■群と魔方陣(その5)

 n×n個の升目に1〜n^2までの数を入れ,各行各列の合計が

  n(n^2+1)/2

になるように並べたものが「魔方陣」である.よく知られたパズルであるから誰しも試行錯誤したことがあるに違いない.

 たとえば,

  [1,5,9]

  [8,3,4]

  [6,7,2]

は3次の魔方陣であり,縦の並びも横の並びもその和はすべて15となっている.ただし,ここでは対角線の和がそうなることは要求しないことにする.

 容易にわかるように2次の魔方陣は存在しない.なぜなら,左上を1で始めれば,各行各列の数字の和は5であるから,右上は4でなければならない.すると下の段は[2,3]あるいは[3,2]のいずれかであるが,どう並び替えても魔方陣にはならないのである

  [1,4]  [1,4]

  [2,3]  [3,2]

 魔方陣の歴史は古く,中国では紀元前に知られていたようであるし,日本では江戸時代に関孝和をはじめ和算家が研究している.魔方陣は数学愛好家の興味をそそる単なるパズルだと思われがちだが,数論ではよくあるようにこの上なく単純な問題でもその奥には複雑な数学が広がっている.

 n次の魔方陣,すなわち,1からn^2までの数を配置した魔方陣の定和は

  n(n^2+1)/2

である.定和を手がかりにして,たとえば1から25までの数を5×5個の升目に書き込み,縦の列も横の列も対角線も足した数がすべて同じになるようにするだけなら,誰でも試行錯誤すれば解くことができる.しかし,升目の数が多くなると試行錯誤では時間がかかりすぎる.

 1次魔方陣はあまりにもつまらない.2次魔方陣は存在しない.1から9までの数字を3×3マスにあてはめる3次魔方陣は回転や鏡映をのぞいてただ1種類である.1から16までの数字を4×4マスにあてはめる4次魔方陣は回転や鏡映をのぞいて880種類ある.1から25までの数字を5×5マスにあてはめる5次魔方陣は回転や鏡映をのぞいて275305224種類あることがわかっている.6次魔方陣は何個あるかわからないほどある.急速に複雑さが増していくのである.

 数学者に限らず数学愛好家ならば,升目の数がどんなに増えてもこうすればすべての升目を埋めることができるという一般的方法とその根拠となる法則を見いだそうとするに違いない.そのとき,手がかりになるのは定和だけではない.

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 n×n×n立体魔方陣は1からn^3が1回ずつ用いられていて,その定和は

  S=n^3(n^3+1)/2n^2=n(n^3+1)/2

で与えられる.S(3)=42,S(4)=130,S(5)=315

 立体対角線上の和は定和であるが,平面対角線上の和は問題にしないことにすると,3次の立体魔方陣は4種あり,いずれも中央の数は14である.4次の立体魔方陣は無数にあるという.

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