■数学者に忘れられた問題(その5)

 ミンコフスキーの定理を拡張する方向としては,ひとつには

[1]平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる5種類の平行多面体(フェドロフの平行多面体)はよく知られているが,n次元平行多面体にはどれだけの種類があるか?

もうひとつには

[2]頂点は何組,辺は何組,k次元面は何組あるだろうか? あるいは,面の形はどうなるのだろうか?

になる.

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【1】後者のその後

 ミンコフスキーが原始的平行多面体として取り上げた2(2^n−1)胞体である.とくに,primitive,principal,maximalの条件を満たすものは置換多面体(permutahedron)と同値であって,多面体的組み合わせ論の重要な研究対象となってきた.にも関わらず,その面数公式は先人達の挑戦を退けてきた難題となった.さらにその後の進展はなく,数学者にも忘れられた問題になってしまったのである.

 しかし,これらの多面体がとんでもない性質をもつ(再帰的な構造を有している)ことに気づけば,急転直下,先人達も苦心した難題も難なく構成可能となるのである.

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【2】平行多面体と結晶群

 世の中には無限多くの形があるが,話を単純にするためにここでは「結晶」に限定しよう.結晶は230種類あることが知られている.空間での等長変換は平行移動,回転,並進回転,鏡映,すべり鏡映,回転鏡映,恒等変換の7種類であるから,3次元結晶群は219種類存在し,その多くが結晶構造として自然界にも存在している.結晶をテーマとする物理の本には,たいてい3次元結晶群の数は230種類存在すると書かれてあるが,変換が向きを保たないものは異なるものと数えているからである.

 230種類にせよ219種類にせよ,これでもかなりの数だが,少し目線を引いて結晶格子を遠くからみてみよう.じっと眺めていると面白い事実に気づく.いつも特定の形の凸多面体が現れるのである.ここで現れる結晶格子に対応する本質的な配置はディリクレ領域と呼ばれるものであるが,平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる形(フェドロフの平行多面体)になっている.

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 3次元結晶は230種類存在し,その多くが結晶構造として自然界にも存在している.これでもかなりの数だが,これは細分類であって,大分類するために少し目線を引いて結晶格子を遠くからみてみると,わずか5種類に集約することにに気づく.これらが平行多面体であって,平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる形になっている.

 平行多面体は結晶格子の集約型といってもよいのであるが,高次元の場合はどうなってだろう.

[1]平行多面体

 2次元の平行多面体は2種類(原始的1),3次元の平行多面体は5種類(原始的1)あるが,4次元の平行多面体は3次元の5種類から52種類(原始的3)へと急増する.

 また,5次元の場合には,103991種類と膨大で,原始的なものだけでも222種類見つかっている.5次元での平行多面体の状況ははるかに多様となって,そのリストアップはいまでも完成していない.急速に複雑さが増していくのである.

[2]結晶群

 2次元格子で異なる対称性をもつものは17種類存在する.

 3次元結晶群は219種類存在し,その多くが結晶構造として自然界にも存在している.(結晶をテーマとする物理の本には,たいてい3次元結晶群の数は230種類存在すると書かれてあるが,変換が向きを保たないものは異なるものと数えているからである.)

 4次元の結晶群は4783種類(4895種類)存在する.

 5次元の場合は正確に何種類あるのかわかっていない.

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次元     結晶群        平行多面体(原始的平行多面体)

2      17             2(1)

3    219(230)         5(1)

4   4783(4895)       52(3)

5       ?           103991(222)

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