■ゼータ関数と解析接続

 解析接続とは,たとえば実軸上の三角関数cosxを正則関数

  cosz=1−1/6z^2+1/120z^4−・・・

に解析接続し,虚軸に制限すると

  cos(iy)=1+1/6y^2+1/120y^4+・・・=cosh(y)

という双曲関数が得られます.

 同様に,実軸上の単項式x^nを単項式z^nに解析接続し,それを単位円周上に制限すると

  (cosθ+isinθ)^n=cos(nθ)+isin(nθ)

という関数(ド・モアブルの公式)を得ることができます.オイラーの公式

  exp(iθ)=cosθ+isinθ

を用いれば

  exp(inθ)=cos(nθ)+isin(nθ)

 このように実解析関数の変数を複素数に拡張することにより未知の世界が開けてきます.ところが,関数論(複素解析)を深くも浅くも学んだ経験のない小生にとってなかなか理解できない概念の1つがリーマン・ゼータ関数の解析接続です.

 ゼータ関数は無限級数

ζ(x)=Σ1/n^x=1/1^x+1/2^x+1/3^x+1/4^x+・・・

として定義される関数です.すなわち,ゼータ関数は調和級数を一般化したものと考えることができます.x>1ならばゼータ関数は収束します.しかし変数を実数に限定している限り,x=1で∞となってしまいそれより左側に進むことができなくなります.

 ゼータ関数を複素数へ拡張する必要があるのです.sinxはxが実数のときは−1から1までの値をとりますが,複素数のときは違います.ゼータ関数も同様です.ところが,オイラーが使っていた神秘的な等式

  1+2+3+4+5+・・・=−1/12

  1^2+2^2+3^2+4^2+5^2+・・・=0

  1^3+2^3+3^3+4^3+5^3+・・・=1/120

  1^4+2^4+3^4+4^4+5^4+・・・=0

では正数の無限級数の総和ですから無限大のはずですが負や零になっていて,一見して目がくらんでしまいます.

  ζ(s)=Σn^(-s)

はRe(s)<1では意味をなさなくなるというわけですが,一体,リーマン・ゼータ関数の解析接続はどうなっているのでしょうか?

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【1】オイラーの計算

 1749年にオイラーは発散級数を大胆に計算することによりこれらの結果をみいだしましたが,これらの式は現代数論では当然のことのように使われていて,リーマン・ゼータ関数の解析接続後にそれぞれ−1,−2,−3,−4での値として正当化されます.

 無限大になるところをうまく引き去って有限の値をだすことを物理学の用語で「繰り込み」といいますが,オイラーの計算の仕方を紹介すると

  φ(s)=1-1/2^s+1/3^s-1/4^s+・・・=(1-2^(1-s))ζ(s)

より

  φ(0)=-ζ(0),φ(-1)=-3ζ(-1),φ(-2)=-7ζ(-2),φ(-3)=-15ζ(-3)

また,

  f(x)=1+x+x^2+x^3+・・・=1/(1-x)

  g(x)=xdf(x)/dx=x+2x^2+3x^3+4x^4+・・・=x/(1-x)^2

  h(x)=xdg(x)/dx=x+2^2x^2+3^2x^3+4^2x^4+・・・=x(1+x)/(1-x)^2

より

  f(-1)=φ(0)=1/2,g(-1)=-φ(-1)=-1/4,h(-1)=-φ(-2)=0

これから

ζ(0)=-1/2,ζ(-1)=-1/12,ζ(-2)=0,・・・

となる.

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【2】Re(s)>1のとき

 ゼータ関数を複素数へ拡張する場合,素朴に

  ζ(s)=Σn^(-s)=Σexp(-slogn)

s=u+vi,u=Re(s),v=Im(s)として,オイラーの公式を用いれば

  ζ(s)=Σexp(-ulogn){cos(-vlogn)+isin(-vlogn)}

    =Σn^(-u)cos(vlogn)-iΣn^(-u)sin(vlogn)

  ζ(s)=f(u,v)+ig(u,v)

のように解析的に求められればよいのですが,これでは実部Reζ(s)も虚部ζ(s)も解析的には定められそうにありません.どうやら近似値を求める必要がありそうです.

