■平面格子のキュリー点(その7)

 「CsCl型構造では,1個のCsイオンに最も接近しているのは8個のClイオンである.この最近接距離をrとすると,第2近接は(2/√3)rの距離にある6個のCsイオン,第3近接は(2√2/√3)rの距離にある12個のCsイオン,第4近接は(√11/√3)rの距離にある24個のClイオン,さらに8個のCsイオンが2rの距離(第5近接)に存在する.

 したがって,CsClのマーデルング級数は,

  8-6/(2/√3)-12/(2√2/√3)+24/(√11/√3)-8/4-・・・

になる.」

 一般に,無限級数が収束する場合,それぞれの項のなかで絶対値が小さいものほど寄与が小さくなるから,正にせよ負にせよ絶対値の大きいものから足しあげていくのが常套であり,第n近接を求めて,原点からの距離の近い順に足し合わせてみるのは妥当なところであると考えられる.したがって,たいていの物性をテーマとする物理の本には,この無限級数が収束するのは当然のごとく書かれてある.

 この記述をみた瞬間,小生はこの無限級数は本当に収束するのかという疑問を持った.たとえば,CsClのマーデルング級数を実際に計算すると

  M=8−5.196−7.348+12.534−4−・・・

になり,はたせるかな,この方法では計算は収束しない.直観は正しかったのである.

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