■オイラー・マクローリンの和公式とトッド作用素(その7)

 ヒルツェブルフの符号数定理(指数定理)について紹介することにしましょう.

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【1】ヒルツェブルフの符号数定理

 Mを4の倍数次元の閉じた向きづけ可能な多様体(manifold)M^4kで,概平行性をもつと仮定する.Mの次元をnとするとき,

  n=8なら,Mの指数は7で割り切れる

  n=12なら,Mの指数は62で割り切れる

  n=16なら,Mの指数は127で割り切れる

  n=20なら,Mの指数は146で割り切れる

 一般に,n=4k(4の倍数)なら,Mの指数は

  2^(2k)(2^(2k-1)−1)/(2k!)・Bk   Bkはベルヌーイ数

を既約分数になおしたときの分子で割り切れるというのが,ヒルツェブルフの指数定理です.また,多様体M^4kの符号数がそのL種数に等しいというのが,ヒルツェブルフの符号数定理です.

 ここで,Bmはm番目のベルヌーイ数を指します.ベルヌーイ数の最初のいくつかを書くと,B1=1/6,B2=1/30,B3=1/42,B4=1/30,B5=5/66,B6=691/2730,B7=7/6,B8=3617/510,・・・

[注]これと混乱しやすい記号も慣用的に使用されているので,注意が必要です.

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【2】ベルヌーイ数

 ヒルツェブルフの符号数定理は微分トポロジーにおける定理であり,一方,ベルヌーイ数は主に数論の世界で用いられる定数であって,ベルヌーイ数など意外なものが顔を出すところに,ヒルツェブルフの定理の奥深さ(?)が感じられます.

 ベルヌーイ数は,数多くの魅惑的な整数論的特性をもっていて,元来はベキ乗和の公式

  Σk^s=1^s+2^s+3^s+・・・+n^s

を求めるために1713年に考案されたものですが,次のようなベキ級数展開に現れる係数として定義されます.

  x/(1−exp(-x))=1+1/2x+Σ(-1)^(k-1)Bk/(2k)!x^2k

 同じことですが,ベルヌーイ数は

  x/tanhx=xcoshx/sinhx

=1+B1/2!(2x)^2−B2/4!(2x)^4+B6/2!(2x)^6−・・・

 あるいは,x/tanhx=2x/(exp(2x)−1)+xより,

  x/(exp(x)−1)=1−1/2x+B1/2!x^2−B2/4!x^4+B3/6!x^6−・・・

の係数として得られます.

 さらに,ベルヌーイ数を用いたベキ級数展開をいくつか掲げておきます.

a)1/sinh2x=1/tanhx−1/tanh2xより,

  x/sinhx=1−(2^2−2)B1/2!x^2+(2^4−2)B2/4!x^4−・・・

b)1/tanhx=2/tanh2x−1/tanhxより,

  tanhx=2^2(2^2−1)B1/2!x−2^4(2^4−1)B2/4!+・・・

c)tanhix=itanxより,

  tanx=2^2(2^2−1)B1/2!x+2^4(2^4−1)B2/4!+・・・

 母関数は,整数の性質を調べるのにベキ級数の問題(関数論)に翻訳することによって答えを見つけることができる強力な発見手段となっているのですが,これらの式はベルヌーイ数の別の形の母関数表示を与えているものと考えられ,実際,数論的に面白い性質を証明するのに利用することができます.

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 ベルヌーイ数が,整数論にとって欠かすことができない存在なのは,ゼータ関数との関係にその理由があり,リーマンのゼータ関数

  ζ(s)=Σ1/n^s=Π(1−p^(-s))^(-1)

とベルヌーイ数との間には,次の公式が成り立ちます.

  Π1/(1−p^(-2m))=ζ(2m)=Bm/2・(2π)^(2m)/(2m)!

 また,どんなBn/nの約数にもならない素数は正則素数と呼ばれるのですが,与えられた素数pの正則性を確かめるためには,クンマーの合同式により,

  1≦n≦(p−1)/2

について,Bnの分子を調べればよいことになります.

 1850年,クンマーはどんなBn/nの分子の約数にもならない素数(正則素数)をベキ指数とする場合に,フェルマーの最終定理を証明して以来,正則素数の判定にも顔を出す興味深い数となりました.(クンマーは円分体の整数論の研究に専念し,正則素数であるすべてのnに対してフェルマー予想が成立することを示したのですが,正則素数pはBp-3 までのベルヌーイ数Bkの分子を割り切ることのできない素数として定義されていて,100以下の非正則素数は37,59,67ですべてですから,この3つの数以外では100までのnに対してフェルマー予想が正しいことが証明されたことになります.)

 Bn/nを既約分数で表したときの分母を求めることは,1840年,クラウセンとフォン・シュタウトの定理により,厳密に求めることが容易になったのですが,Bn/nの分子はnに対して急激に増加するため,計算はずっと難しかしくなります.

 以下に,nが小さいときの表を掲げておきますが,

  Bn/nの分子>Bn/n>4/√e(n/πe)^(2n-1/2)

より,

  (n/πe)^(2n)

のオーダーとなりますから,n>πe=8.539・・・のとき,分子は急激に大きくなることが示されます.

  n Bn/nの分子  n Bn/nの分子

 ≦5 1 9 43867

  6 691 10 174611

  7 1 11 77683

  8 3617 12 236364091

 この分子の値は,平行化可能な多様体の境界となるエキゾチック(4n−1)次元球面の微分同相からなる群が,位数

  2^(2n)(2^(2n-1)−1)・Bn/nの分子

の巡回群であることから,微分トポロジーの研究者の注意を引くものとなっていたのですが,B7の分子が7で割り切れることが,ミルナーがエキゾチック球面の証明に用いた方法に繋がったのです.

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