 ζ(s)=Σn^(-s)はRe(s)>1ならば解析接続可能な領域ですからゼータ関数の値は存在し,sが複素数でも絶対収束します.解析的な値を求めることはできなくても近似値ならMathematicaなどで求めることができ,具体的な答えを返してくれます.また,そうであるからには人間の手計算でも(何日かかるかはわからないが)できるはずです.

 実変数の場合の例をあげますが

  ζ(2)=Σ1/n^2=1+1/4+1/9+1/16+・・・

を使って求めようとすると小数点以下2位まで精確に求めるだけで200項以上必要になります.これでは計算効率が悪いので収束を加速させるための工夫が必要です.

 たとえば,

  ζ(2)=1+Σ1/n^2(n+1) (n=1~)

  ζ(2)=7/4+Σ1/n^2(n^2-1) (n=2~)

  ζ(2)=2-Σ1/n^2(4n^2-1) (n=1~)

  ζ(2)=59/36+Σ1/n^2(n^2-1)(4n^2-1) (n=2~)

  ζ(2)=235/144+4Σ1/(n-2)(n-1)n^2(n+1)(n+2) (n=3~)

などはζ(2)=Σ1/n^2よりも速くπ^2/6に収束します.

  ζ(3)=5/4-Σ1/(n-1)n^3(n+1) (n=2~)

  ζ(3)=1+Σ1/n^3(4n^4+1) (n=1~)

  ζ(3)=9/8+Σ1/n^3(9n^8+18n^6+21n^4+4) (n=1~)

  ζ(3)=115/96+4Σ1/(n-2)(n-1)n^3(n+1)(n+2) (n=3~)

などもその例で,杉岡幹生氏との掛け合い漫才「奇数ゼータと杉岡の公式」シリーズにも類似の公式が掲げられています.

 また,2項係数を使った

  Σ1/(2n,n)={2π√3+9}/27

  Σ1/n(2n,n)=π√3/9

  Σ2^n/n(2n,n)=π/2

  ζ(2)=3Σ1/n^2(2n,n)

  ζ(2)=12Σ(2-√3)^n/n^2(2n,n)

  ζ(3)=5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)

  ζ(4)=36/17Σ1/n^4(2n,n)

なども有効でしょう.→コラム「ゼータとポリログ関数」参照

 なお,

  ζ(3)=5/2Σ(-1)^(n+1)/n^3(2n,n) (n=1~)

より,

  ζ(5)=R*Σ(-1)^(n-1)/n^5(2n,n)

と予想されますが,

  ζ(5)=2Σ(-1)^(n+1)/n^5(2n,n)-5/2Σ(Σ1/n^2)(-1)^(n+1)/n^3(2(-1)^(m+1)/m^3(2m,m) (n,m=1~)

    =5/2*Σ(1/1^2+1/2^2+・・・+1/(n-1)^2-4/5n^2)(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)

となって,予想に反して,Rはたとえ有理数であったにしても,簡単なものにはならないということです.

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【3】0<Re(s)<1のとき(オイラー・マクローリンの和公式)

 たとえば,漸近公式

  ζn(x)=Σ1/k^x=logn+γ+1/2n-1/12n^2+120n^4-1/252n^6+・・・ (k=1~n)

  γ=0.57722・・・(オイラーの定数)

では,n→∞のときζn(x)→ζ(x)に収束します.複素変数の場合であっても,Re(s)>1ならば解析接続可能な領域ですからゼータ関数の値は存在し絶対収束します.

 解析的な値を求めることはできなくても近似値なら求めることができます.私はMathematicaがどのようにして近似値を求めているのかその手法を知りませんが,Mathematicaの近似値計算手法はサポート会社に訊ねても答えてくれるかどうかはわかりません.

