■メビウス変換とシュタイナーの定理(その9)

 3角形の合同類を指定するには,3つのパラメータ(たとえば3辺の長さ)が必要です.

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【1】リーマン面とモジュライ

 19世紀になると対称性や合同の概念に変革がもたらされました.2つの図形が合同であるためには,必ずしも通常の意味で同じ形をしている必要はなく,ある決まった関係(たとえばメビウス変換)が両者の間にある場合,同じとみなすと定義します.

 今日ではたとえ大きさや形が違っていても,2つの曲面の間に等角写像が存在する場合,リーマン面としては同じであるとみなします.このような見方でリーマン面を数えてみると,それほど多くはないことをリーマンは発見しました.そして種数(曲面の穴の数)をgとすると,その曲面は3g−3個の複素数パラメータで記述することがわかりました.この数をモジュライと呼びます.

 g個の穴あき曲面は3g−3個の曲線によって,2g−2個の3つ穴のあいたピースに分解できる(パンツ分解)というわけです.また,リーマン面全体は双曲空間と共通する多くの性質をもっています.

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【1】サーストンの双曲化定理から幾何化予想へ

 1977年,若きアメリカ人数学者サーストンは双曲化定理を発表し,数学界を震撼させました.当時知られていたのはすべての2次元曲面はそれを展開すると,球面,ユークリッド平面,双曲平面になるというもので,3次元では2次元と同じことが成り立つとは誰も考えていませんでした.

 しかし,サーストンの定理はまさにその3次元版だったというわけです.その斬新かつ革命的なアイデアに対して,サーストンはフィールズ賞を受賞しました(1982年).

 双曲化定理からはさらに進んで,3次元多様体を分解すると各部には8つの基本的な基本構造がはいり,そのなかでも断然多いのは双曲構造であるという幾何化予想(3次元ポアンカレ予想を特別な場合に含む)を提案しました.

 すべての道が1点に縮むような3次元多様体は3次元球面しかないというのがポアンカレ予想ですが,すべての3次元多様体を作って,ひとつひとつ検証するというサーストンのアプローチは神業的であったといわれています.

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【3】ペレルマンによるポアンカレ予想の解決

 ポアンカレ予想の証明には100万ドルの賞金がかけられましたが,2003年,ロシアの数学者ペレルマンによりポアンカレ予想は証明されました.

 証明に用いられた手法は,トポロジーの問題ながら意外にもリッチ流という微分幾何のアイデアでした.当のペレルマンは100万ドルの賞金もフィールズ賞も辞退し,人々の前から姿を消したことは大きなニュースになりました.

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