■ミハイレスクの定理

  0<(e^π−π^e)<1

を示すことができるだろうか?

  e^π=23.14069・・・≒π+20

  π^e=22.45915・・・

となるが,π^eについては,昔なら数表を使うか,計算尺(LL尺付き)を使うことになるだろう.

 なお,π^eは代数的数かわかっていないが,e^πは超越数であることがわかっている.Mathematicaに代数的数かどうか調べる機能がある.この判定を数式処理システムが自動証明できるとは思えない.プログラム組み込みで,これらの判定をするようになっているのだろう.

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【0】カタラン予想との類似性

 ベルギーの数学者カタランは,カタラン数やカタランの立体(準正多面体の双対)でその名を知られています.1844年,カタランは方程式:

  x^p−y^q=1

の整数解が(x,y,p,q)=(3,2,2,3)だけである,すなわち,8と9だけが唯一連続するベキ乗数であるということであると予想しました.  3^2−2^3=1

ですが,それに証明を与えることはできませんでした.

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【1】カタラン予想の攻略

 この問題には長い歴史があります.ビトリーは平方数と立方数で1違うものは(1,2)(2,3)(3,4)(8,9)しかないと指摘,ゲルションは3^m±1(m>2)は必ず奇数の素因数をもつため,2の累乗にはならないことを証明してビトリーの正当性を明らかにしました.

 ベルゲンは1320年頃,

  3^p−2^q=1

ならば(p,q)=(2,3)であることを証明しました.

 1734年,オイラーは,

  x^2−y^3=1

ならば(x,y)=(3,2)であることを示しました.しかし,カタラン予想は4以上の累乗も認められているので,こうした結果だけでは証明できません.

 p=2,q=3(オイラー,1738年),q=2(ルベーグ,1850年),p=3,q=3(ナゲル,1921年),p=4(セルバーグ,1932年),p=2(チャオ・コウ,1967年)などの研究があり,たとえば,x^p−y^2=1は正の整数解をもたないというのがルベーグの定理です.

 1976年,テイデマンはベーカーの先駆的仕事をもとにして,カタランの方程式にはたとえ解があるにしても有限個の解しかなく,その場合(p,q)は10^110より小さくなければならないことを証明しました.1999年,ミニョットは上限を10^16,下限を10^7の範囲まで大きく減らしました.

 しかし,これも大きすぎてコンピュータではチェックできす,証明は望み薄でした.

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【2】ヴィーフェリッヒの定理(1909年)

 「フェルマー方程式x^p+y^p=z^pが非自明解をもつためには,pはヴィーフェリッヒ素数であることが必要である」

  (2^(p-1)−1)/p=0   (mod p)・・・Wieferich判定基準

 すなわち,2^(p-1)−1はp^2で割り切れるというものです.フェルマーの小定理より(2^(p-1)−1)/pは整数となりますが,非常に稀にこの整数がpの倍数になることがあり,そのときpをヴィーフェリッヒ素数といます.

 ヴィーフェリッヒ素数はp=1093,3511が知られています.2つのヴィーフェリッヒ素数−1を2進数に変換すると

  1092=10001000100

  3510=110110110110

のように奇妙なパターンがみられるのだそうです.

 なお,1910年,ミリマノフは

 「フェルマー方程式x^p+y^p=z^pが非自明解をもつためには,pはミリマノフ素数であることが必要である」をつけ加えています.

  (3^(p-1)−1)/p=0   (mod p)

 すなわち,3^(p-1)−1はp^2で割り切れるというものですが,(3^(p-1)−1)/pが整数となるpとしてp=11,1006003が知られています.また,5^(p-1)−1がp^2で割り切れるpとしてはp=188748146801が知られています.

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【3】ミハイレスクの定理(2002年)

 オイラー以後,カタラン予想の一般的な証明は多くの数学者たちの挑戦を退けてきたのですが,2002年,ルーマニアの数学者,ミハイレスクがすべてを解決しました.

 ミハイレスクは

 「カタラン方程式x^p−y^q=1が非自明解をもつためには(p,q)がヴィーフェリッヒ対でなければならない」

すなわち,3^2−2^3=1以外の解が存在するならば,p,qはどちらもヴィーフェリッヒ素数の2倍,したがって,p^(q-1)をq^2で割ると余りが1,q^(p-1)をp^2で割ると余りが1にならなければならないことを証明しました.

 (p,q)がヴィーフェリッヒ対でなければならないこと,そして,ミハイレスクはクンマーがフェルマー予想の証明の試みの中での発展させた「円分体の理論」を利用して,1のn次複素根を使った巧みな証明によって,158年間進展の見られなかったこの問題の最後の穴をふさぐことができたのです.

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【4】カタラン予想の一般化

 かくしてカタラン予想はミハイリスク定理となって,数学界を仰天させたのですが,ワイルスがフェルマー予想を証明したときのほどの興奮はなく解かれました.しかしまだ終わりではありません.

 カタラン予想をガウス整数を使って一般化すると

  x^p−y^q=±1,±i

なる複素数a+biが存在するかどうかという問題になります.

 現在のところ,

  (78+78i)^2−(−23i)^3=i

以外の解があるかどうかについてはわかっていないそうです.

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