 それではRe(s)<1のときはどうなのでしょうか? 1732年にオイラーは今日オイラー・マクローリンの和公式として知られている公式を証明なしに発表しました.それ以降,この公式を使って既知の級数をきちんと評価できるようになりました.

 ゼータ関数に対するオイラー・マクローリンの和公式の応用例

  ζ(s)=1/(s-1)+1/2-s∫(1,∞)(x-[x]-1/2)/x^(s+1)dx

において,この式の右辺の積分はRe(s)>0で絶対収束します.すなわち,この式はRe(s)>0へのζ(s)の解析接続を与えていることになります.また,s=1が極であることも見て取れます.

 このことから0<Re(s)<1のときのζ(s)の値もオイラー・マクローリンの和公式を使って意味をもたせることができ,たとえば,半整数点での値

  ζ(1/2)=-1.46035

を求めることができます.普通の意味では無限大になっているはずですが(奇妙なことに)発散しません.

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【4】Re(s)<0のとき(関数等式)

 オイラー・マクローリンの和公式は,ベルヌーイ数B2kを使えばさらに左側に進むことができます.

  ζ(s)=1/(s-1)+1/2+ΣB2ks(s+1)・・・(s+2k-2)/(2k)!-s(s+1)・・・(s+2m)∫(1,∞)(-1)^(m-1)Σ2sin2πnx/(2πn)^(2m+1)/x^(s+2m+1)dx

右辺の積分はRe(s)>-2mであれば存在し,s>-2m,s≠1なるすべてのsについて定義することができます.

 しかし,このような区分的な解析接続ではなく,もっとうまい手があります.結論を先にいうと,sを複素変数とするとき,関数等式

  ζ(s)=π^(s-1/2)Γ((1-s)/2)/Γ(s/2)ζ(1-s)

を用いればζ(s)をs=1(極)を除くすべての複素数に対して意味をもたせることができ,sを−1とすると値が−1/12,2とすると値が0になるというわけです.Γはガンマ関数です.

 また,

ξ(s)=1/2s(s-1)π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)

あるいは

ξ(s)=π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)

で定義すると

ξ(s)=ξ(1-s)

のように完全に左右対称な美しい形に書くことができます.ガンマ関数はゼータ関数の仲間と思ってほしい所以です.

 関数等式は

(1)sを複素変数として複素全平面への解析接続を与えることができること

(2)ζ(s)がRe(s)=1/2を対称軸とする美しい対称性をもっていること

を示しています.

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【5】ガンマ関数からの補足

 関数等式はきわめて簡潔に書かれているので,そういうふうに「解析接続」されているといってしまえばそれまでですが,しかし,このように定義されても私はどうしてもつかえてしまうのです.おおかたの人にとってもまったくわからないあるいはもう一つピンとこないほうが普通なのではないでしょうか.

 私のように物わかりの悪い者は世の中にそうたくさんはいないと思いますが,私の素朴な疑問も何らかの役に立つかもしれないので,冗長ですが以下の話におつきあい下さい.

  Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt x>0

無限積分Γ(x)をxの関数とみてガンマ関数といいます.

  Γ(1)=∫(0,∞)exp(-t)dt=1

  Γ(1/2)=∫(0,∞)t^(-1/2)exp(-t)dt

ここで,t=u^2とおくと∫(0,∞)exp(-u^2/2)du=√π/2(ガウス積分)より

  Γ(1/2)=√π

が得られます.

 オイラーの第2積分とも呼ばれるガンマ関数Γ(x)には,Γ(x+1)=xΓ(x)の関係があり,次のような漸化式が成り立ちます.

  Γ(x+1)=xΓ(x)=x(x-1)Γ(x-1)=・・・・

したがって,xが正の整数nのときにはΓ(n+1)=n!が成り立ち,ガンマ関数は階乗の一般形となっていることがわかります.

 また,半整数のときには,Γ(n+1/2)=(2n)!√π/{2^(2n)n!}です.なお,ガンマ関数Γ(x)はx>0について微分可能で,x=1.4616321449・・・で最小となります.

