■ヒルツェブルフの符号数定理とベルヌーイ数(その4)

【1】エキゾチックな球面(ミルナーの定理)

 半径が1の球面の公式は

  1次元球面:x^2+y^2=1

  2次元球面:x^2+y^2+z^2=1

  3次元球面:x^2+y^2+z^2+w^2=1

という具合に変数を増やしていくだけですから,そこには本質的な違いは生じないような気がします.

 ところが,ある次元を境にして奇妙なことが起こることが知られています.奇妙なことというのは,米国の数学者ミルナーが発見した7次元球面(8次元球の表面)では,微分同型写像で互いに移ることができない孤立した微分構造が28個もあるというものです(ミルナーの定理:1956年).

 ミルナーはエキゾチックな球面Σ^7を構成し,それが通常の7次元球面S^7とは異なることを,ヒルツェブルフの指数定理を用いて証明しました.M^8の交点行列の指数は8であるが,微分同相であると仮定すると7で割り切れなければならず,背理法でミルナーの主張がいえるのです.

 通常の微分構造が球面を除いた27個はエキゾチックな球面と呼ばれます.「7次元球面には8次元ユークリッド空間の単位球面とは異なる微分構造が入る」といっても,これだけでは何が何だか意味不明ですが,Σ^7とS^7は位相同型であっても微分同相にならない,すなわち,なめらかさの構造がまったく異なるというのです.

 しかし,微分構造とか微分同型写像とかの意味はよくはわからなくても,ミルナーの発見が衝撃的な事実であることはすぐに理解できます.われわれは,微分という言葉を何気なく使っていますが,微分が1種類とは限らないというのは直観に反していて実に驚くべきことであり,当時,ほとんどだれも予想し得なかったことだからです.ミルナーはこの業績でフィールズ賞を受けました.

 球面に許される微分構造の数を表にしてみると,

  次元 微分構造  次元 微分構造  次元 微分構造

  1 1 7 28 13 3

  2 1 8 2 14 2

  3 1 9 8 15 16256

  4 - 10 6 16 2

  5 1 11 992 17 16

  6 1 12 1 18 16

17 523264

 S^4n-1上には異なる微分構造の個数θ(4n−1)が前後の次元に比べて飛躍的に多くなります.また,

  θ(7)=28

  θ(11)=2・496

  θ(15)=2・8128

  θ(4n−1)=2^(2n-2)・(2^(2n-1)−1)×(4Bn/nの分子)

28,496,8218,・・・は完全数であることが知られています.

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