■微視的から巨視的へ(その2)

 確率統計における中心極限定理の考え方は,たくさんの確率変数の和は,各々の確率分布の形によらず,普遍的な正規分布に従うという事実に基づいています.いい換えれば,巨視的なアウトラインは微視的なディテールには依存せず,平均値や分散など大まかな性質だけで決まってしまうというものであり,その結果,微視的なディテールは見えなくなって,巨視的に意味のあるものだけが残るのだと考えられます.

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【1】テイラー級数からフーリエ級数へ

 微分方程式の解を積分して得られないとき,それをベキ級数(テイラー級数,フロベニウス級数,漸近級数)として求めるのが標準解法である.特殊関数についてもテイラー級数展開,フロベニウス級数展開,漸近級数展開が存在する.

 テイラー級数は通常点回りのベキ級数展開という局所解析であるのに対して,フーリエ級数展開は微分方程式の境界値問題の解である固有関数展開という大域解析に基づく級数である.テイラー級数が数学の基礎理論において重要とされるのと対照的に,物理学の応用上,もっとも活用されているのがフーリエ級数である.

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【2】漸近級数とスターリングの公式

 漸近級数は主に特異点(±∞を含む)回りに展開した級数である.通常点回りではテイラー級数展開ができ,正規特異点回りではフロベニウス級数展開が可能であるが,非正規特異点回りでは漸近級数展開が必須になる.

 漸近級数はそれが収束するか発散するかに無頓着な級数で,たとえば,スターリング(Stirling)の公式

  n!〜√(2πn)n^nexp(−n)

は,階乗n!とその近似値として使われる公式として有名な漸近近似公式である.

 この公式は361!〜10^768のような結果を得るのに用いられるが,とくに注目すべきことは,スターリングの公式を得るにあたりn→∞の仮定をしたにも関わらず結果として得られる公式の適用範囲が広く,たとえば,n=8のとき相対誤差は約1%である.もちろん,nが大きくなるほど相対誤差は小さくなる.

 スターリングの近似公式は階乗の一般化であるガンマ関数の近似値としても使われている.

  Γ(x+1)=∫e^-tt^xdt〜√(2πx)x^xe^-x

近似の程度を進めると

  Γ(x+1)〜√(2πx)xx e-x[1+1/(12x)+1/(288x^2)-139/(51840x^3)-.....}

が得られる.これらの公式ではxが大きくなるほど相対誤差は小さくなる.

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