にややこしいため(その11)では何の説明もなしに式

  (r−s)/r=1/(n−1) → (n−2)r=(n−1)s

を掲げたが,大円の公転周期はsピッチ,大円の自転角は1ピッチごとに(1/s−1/r)回転差分だけ生ずるから,大円が1公転したとき(sピッチ)の大円の自転角は

  s(1/s−1/r)=(r−s)/r=1/(n−1)

になると考えることもできるだろう.

 ともあれ,n=4,r=24であればs=16ということになる.歯数の差を調節することによって,n角の穴があけられるのである.

===================================

【2】月の歯車,惑星の歯車,土星の輪

 月は地球のまわりの軌道を1回公転する間にちょうど1回自転する.そのため月はいつも同じ面をわれわれに向けている.月では昼(または夜)が永遠に続くのであるが,月の自転と公転を固定させている歯車の歯はもちろん重力である.

 同様に水星は太陽の周りを2公転する間に3回自転する.遠方の惑星である冥王星と海王星も整数共鳴しているし,土星の輪の中のカッシーニの空隙も土星の衛星と簡単な有理数の関係をなしている.

 輪を構成している岩と氷の粒子は,釣り合った軌道周期間の共鳴効果によってその行路から一掃されてしまうことにより,空隙が形成されるというのである.

===================================

【3】おまけ(月の満ち欠けのサイクル)

 例えば,新月(満月)から次の新月(満月)までにかかる時間は,星に対して月が同じ位置に戻るのにかかる時間よりも約2日長い.これは朔望月(29.5日周期)が月の位相の変化と関係しているのに対して,星に対する月の位置に関係している恒星月(27.3日周期)が常にずれていることを意味している.

 また,恒星年(365.2日周期)は太陽が星のある位置から再び元の位置に戻るのに要する時間である.これらの重要な月の周期を結びつける簡単な代数式を導いてみよう.

 恒星月は背景にある星に対して,月が地球の周りを1周するのにかかる時間であるから,恒星月の周期をT1とすると1日で360°/T1動くことになる.しかし,地球が太陽の周りを回る軌道に沿って常に動いているため,月は朔月(望月)から次の朔月(望月)までの間に,360°よりもわずかに多く動かなければならず,朔望月の周期をT2とすると,余計に回る角度は360°/T1×(T2−T1)である.

 また,恒星年の周期をT0とすると地球は1日で360°/T0(約1°)動くことになるから,この間,地球が太陽の周りを360°/T0×T2回ることになる.

 簡単な幾何学的関係から両者は等しいことがわかる.

  360°/T1×(T2−T1)=360°/T0×T2

より

  1/T2=1/T1−1/T0

 したがって,月の位相で決まる朔望月の周期T2は,恒星月の周期T1よりもわずかに長いことになる.実際にT0=365.2,T1=27.3,としてT2を求めてみると

  T2=T0T1/(T0−T1)=29.5057

となって,T2=29.5と一致する.

===================================