 ガンマ関数の定義をx<0の領域にも拡張することができます.すなわち

-1<x<0のとき,Γ(x)=Γ(x+1)/x

-2<x<-1のとき,Γ(x)=Γ(x+2)/x(x+1)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

-n<x<-n+1のとき,Γ(x)=Γ(x+n)/x(x+1)・・・(x+n-1)

 このようにして0<x<1(あるいは長さ1の任意の区間)でのガンマ関数の値から,すべての実数点におけるガンマ関数の値が計算できます.負の半整数値の例として

  Γ(-1/2)=-2√π

  Γ(-3/2)=4/3√π

  Γ(-n+1/2)=(-1)^n{2^(2n)n!}√π/(2n)!

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 複素数の領域への拡張は

  Γ(s)=∫(0,∞)t^(s-1)exp(-t)dt

で与えられます.

  t^(s-1)=t^(-1+u)cos(vlogt)+it^(-1+u)sin(vlogt)

より

  Γ(s)=∫(0,∞)t^(-1+u)cos(vlogt)exp(-t)dt+i∫(0,∞)t^(-1+u)sin(vlogt)exp(-t)dt

  Γ(s)=f(u,v)+ig(u,v)

とおくと

  f(u,v)=∫(0,∞)t^(-1+u)cos(vlogt)exp(-t)dt

  g(u,v)=∫(0,∞)t^(-1+u)sin(vlogt)exp(-t)dt

t>0なので被積分関数の実部,虚部ともにtで積分可能な関数となります.そして,Re(s)>0のときΓ(s)は絶対収束しますが,Re(s)<0に対しては

  Γ(s)=Γ(s+1)/s

が成り立つように延長してやることによって複素全平面に解析接続できます.

 また,その極はs=0,−1,−2,−3,・・・のみで零点は存在しません.このことから直ちにわかることは,関数等式

  ζ(s)=π^(s-1/2)Γ((1-s)/2)/Γ(s/2)ζ(1-s)

の右辺の2つのガンマ関数の商の部分はs=0,−2,−4,−6,・・・に零点をもつということです.s=−2,−4,−6,・・・はゼータ関数の自明な零点となるのですが,点s=0だけはζ(1-s)が極となるため零点ではありません.

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【6】関数等式の証明

 ゼータ関数とガンマ関数との間に

  ζ(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)t^(s-1)/(exp(s)-1)dt

  ζ(s)=1/(1-2^(1-s))Γ(s)∫(0,∞)t^(s-1)/(exp(s)+1)dt

が成り立つのですが,まず,これらを導いてみましょう.

  Γ(s)=∫(0,∞)t^(s-1)e^(-t)dt

にt=nxを代入するならば

  Γ(s)/n^s=∫(0,∞)x^(s-1)e^(-nx)dx

が得られる.この式のnについての総和をとるなら

  ΣΓ(s)/n^s=Σ∫(0,∞)x^(s-1)e^(-nx)dx

        =∫(0,∞)x^(s-1)e^(-x){1+e^(-x)+e^(-2x)+・・・}dx

        =∫(0,∞)x^(s-1)e^(-x)/(1-e^(-x))dx

∵ 1+x+x^2+x^3+・・・1/(1−x)

        =∫(0,∞)x^(s-1)/(e^x-1)dx

これより

  Γ(s)ζ(s)=∫(0-∞)x^(s-1)/(e^x-1)dx

が得られます.

 また,交代級数

  φ(s)=1-1/2^s+1/3^s-1/4^s+・・・=Σ(-1)^(n-1)/n^s

を考えます.負項を正項に変えて,あとでその2倍を引きます.

  φ(s)=(1+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・)-2(1/2^s+1/4^s+・・・)

     =(1-2^(1-s))ζ(s)

となります.

  ΣΓ(s)(-1)^(n-1)/n^s

=Σ∫(0,∞)x^(s-1)(-1)^(n-1)e^(-nx)dx

=∫(0,∞)x^(s-1)e^(-x){1-e^(-x)+e^(-2x)-・・・}dx

=∫(0,∞)x^(s-1)e^(-x)/(1+e^(-x))dx

∵ 1−x+x2 −x3 +・・・=1/(1+x)

=∫(0,∞)x^(s-1)/(e^x+1)dx

これより

  Γ(s)ζ(s)(1-2^(1-s))=∫(0-∞)x^(s-1)/(e^x+1)dx

が得られます.

