■数学者に忘れられた問題(その4)

【1】ミンコフスキーの定理

 2次元空間充填の基本形は6角形,3次元空間充填の基本形は14面体,4次元空間充填の基本形は30胞体となるが,100年以上前にこのことを考察している人がいた.

 一般に,n次元空間充填では,各頂点の周りに少なくともn+1個の多面体が集まる.n+1個のとき,n次元平行多面体の面数は最大2(2^n−1)個となる(ミンコフスキーの定理).したがって,3次元平行多面体の面数は最大14面となるし,4次元平行多胞体の胞数は最大30胞となる.

  n=2 → f=6

  n=3 → f=14

  n=4 → f=30

  n=5 → f=62

[1]平行多面体とは,平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂8面体の5種類しかない.これら5種類の図形(平行多面体)は3次元格子の幾何学的分類であり,5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられる.

[2]n次元ボロノイ細胞の決定に関与する基底ベクトルは2^n−1個あり,したがって原始的平行多面体の面の数は最大で2(2^n−1)個,すなわち,原始的n次元2(2^n−1)胞体には平行なn−1次元面が(2^n−1)組,平行なn−2次元面がn(n+1)/2組あることは組み合わせ的方法によって容易に理解されるところである.

 したがって,ミンコフスキーの定理を拡張する方向としては,ひとつには

[1]平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる5種類の平行多面体(フェドロフの平行多面体)はよく知られているが,n次元平行多面体にはどれだけの種類があるか?

もうひとつには

[2]頂点は何組,辺は何組,k次元面は何組あるだろうか? あるいは,面の形はどうなるのだろうか?

になる.

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【2】前者の解

 平行多面体の基本形はプリミティブ(原始的)と呼ばれる.2次元平行多面体のプリミティブは平行六辺形(正六角形)であり,平行四辺形(正方形)はプリミティブが遷移したものと考えられる.平面分割多角形の基本的な辺数は6辺である.一方,空間分割多面体の基本的な面数は14面である.切頂八面体はプリミティブで,他の4種類は切頂八面体が遷移した多面体である.

 一般に,n次元平行多面体の面数は最大2(2^n−1)個,最小2n個となるが,各頂点の次数がnで面数が最大2(2^n−1)面の場合がプリミティブである(ミンコフスキーの定理).

 2次元の平行多面体は2種類(原始的1),3次元の平行多面体は5種類(原始的1)あるが,4次元の平行多面体は3次元の5種類から52種類(原始的3)へと急増する.

 また,5次元の場合には,103991種類と膨大で,原始的なものだけでも222種類見つかっている.5次元での平行多面体の状況ははるかに多様となって,そのリストアップはいまでも完成していない.急速に複雑さが増していくのである.

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【3】後者の解

 後者は多面体的組み合わせ論の領域で,置換多面体(permuhahedron)として有名である.a1>a2>・・・>anとするとき,(a1,a2,・・・,an)の添字を置換して得られるn!個の点からなる(n−1)次元の多面体は置換多面体(順列多面体)と呼ばれる.とくにa1=n,a2=n−1,・・・,an=1の場合を指すこともある

 置換多面体は置換を1回適用することで同じものになる2頂点を辺で結んでできる.たとえば,n=4の場合の置換多面体で,頂点1342と結ばれるのは1432,1324,3142の3頂点である.この多面体は2^n−2個のファセットをもつ.

 したがって,n次元置換多面体は(n+1,2)次元の立方体のアフィン射影で,単純ゾーン多面体で,(n+1)!個の頂点と2(2^n−1)個のファセットをもつことになる(2次元置換多面体は六角形,3次元置換多面体は切頂八面体).

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【4】まとめ

 ミンコフスキーが原始的平行多面体として取り上げた2(2^n−1)胞体である.とくに,primitive,principal,maximalの条件を満たすものは置換多面体(permutahedron)と同値であって,多面体的組み合わせ論の重要な研究対象となってきた.にも関わらず,その面数公式は先人達の挑戦を退けてきた難題となった.

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