■ウィアの12面体・14面体の木工製作

 ケルビンの14面体(4^66^8)は100年以上もの間,最も効率よく空間を充填する多面体として最善の答でしたが,本当に表面積を最小化する多面体であるのかというと否定的であって,実はこの問題はいまでも未解決問題となっているのです.もし,体積が同じで形の異なる2種類の多面体を組み合わせてみたら,ケルビン問題の反例がみつかるのでは・・・.

 そして,1994年,アイルランドの物性物理学者,ウィアは合金構造をヒントにもっと面積が小さくなる解を発見しました.同じ体積の2種類の多面体による空間充填なのですが,不等辺五角形の面をもつ12面体(5角形12枚)と14面体(5角形12枚と6角形2枚)が1:3の割合で並ぶものです.

 もちろん,この12面体は正十二面体ではありませんし,14面体もケルビンの14面体ではありません.ウィアの空間充填では,ウィリアムズの14面体(4^25^86^4)の場合と同様に,辺や面には微妙な曲がりが含まれています.また,ウィアの空間充填では,ウィリアムズの14面体よりも多くの五角形の面をもつという特徴もあげられます.

 そしてこれらの多面体の表面積はケルビンの14面体よりも0.3%小さいことが判明したのです.曲面の高精度計算がコンピュータでできるようになったことがこの新発見に繋がったのですが,辺や面を微妙に調節することによって空間充填が可能となるのです.

 今回のコラムでは「正多面体の木工製作(その3)」で紹介した5角12面体と「シリコンフラーレンの木工製作(その2)」で紹介したねじれ重角錐台を組み合わせてウィアの12面体・14面体もどきを作ってみることにしました.

 とはいっても,ウィアの12面体・14面体のデータは持ち合わせていないので想像で作るしかありません.おそらく,シリコンフラーレンのように天地面は正六角形ではないことでしょうし,そうなると五角形面も1種類ではないことになりますが,些細な点には目をつぶることにします.データがあればそれに基づいて最適平面近似は可能ですが,もともとが曲面ですからある程度のところで妥協するしかありません.

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【1】五角十二面体の計量

 ここでは45°切稜立方体(十八面体)ではなく,立方体に可変角切稜を施した五角十二面体についての諸計量を行います.もとの立方体の1辺の長さを2,もとの立方体表面に残る1本の稜の長さを2dとします(0≦d≦1).すると切稜角φとの関係は

  tanφ=1−d

で表されます.また,このときの二面角は180°−2φとなります.

 切削してできる五角形面の頂点をxyz座標で表すと(0,1,d)の巡回置換(1,d,0),(d,0,1)を頂点にもつことがわかります.この3点の重心は

  ((1+d)/3,(1+d)/3,(1+d)/3)

ですからこの3点を結ぶと正三角形になること,また,もとの立方体の表面の痕跡がないまったく新たに作られた頂点はこの3点から等距離にあることから

  (D,D,D)

と表されることも理解されます.

 すなわち,五角面の頂点の座標は

  A(0,1,d)

  B(−D,D,D)

  C(−d,0,1)

  D(d,0,1)

  E(D,D,D)

ここで,Dはy=−(1−d)x+1とy=xの交点として計算されますから

  D=1/(2−d)

で与えられます.

 また,

  cos(∠D)=−(D−d)/{D^2+(D−1)^2+(D−d)^2}^(1/2)

  cos(∠E)={D(D−d)+D(D−1)+(D−d)(D−1)}/{D^2+(D−1)^2+(D−d)^2}

  cos(∠A)={−D^2+(D−1)^2+(D−d)^2}/{D^2+(D−1)^2+(D−d)^2}

ここで辺CD=a,辺BC=辺DE=辺AB=辺EA=b,底角∠C=∠Dとおきます.

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【2】ねじれ重角錐台の噛み合わせ条件

 ねじれ重角錐(n^25^2n)の五角形の頂点をAとすると,辺CDが正n角形(n=6)と組み合わさる辺でその長さをa,辺BC=辺DE=b,辺AB=辺EA=c,底角∠C=∠Dで表します.

 すると,五角形同士がうまく噛み合ってねじれ重角錐が閉じた形に組めるための条件は,yに関する4次方程式

  f=y^2(y+a/(2sin(π/n))^2{(sin(π/n))^2+(cos(π/n)-1)^2-(1/cos(π/n)-1)^2}+b^2(y+a/(2sin(π/n))^2(1/cos(π/n)-1)^2-c^2y^2=0

に帰着されます.