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 次に,ガンマ関数の積についての有名な公式

  Γ(x)Γ(1-x)=π/sinπx・・・相反公式(相補公式)

  Γ(1/2+x)Γ(1/2-x)=π/cosπx

  Γ(x)Γ(x+1/2)=√πΓ(2x)/2^(2x-1)・・・乗法公式(倍数公式)

の相反公式(相補公式)

  Γ(x)Γ(1-x)=π/sinπx

を用いると

  ζ(s)=2Γ(1-s)sin(πs/2)(2π)^(s-1)ζ(1-s)

となりますが,さらに乗法公式(倍数公式)

  Γ(x)Γ(x+1/2)=√πΓ(2x)/2^(2x-1)

を用いれば

  sin(πs/2)=π/Γ(s/2)Γ(1-s/2)=√πΓ((1-s)/2)/2^sΓ(1-s)Γ(s/2)

より

  π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)=π^((1-s)/2)Γ((1-s)/2)ζ(1-s)

と整理されます.

 これは

  ζ(s)=π^(s-1/2)Γ((1-s)/2)/Γ(s/2)ζ(1-s)

の形にも書けるのですが,前者の方がより対称性の高い形でしょう.

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【7】リーマン予想

 ゼータ関数の対称性はガンマ関数の対称性

Γ(s)Γ(1-s)=π/sinπs

に補ってもらうとs=1/2を対称軸とする左右対称な美しい形に書くことができることがわかりました.

 半平面Re(s)<0には自明な零点以外に零点はなく,Re(s)>1で零点をもたない・・・こうして帯状の領域0≦Re(s)≦1だけが残されたことになります.このs=1/2の軸に関する対称性に基づいて,ζ(s)の零点が自明な零点s=−2,−4,・・・,−2nと非自明な零点s=1/2+tiの線上にあるというのが有名なリーマン予想です(1859年).

 数学の巨人と称されるヒルベルトは,1919年に数学の難問について講義し,「リーマン予想は私が生きているうちに解決され,フェルマー予想は長らく未解決のままであろう」と述べたといわれています.360年ものあいだ未解決の数学的難問であったフェルマー予想は1994年,ワイルスによって証明されました.

 しかし,ヒルベルトの推測に反し,リーマン予想は依然としてデッドロック状態にあります.リーマン予想は一部に素数定理なども含む数学上の最大の難問であって,いまだ未解決なのです.

 ヒルベルトがパリ問題において,リーマン予想と2^(√2)の超越性の証明の難しさを評価することに失敗したことは,たとえ数学の巨人と呼ばれる人であっても,将来を予言することがいかに難しいかを意味する有名な例として,しばしば引用されています.予想がどれほど的中しないかという例は,科学史上いくらでも求めることができます.予言が的中しないのは予言者の不明に帰すべきでなく,未来を占うことの困難さを教えてくれるのです.

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【8】雑感

 ゼータ関数が整数点でとる値はわかっても,半整数点での値や複素変数での値は?と問われれば答えに窮してしまう人は多いであろうと思う.かくいう小生もそうであるし,実際,関数等式はζ(1/2)の値を与えてはくれない.

 大ざっぱでしかも歯切れの悪い回答になってしまったかもしれないが,かくいう小生には一を聞けば十を悟るだけの理解力が欠如しているので,自分にわかるように,何だそうだったのかと思えるように書けば多くの人を利することができるにちがいないと思いながら解説した.

 しかし,「本当にわかりやすいか?」とあらたまって問われると,筆力未熟の所以,自信はぐらついてしまうのだが,この拙文が何がしかお役に立てればと願っている.

