今回のコラムでは,これまで取り上げた幾何学の話題のなかから十分には説明しきれなかったものについて補足したいと思います.
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【1】パップスの定理
半径aと半径b(b<a)の同心円に挟まれた円環状部分の面積は
πa^2−πb^2
で与えられるが,この図形は2次元の円に幅をもたせたものと考えることができる.
そこで,帯の幅(a−b)に重心(原点からの距離:(a+b)/2)が描く円周長2π(a+b)/2を乗ずると
円周長×幅=2π(a+b)/2×(a−b)=πa^2−πb^2
となって同じ値が得られる.
半径bの円を3次元空間内で半径aで回転させるとトーラスができるが,この場合にも
表面積=円周長2πb×円周長2πa=4π^2ab
体積=断面積πb^2×円周長2πa=2π^2ab^2
で表すことができる.すなわち,体積・表面積とも太さと長さの積で表せるというわけである.この問題の解答を自力で見つけて感動を覚え,それが次の興味に繋がったという経験をお持ちの読者も少なくないだろう.
(第1定理)回転体の体積は元になる図形の面積とその図形の重心が移動した距離の積になる.
(第2定理)表面積は図形の周となっている曲線の重心の移動距離とその図形の周長との積になる.
これらは円だけでなくあらゆる回転体について成り立つ回転体の体積と表面積に関する定理であり,4世紀前半に精力的に活動した数学者パップスにちなんで「パップスの定理」と呼ばれている.
(Q1)三角形の重心は底辺から高さの1/3のところにあるが,それでは半円の重心はどこにあるのだろうか?
(A1)パップスの第1定理を逆に使って求めてみよう.直径を軸として半円を回転させると球になる.アルキメデスによれば球の体積は
4/3πr^3
一方,パップスによればこの体積は半円の面積1/2πr^2と半円が回転したときの重心の移動距離2πdの積に等しい(重心と円の中心との距離をdとする).したがって,
d=4r/3π=0.42r
(Q2)半径rの半円形をした針金の重心は?
(A2)パップスの第2定理より,重心の移動距離2πdと半円の長さπrの積は球の表面積4πr^2は等しくなる.したがって
d=2r/π=0.64r
これらの問題は積分を使っても解くことができる→コラム「ディリクレ積分とセルバーグ積分」参照.しかしそれよりもパップスの定理を使った方が簡単であろう.また,パップスの定理は円が曲線に沿って移動するような軌跡問題などにも応用することができる.
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【2】ヘロンの問題とアルハーゼンの問題
任意の三角形の面積Δを3辺の長さa,b,c,によって表す公式
Δ^2=s(s−a)(s−b)(s−c)
s=(a+b+c)/2
はヘロンの公式と呼ばれている.また,ヘロンの公式は
Δ^2=(2a^2b^2+2b^2c^2+2c^2a^2−a^4−b^4−c^4)/16
=(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)/16
と書くこともできる.
ところで,
(Q1)直線Lの同じ側にある2点F1,F2からの距離の和F1P+PF2が最小になるようなL上の点Pを求めよ.
という問題を考えよう.
この問題は「ヘロンの問題」と呼ばれているが「町F1から町F2に行くとき,川岸Lの点Pに立ち寄るものとする.このとき道のりの長さが最小となるような点Pを求めよ.」という実用価値のある問題であるし,反射光学の問題あるいはビリヤード問題とも考えることができる.
(A1)答は簡単に求めることができる.点F2を直線Lに関して対称移動させF0とする.直線F1F0と直線Lの交点が最短距離となる折り返し点Pである.この最適な点Pには線分F1PとF2PがそれぞれLとなす角が等しいという性質がある.
また,このことは三角形のフェルマー点Fが3つの頂点への距離の和を最小にすること,∠AFB=∠BFC=∠CFAが成り立つこととよく類似している.このフェルマー点は頂点と外正三角形の頂点を結ぶ直線の共点として得られる.すなわち,フェルマー点を見つけるには与えられた三角形の各辺の上に正三角形を立てて各頂点と結ぶと,これら3本の線は1点Fで交わる.また,フェルマー点は3つの正三角形の外接円の交点でもある.
ヘロンの問題のバリエーションとして「町F1から川の反対側にある町F2に行くとき,川岸Lの点Pに立ち寄り,一定幅dの川を渡るものとする.このとき道のりの長さが最小となるような点Pを求めよ.」などもよく見かける問題である.
ヘロンの問題に対して,「アルハーゼンの問題」とは
(Q2)町F1から川の同じ側にある町F2に行くとき,「環状」の川岸Lの点Pに立ち寄るものとする.このとき道のりの長さが最小となるような点Pを求めよというものである.
(A2)点Pが求められたとして点Pで円の接線を引き,点F2を接線に対して反対側に対称移動した点をF0とする.このとき,F1P+PF0が直線になればよいので,∠F1PF2が点Pを通る円の直径で2等分されるとき最短距離になる.
しかし,点Pを解析幾何学的に求めようとすると4次方程式の解に帰着されるため,解はもし存在すれば4個あるいは2個,または解なしとなる.いずれにせよアルハーゼンの問題とヘロンの問題との違いはアルハーゼンの問題が(特殊な場合を除いて)定規とコンパスだけでは作図不可能な問題ということである.
なお,アルハーゼンの問題の拡張として「町F1から川の反対側にある町F2に行くとき,川岸Lの点Pに立ち寄り,一定幅dの「環状」の川を渡るものとする.このとき道のりの長さが最小となるような点Pを求めよ.」が考えられる.
また,円を他の円錐曲線に置き換えて一般化した問題ついては読者の演習問題とするが,楕円ではF1P+F2P=一定であり片方の焦点から出た光線は楕円上で反射して第2の焦点に向かうとか,双曲線ではF1P−F2P=一定で片方の焦点から出た光線が表面にあたって反射するとあたかも第2の焦点から出たように反射するとか,放物線の焦点を出た光は曲線上で反射して曲線の対称軸に平行に進むという幾何光学的特徴はすでにご存知であろう.
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