■原子物理学100年(その9)

 地球の中はどろどろに溶けているが,その熱も地下にある放射性原子核が崩壊するときのエネルギーに拠っている.その放射線の大きなエネルギーの起源は何だろうか? 核子の結合エネルギーは,長距離力のクーロン力と違って短距離で働いていることが放射線のけた外れに大きなエネルギーの源になっているのである.

 そのエネルギーを利用したいと考えること自体は自然な欲求であろう.飛行機でも墜落のリスクはあるが目的地に速く快適にいけるというベネフィットが優先される.原子力の平和的利用となれば経済性も安全性も大きな問題である.

 レントゲンがX線を発見した1895年の翌年,ベクレルはウランから放射線が出ていることに気づいた.1897年,J.J.トムソンは電子を発見した.さらにその翌年,キュリー夫妻はラジウムやポロニウムが放射線をだすことを発見している.

 しかし,はじめは放射線の危険性がよくわかっていなかったので,キュリー夫人もかなり無神経にラジウムを扱っていたらしく,最後は白血病になっている.吸収されたラジウムやラドンが骨に集まり,白血病を発症したのであろう.ノーベル物理学賞も化学賞の両方を受賞している科学者の命を奪ったのも放射線のもつ危険性なのである.

  [参]山本義隆「原子・原子核・原子力」

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