■四角形の面積(その2)

 中国最古の数学書「九章算術」の編纂は紀元前1世紀に始まった.その後,何世紀にもわたって注釈がつけ加えられたが,なかでも263年に劉徽の書いた注釈書が最も優れている.

 [参]アン・ルーニー「数学は歴史をどう変えてきたか」東京書籍

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【1】九章算術の幾何(角錐台の体積公式)

 魏の時代に書かれた劉徽の「九章算術」の体積計算では棋(き)と呼ばれる4種類のブロックを利用して,角錐や角錐台の体積公式を得ている.4種類のブロックとは立方体,塹堵(ぜんと:1/2立方体),陽馬(1/3立方体),鼈臑(べつどう:1/6立方体)である.鼈臑とはすっぽんのすね(前足の骨)の意であるそうだ.

 たとえば,正四角台は中央にある立方体,側面にある4つの塹堵,各隅に1つずつある4つの陽馬に細分される.それらをうまく組み換えることによって,3個の三角錐(V=a^2h/3,abh/3,b^2h/3)に転化させることができる.このことは角錐台の体積公式が

  (a^2+ab+b^2)h/3

となることを示している直接的な証明法である.

 劉徽の「九章算術」では,台形の面積公式

  (a+b)h/2

が台形を2個の三角形(S=ah/2,bh/2)に転化させて得られるのと同様のアイディアで角錐台の体積を求めているのである.

 すなわち,「九章算術」の立方体,塹堵(ぜんと),陽馬,鼈臑(べつどう)はピースを並べ替えて等積変形により立体の体積を求積するもので,同じく中国生まれの「タングラム」の立体版と考えられる.

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【2】立方体の切断によって得られる空間充填立体

 塹堵,陽馬,鼈臑は立方体の切断によって得られる空間充填立体と考えることができる.

 なお,鼈臑(テトラドロン)はペンタドロン2原子を凧型面で接合させた2原子分子σ2であるが,それ自体を1個の原子とみなすこともできる.σ2にはいくつかの空間充填異性体が存在することになる.

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