■書ききれなかった数の話(その49)

 素数の分布は不規則かつ複雑で未知の部分が多いのですが、18世紀から19世紀にまたがって活躍したガウスは,「素数はどのような規則で現れるか」ということを考え,素数定理を予想しました(1792年:ガウスは当時15才であった).

 素数定理とは,

  π(x)〜x/logx   (x→∞)

というものです.ここで,π(x)は任意の整数xを越えない素数の個数を表すものとします.素数定理は,xを超えない素数の個数を与える近似的な公式というわけです.

 素数定理をエラトステネスのふるいという初等的な方法を用いて,ラフなスケッチ程度に誘導してみましょう.

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【1】素数定理の直観的証明

 xまでのすべての整数うちで,奇数,すなわち2で割れない数は大体半分(1−1/2)あります.奇数のうちで,3で割り切れない数は2/3=1−1/3あります.さらに,残っている数のうち,5で割り切れない数は1−1/5あります.したがって,xを越えない素数の個数はこれらの積をすべての素数pにわたってとればよいことになり,近似的に

  Π(1−1/p)・x

に等しくなります.

 さらに,Π(1−1/p)は近似的に1/logxに等しくなります.ただし,これを証明するのは微積分を使っても容易ではありません.専門的で,ここで説明することはできそうにありませんから,天下り式に結果だけを示しておきます.このことを認めれば,素数定理

  π(x)〜x/logx

が導出されたことになります.

 さらに,素数定理にはもっとうまい近似法があります.素数の密度関数は

  π(x)/x

ですから,

  π(x)/x〜1/logx   (x→∞)

です.1/logxが1からxまでの平均的な素数の密度と考えられますが,これをxの近くの素数の密度と考え,区間[1,x]を小区間に区切って積分してみます.

  Li(x)=∫2xdt/logt

 Li(x)は対数積分関数と呼ばれますが,π(x)をx/logxで近似するより,対数積分を用いたLi(x)の近似はさらに適切な素数分布の近似式になっています.

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【2】素数が無限に存在すること(オイラーによる証明)

 素数が無限に存在すること・√2が無理数であることは,ギリシア数学のなかでも有名な定理です.それぞれユークリッドとピタゴラスが背理法を用いて証明していますが,その証明はだれしもが容易に理解できるものです.同様に,調和級数Σ(1/n)が無限大に発散すること

  1/1+1/2+1/3+・・・=∞

も容易に示すことができます.

 それでは,素数の逆数の和

  Σ(1/p)=1/2+1/3+1/5+1/7+1/11+・・・

は有限でしょうか?

(証明)

 調和級数1/1+1/2+1/3+・・・は,オイラー積表示すると

  Π(1−1/p)^-1

と書けますから,

  Π(1−1/p)^-1〜∞.

 また,

  logΠ(1−1/p)=Σlog(1−1/p)

1/pが非常に小さいとき,マクローリン展開より,

  Σlog(1−1/p)〜−Σ(1/p)

ですから,

  Σ(1/p)=∞

になります.したがって,すべての素数の逆数の和は発散することが示されます.

 1737年,オイラーは素数の逆数の和が無限大になることを見つけました.このことから,素数が無限個あることはかんたんにわかります.また,調和級数Σ(1/n)は発散し,また,オイラー級数Σ(1/n^2)=π^2/6で収束しますから,素数は平方数ほどまばらには分布していないこともわかります.

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【3】素因数の個数の近似値(ハーディーとラマヌジャン)

 さらに,このことを詳しく調べると,

  Σ(1/p)〜log(logx) (pはp≦xの素数を動く,証明略)

などがわかってきます.log(logx)は1/(xlogx)の原始関数です.

 Σ(1/p)はxに近い整数について,その素因数の個数の近似値を与えるもので,ハーディーとラマヌジャンにより明らかにされています.

  12=2×2×3・・・素因数は3個

  14=2×7・・・素因数は2個

  16=2×2×2×2・・・素因数は4個

素因数の数はloglognにほぼ等しい.

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 インド生まれの数学者ラマヌジャンは,多くの公式や定理を発見し,神秘的な東洋の天才数学者とよばれていて,1日1つの割合で新しい公式または定理を発見したといわれています.

 ラマヌジャンは,素数と同じくらい風変わりな数として高次合成数の性質について探求しています.合成数とは素数でない数のことで,高次合成数とは24のように1,2,3,4,6,8,12,24と多くの約数をもつ数のことです.ラマヌジャンについてはカニーゲル「無限の天才」(工作舎)をおすすめします.

 なお,これらの式から

  Σlog(1−1/p)〜−log(logx)

がでますが,両辺の指数をとると前にあげた

  Π(1−1/p)〜1/logx

が得られます.

 ガウスによって基礎づけられ,これらの数学者たちが磨き上げた素数定理はいまのところ不十分かつ不完全で,所詮,概算にすぎません.どれくらい速くこの比が1に近づくのかを特定できないし,ましてやある数まで数えてゆく間にいくつ素数があるのかを正確に教えてくれはしません.そのような精密な公式があれば素数定理より断然優ることはいうまでもありません.

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