■二分法の対立(その4)

 (その3)の続きである.

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 粒子は粒子であり,波動は波動である.しかし,光子は粒子であると同時に波動でもあるという.どうしてそんなことが可能なのか?

 1927年,ディラックは電子の量子力学と相対性理論を結びつけようとして,電子の運動量pを加えたアインシュタイン方程式

  E^2=m^2c^4+p^2c^2

から2乗を外そうと考えた.

 彼が考案したのは,

    E=αxpx+αypy+αzpz+iβm

  αx^2=αy^2=αz^2=−β^2=1

  αxαy=−αyαx,αyαz=−αzαy,αzαx=−αxαz

という方法であった.

 ディラック方程式は,波動関数ψを使って,

  Eψ=(α・p+iβm)ψ

で表される.実際には4×4行列で書かれているが,実質的にはハミルトンが80年前に考案した四元数を再発見したことになる.

 ディラック方程式が明らかにしたことは,宇宙には2種類の粒子があり,ひとつはボーズ粒子で,整数スピン(0,±1,±2,・・・)をもち,2つの粒子を交換しても符号は変化しない.その代表は光子である.

 もう一つはフェルミ粒子で,半整数スピン(±1/2,±3/2,・・・)をもち,波動関数は四元数的(スピノル)で,粒子の交換により符号が変化する.通常の物質の基本粒子(陽子・中性子・電子)はすべてフェルミ粒子である.

 また,ボーズ粒子には集合する性質があり,それを利用してレーザーに使われる.逆に,フェルミ粒子には離散する性質があるため原子には電子軌道があるというわけである.

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 実のところ,粒子という概念がいささか古めかしいものになっていて,量子学力学の基礎をなす概念は「量子場」である.量子場は大域的空間であって,その局所的なものが粒子であるという考えである.

 素粒子の対称性を表すのに,群論が用いられる.ゲル・マンの研究ではスピン角運動量を決めるSU(3)という8次元の群が使われ,彼はそれを仏教にちなんで,八道説を呼んだ.

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