 これに可変角切稜を施した五角十二面体の諸計量を入力すると

 d  f     b/a    底角     頂角     切稜角

.10 -176.217 4.13258 121.051 79.1055 41.9872

.15 -25.6501 2.6994 118.833 83.7461 40.3646

.20 -5.81484 1.98839 116.554 88.6134 38.6598

.25 -1.64248 1.56655 114.228 93.6951 36.8699

.30 -.516016 1.28954 111.872 98.9749 34.992

.35 -.164619 1.09551 109.506 104.431 33.0239

.40 -.0460511 .953509 107.155 110.038 30.9638

.45 -5.15693E-03 .846366 104.845 115.767 28.8108

.50 8.20465E-03 .763763 102.604 121.588 26.5651

.55 .011615 .699139 100.463 127.471 24.2278

.60 .0115542 .648126 98.4498 133.386 21.8014

.65 .0104571 .607715 96.5953 139.309 19.2901

.70 9.22038E-03 .575771 94.9269 145.218 16.6993

.75 8.14542E-03 .550757 93.4697 151.099 14.0362

.80 7.30648E-03 .531556 92.2461 156.944 11.3099

.85 6.69749E-03 .517359 91.2746 162.75 8.53076

.90 .0062905 .507595 90.57 168.522 5.71059

  d=0.463178   (φ=28.2279°)

のときf=0となって,両者の五角形面が一致することが理解されます.

  a=1,b=0.822532,c=0.822532

  底角θ=104.247°,頂角=117.294°

  正六角形面間の距離hは,h=1.81637

 また,このとき5角12面体の二面角は180°−2φ=123.5442°,重角錐台の二面角は116.09°となります.しかしこの両者の組合せでは,空間充填の必要条件である

  5角12面体の二面角+ねじれ重角錐台の二面角×2=355.724°<360°

となって若干の角不足となることがわかりました.

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【3】空間充填条件

 そこで次に五角形面の形の一致性を犠牲にして,空間充填の必要条件=360°を満足させることを考えます.たとえば,5角12面体の二面角を120°に設定して削りとると,切稜角φは30°ですから,

  tanφ=1−d=1/√3

  a=1,b=0.901388,c=0.901388

  底角θ=106.102°,頂角=112.62°

 a,b,θをこのまま保持した条件で,ねじれ重角錐台を作ると

  a=1,b=0.901388,c=0.850907

  底角θ=106.102°,頂角=123.626°

  h=1.84808

このとき,二面角は120°となり

  5角12面体の二面角+ねじれ重角錐台の二面角×2=360°

 φ=28.2279°にすると五角形面の形は一致するが,空間充填条件を満たさない.また,φ=30°にすると空間充填条件は満たすが,五角形面の形が一致しない.そこで,中川宏さんはφ=29°の木工模型を作られました.以下にその模型を掲げます.

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【4】雑感

 シリコンフラーレンでは天地面は正方形ではなく,長方形でその長軸方向は90°ずれていましたし,それに応じて五角形面も1種類ではありませんでした.しかし,絶対零度でない限り分子は固定されたものではなく絶えず振動しているわけですから,縦長の長方形が横長に,横長の長方形が縦長になる途中では正方形になるときがあるはずです.

 このことから,ウィアの14面体でも天地面を正六角形にして構わないものと思われます.模型ですから精確さよりも単純さ,計算のしやすさ,作りやすさを優先させたいのです.また,ウィアの12面体はねじれ重角錐台型(5^25^10)でなく,5角12面体型(5^12)にしてみました.これも計算のしやすさからの配慮です.

 中川宏さんの手によってウィアの12面体・14面体の木工製作が進められたわけですが,物理模型としてその並び方がわかるという意味で価値のあるものになったかと思います.

 なお,水和物の世界では,単独の空間充填多面体としてケルビンの14面体(4^66^8)やウィリアムズの14面体(4^25^86^4),2種類以上の多面体(曲面)の組合せによる空間充填としてはウィアの12面体・14面体の組合せ以外にも12面体(5^12)と16面体(5^126^4)の2種類の組合せ,12面体(5^12),12面体(4^35^66^3),20面体(5^126^8)の3種類の組合せの知られているようです.

 ともあれウィアの極小曲面が最も境界面積が小さな形になって切るかという問題はまだ解決されていません.「同じ体積の泡が集まっているときに,境界面積が最小となる泡の形は何か?」は,泡の種類を増やせば面積をもっと減らすチャンスがあるのです.それで科学者たちは現在もより効率の良い空間分割法を探索し続けているのです.

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