■原子物理学100年(その7)

  [参]山本義隆「原子・原子核・原子力」

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 核分裂の連鎖反応をほぼ瞬間的に起こさせるのが原爆,それをコントロールしながらゆっくり起こさせるのが原子炉である.

 原爆製造は完全な軍事目的であり,可能な限りの破壊力と殺傷能力の大きい武器を作ることが目的であって,安全性も経済性もすべて無視して遂行された.原爆の非人間性はいうまでもないが,原子炉であってもその危険性は他の事故とは比較にならないほど大きい.

 石油化学コンビナートが爆発したとしても何カ月かあとには事故の跡地は更地に戻るが,原発事故の現場には放射性物質が溶け落ちて遺されているわけで,チェルノブイリも福島も今後何世紀も立ち入ることができない.チェルノブイリのときはそうは思わなかった人でも,福島の惨事を迎えたあとは本当に悔いが残るであろう.

 原子炉から発生する死の灰の処理方法はいまだ確立していない.無害化する技術が将来考案されるかもしれないという脳天気な人もいるが,それはまったく現実的ではない.たとえ,地下に埋めたとしても,日本のように人口密度の高い地震国で,国中に活断層が走り,地下水系の豊富な国では,地下水までもが汚染されてしまうことになるだろう.

 そもそも原子炉の製造自体が原爆製造のバイプロダクトなのだと考えるべきである.ドイツやイタリアが国際的に脱原発を宣言したことは,将来にわたって核武装するつもりはないというメッセージでもある.ちなみに,日本だけが使用済み燃料の再処理にこだわってまだ諦めないでいるのは,原爆の燃料になるプルトニウムを将来の核武装のために備蓄しておきたいからではないかと勘ぐられても仕方がないのである.

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