■トーラスもどき上の円(その11)

 すでにお気づきの方もおられると思いますが,(その10)の議論は切断面なのか,正射影(輪郭)なのか,ごっちゃになってしまっています.以下に楕円体(凸図形)の場合の両者の違いを記すことにします.

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[1]切断面

 楕円の(vi,vj)平面での切り口の形を描くためには,vi,vj成分以外はすべて0ですから,ヘシアンの固有値・固有ベクトルを求めずとも標準形に直すことができ,簡単に切り口の形を計算できます.

  (1)ヤコビアン(J)の入力

  (2)ヘシアン(H=(JJ’)~)の計算

  (3)ヘシアンの小行列(Hij)の固有値・固有ベクトルを求める

  (4)軸の長さを1/√λとする

 ここで,Hijとは,行列Hに対して添字i,jで指定した行・列を取り出して得られる小行列という意味であって,i行とj列を取り除いたものでないことに注意して下さい.

[2]正射影(輪郭)

 それに対して,6次元楕円の(vi,vj)平面への正射影の形を求めることはそれほど易しい問題ではありません.

 われわれが3次元空間内の曲面をみるときは,ちょうど写真を撮るように2次元の面に射影していると考えられます.山を眺めると稜線がみえます.それは接平面が視点を通るような曲面上の点の軌跡を視平面に射影した輪郭なのです.6次元楕円でも本質的な考え方は同じなのですが,法線方向が1つではないので,高次元空間に馴れていないわれわれにとっては計算が複雑になり,簡単にはいかないのです.

 しかし,輪郭を求める考え方自体は切り口の求め方によく似ていて,いわば局所的な固有値(?)を2次方程式を解くことによって求めるだけで正射影の計算ができるのです.詳細についてはコラム『n次元楕円の陰と影』をご覧頂きたいのですが,ここで,正射影を求めるプロシージャをまとめておきます.

  (1)ヤコビアン(J)の入力

  (2)ヘシアン(H=(JJ’)~)の計算

  (3)ヘシアンの逆行列(V=H~)を求める

  (4)逆行列の小行列(Vij)の固有値・固有ベクトルを求める

  (5)軸の長さを√λとする

 すなわち,正射影を求めるにはヘシアンの固有値・固有ベクトルの計算は不要ですが,逆行列の計算が不可避と考えられました.また,長軸,短軸を固有値の大きさを用いて定めることによって描くことができるのですが,切り口が軸の長さを√λで割ってやるのに対して,正射影では√λを掛けなければなりません.

  切り口:順行列の小行列の固有値を求める → 軸の長さを√λで割る

  正射影:逆行列の小行列の固有値を求める → 軸の長さに√λを掛ける

 以上により,切り口を求めることと正射影を求めることは「表と裏の関係」にあることが理解されます.

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