■似ているような似ていないような(その6)

 もし,AとBが関連していることがわかったとしても,AがBの原因なのか,BがAの原因なのか,あるいはAとBとも何か他の原因Cの結果なのかはそれだけでは決められない.

 次に掲げるパップス・ギュルダンの定理は積分幾何学の1例であるが,コインの問題もそうだろうか? 両者の因果関係は如何に?

===================================

【1】パップス・ギュルダンの定理

 半径aと半径b(b<a)の同心円に挟まれた円環状部分の面積は

  πa^2−πb^2

で与えられるが,この図形は2次元の円に幅をもたせたものと考えることができる.

 そこで,帯の幅(a−b)に重心(原点からの距離:(a+b)/2)が描く円周長2π(a+b)/2を乗ずると

  円周長×幅=2π(a+b)/2×(a−b)=πa^2−πb^2

となって同じ値が得られる.

 円を円と交わらない軸を中心にして3次元空間内で回転させるとトーラス(円環面)が得られる. 半径bの円を3次元空間内で半径aで回転させたトーラスの場合,

  表面積=円周長2πb×円周長2πa=4π^2ab

  体積=断面積πb^2×円周長2πa=2π^2ab^2

で表すことができる.すなわち,体積・表面積とも太さと長さの積で表せるというわけである.

 円周率が2つ入っているが,この意味はトーラス面は環状に並べられた円であることにほかならない.トーラスの体積・表面積の解答を自力で見つけて感動を覚え,それが次の興味に繋がったという経験をお持ちの読者も少なくないだろう.トーラスを同心円の積層であることを自力でみつける姿勢は必要であろうし,わかるということの喜びを体験することができるのである.

(第1定理)回転体の体積は元になる図形の面積とその図形の重心が移動した距離の積になる.

(第2定理)表面積は図形の周となっている曲線の重心の移動距離とその図形の周長との積になる.

これらは円だけでなくあらゆる回転体について成り立つ回転体の体積と表面積に関する定理であり,4世紀前半に精力的に活動した数学者パップスにちなんで「パップスの定理」と呼ばれている.

(Q1)三角形の重心は底辺から高さの1/3のところにあるが,それでは半円の重心はどこにあるのだろうか?

(A1)パップスの第1定理を逆に使って求めてみよう.直径を軸として半円を回転させると球になる.アルキメデスによれば球の体積は

  4/3πr^3

 一方,パップスによればこの体積は半円の面積1/2πr^2と半円が回転したときの重心の移動距離2πdの積に等しい(重心と円の中心との距離をdとする).したがって,

  d=4r/3π=0.42r

(Q2)半径rの半円形をした針金の重心は?

(A2)パップスの第2定理より,重心の移動距離2πdと半円の長さπrの積は球の表面積4πr^2は等しくなる.したがって

  d=2r/π=0.64r

 これらの問題は積分を使っても解くことができるが,それよりもパップスの定理を使った方が簡単であろう.また,パップスの定理は円が曲線に沿って移動するような軌跡問題などにも応用することができる.

[補]この回転体の体積や表面積についての定理は古代ギリシアの数学者パップス(4世紀前半)が言及し,後になってスイスの数学者ギュルダンによって証明が試みられました.そのため今日ではパップス・ギュルダンの定理と呼ばれています.

===================================

【2】コインの問題

 半径の等しい2枚のコインがあり,そのうちひとつは固定されている.この固定されたコインの周りをもう一つのコインが滑ることなく回転して移動する.コインがもとの場所に戻ってきたとき,コインは意外なことに2回転しているのである.なぜか?

 この問題に考えるにあたり,過度の知識(たとえば,カージオイド)は無用である.回転するコインの中心の軌跡に注目する.この中心の描く軌跡は半径2rの円である.したがって,回転するコインの中心は4πr動いたことになり,一周する間に2回転するのである.(実に巧妙な解き方である)

===================================