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【補】ガンマ関数・ベータ関数とレムニスケート周率

  f(x)=1/(1-x^2)^(1/2)

のとき,

  sin^(-1)z=∫(0,z)f(x)dx

ですから,

  2∫(0,1)f(x)dx=3.141592・・・=π  (円周率)

となります.それでは,

  f(x)=1/(1-x^4)^(1/2)

としたとき,

  ∫(0,1)f(x)dx=1.311028・・・=ω  (レムニスケート周率)

は,どのようにすれば得られるのでしょうか?

 ガンマ関数(オイラーの第2種積分)は,

  Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt

ベータ関数(オイラーの第1種積分)は,

  B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt

によって定義されます.ベータ関数とガンマ関数との間には,

  B(a,b)=Γ(a)Γ(b)/Γ(a+b)

の関係がありますから,ベータ関数はガンマ関数の兄弟分にあたります.

  Γ(1)=1,Γ(1/2)=√π

であることを知っていればたいてい間に合いますが,Γ(1/2)=√πを得るにはベータ関数が用いられます.この関数において,t=sin^2θとおくと

  dt=2sinθcosθdθ

ですから

  B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt=2∫(0,π/2)sin^(2a-1)θcos^(2b-1)θdθ

ここで,a=1/2,b=1/2とすると

  B(1/2,1/2)=2∫(0,π/2)dθ=π

  Γ^2(1/2)/Γ(1)=π

Γ(1)=1ですから,Γ(1/2)=√πとなります.

 ベータ関数において,a=m/n,b=1/2とおき,t=x^nと置換すると,

  ∫(0,1)x^(m-1)/(1-x^n)^(1/2)dx=Γ(m/n)√π/nΓ(m/n+1/2)

したがって,

 (m,n)=(1,1)のとき,∫(0,1)1/(1-x^1)^(1/2)dx=2

 (m,n)=(1,2)のとき,∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx=π/2

 (m,n)=(1,3)のとき,∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π

 (m,n)=(1,4)のとき,∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)

が得られます.

 レムニスケート周率ωが,

  ω=Γ^2(1/4)/2^(3/2)π^(1/2)

と書けるいうわけです.

  ∫(0,1)1/(1-x^1)^(1/2)dx=2

  ∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx=π/2

は初等的にも得ることができます.一方,

  ∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π

  ∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)

は,特別な数と楕円積分を関係づけるものになっています.

 これらを,Γ^q(1/q)の形で統一的に表示すれば,

  Γ^2(1/2)=π=2∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx

  Γ^3(1/3)=2^(4/3)3^(1/2)π∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx

  Γ^4(1/4)=2^5π(∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx)^2

 なお,

  ∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π

を得るには,ガンマ関数の乗法公式(倍数公式)

  Γ(x/2)Γ((x+1)/2)=π^(1/2)Γ(x)/2^(x-1)

と相反公式(相補公式)

  Γ(x)Γ(1-x)=π/sinπx

また,

  ∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)

を得るには乗法公式を用いています.

[補]∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx・∫(0,1)x^2/(1-x^4)^(1/2)dx=π/4

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【補】ディリクレ積分

 ベータ関数を多変数化すると,ディリクレの積分公式

  ∫x1^(p1-1)・・・xm^(pm-1)(1−x1−・・・−xm)^(q-1)dx1・・・dxm

 =Γ(p1)・・・Γ(pm)Γ(q)/Γ(p1+・・・+pm+q)

が得られます.→[参]高木貞治「解析概論」岩波書店,p359

 3次元曲面(x/a)^p+(y/b)^q+(z/c)^r=1と3つの直角座標面によって囲まれた領域の体積積分はディリクレ積分によって

  V=∫∫∫x^(u-1)y(v-1)z(w-1)dxdydz

   =a^ub^vc^wΓ(u/p)Γ(v/q)Γ(w/r)/pqrΓ(1+u/p+v/q+w/r)

と表されます.

[問]3次元アステロイドの体積

  x^(2/3)+y^(2/3)+z^(2/3)=a^(2/3)

  V=∫∫zdxdy

を求めよ.  (答)4/35πa^3

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