■朝鮮サイコロ・中国サイコロの数理(その10)

 前回のコラムでは切頂正20面体群(12・20面体,切頂20面体,双心切頂20面体)などについてサイコロの目の出る確率を計算しましたが,計算方法までは示しませんでした.(その2)(その3)において切頂立方体群に対する計算方法をすでに解説していたからです.

 しかし,(その2)(その3)で述べた方法は多面体の頂点の座標がすべて明示的に与えられている場合に限られていて,座標が与えられていない場合について述べることはあながち無意味ではないと考えられました.

 そこで今回は座標が与えられていない場合の計算方法について説明しますが,これらの立体は切頂正20面体群として一連のものですから,各面のでる確率を切頂の深さtの関数として表すことにします.12・20面体では・・・,切頂20面体では・・・,双心切頂20面体では・・・とまとめて確率計算できた方がなにかと都合がいいのです.

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【1】切頂正20面体群の計量

 辺の長さが1の正二十面体(p,q)=(3,5)についての諸計量値を求めるには,辺の長さがφの正十二面体(5,3)との相貫体を考えると非常に簡単になります.

  Δ^2=1−cos^2(π/3)−cos^2(π/5)

  正二十面体の中心から頂点までの距離(外接球の半径):R20

  正二十面体の中心から面の中心までの距離(内接球の半径):r20

  正二十面体の中心から辺の中心までの距離:l20

  正十二面体の中心から頂点までの距離(外接球の半径):R12

  正十二面体の中心から面の中心までの距離(内接球の半径):r12

  正十二面体の中心から面の中心までの距離:l12

とおくと,それぞれ

  R12=sin(π/3)=√3/4Δ

  r12=cot(π/5)cos(π/3)/2Δ=((5+2√2)/5)^(1/2)/4Δ

  l12=cos(π/5)/2Δ=(√5+1)/8Δ

  R20=φsin(π/5)=φ(10+2√5)^(1/2)/8Δ

  r12=φcot(π/3)cos(π/5)=φ/√3・(√5+1)/2)/2Δ

  l20=φcos(π/3)/2Δ=φ/4Δ

となります.

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【2】rollingの確率

 正二十面体を切頂するとその切断面は正五角形になります.その際の切頂比をt(0≦t≦2/3)とおくと,

  辺の長さ:L56=tφ

  重心から切断面までの距離:H5=r12+(R20−r12)(1/2−t)

  重心から辺の中点までの距離:H56={H5^2+(L56/2cot(π/5))^2}^(1/2)

ここで,H5は重心から正五角形面までの距離,H56およびL56は五角形面と六角形面とに挟まれた辺の中心と重心との距離H56および長さL56という意味です.

 それに対して,元の正三角形面は六角形面となり,重心から六角形までの距離H6,六角形面と六角形面とに挟まれた辺の中心と重心との距離H66および長さL66は,

  辺の長さ:L66=(1−2t)φ

  重心から六角形までの距離:H6=r20

  重心から辺の中点までの距離:H66=l20

で表されます.

 正五角形のでる確率P5は

  L56(H56−H5)

六角形面のでる確率P6は

  L56(H56−H6)+2L66(H66−H6)

に比例することになり,

  P5+P6=1

より,

  P5=L56(H56−H4)/{L56(H56−H4)+L56(H56−H6)+2L66(H66−H6)},P6=1−P5

で計算されることになります.

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【3】tossingの確率

 tossingでは切断面(正五角形面)の立体角を求めなければならなりません.そのため計算自体はrollingの方が簡単ですし,rollingしたときの確率の方がより実感に近いと思われます.

 正五角形の1辺の長さはL56=tφ,対角線の長さはtφ^2,また,中心から辺の中点までの距離はH56ですから,中心から頂点までの距離は

  R0={H56^2+(L56/2)^2}^(1/2)

となります.

 次に,正五角形の辺に対する中心角θ1と対角線に対する中心角θ2を求めたいのですが

  sin(θ1/2)=tφ/2R0

  sin(θ2/2)=tφ^2/2R0

より,

  θ1=2arcsin(tφ/2R0)

  θ2=2arcsin(tφ^2/2R0)

 切断面の正五角形のある頂点から対辺に向けて2本の対角線を引くと,正五角形が3個の三角形に分割されます.そして2本の辺と1本の対角線からなる三角形ABCに対しては,球面三角法の公式

  cosθ2=cos^2θ1+sin^2θ1cosC

  cosθ1=cosθ1cosθ2+sinθ1sinθ2cosA

  cosθ1=cosθ1cosθ2+sinθ1sinθ2cosB

が成立しますから

  C=arccos((cosθ2−cos^2θ1)/sin^2θ1)

  A=B=arccos((cosθ1−cosθ1cosθ2)/sinθ1sinθ2)

より,球面三角形の面積

  S1=A+B+C−π

が求まります.

 1本の辺と2本の対角線からなる三角形XYZに対しても,

  cosθ1=cos^2θ2+sin^2θ2cosZ

  cosθ2=cosθ1cosθ2+sinθ1sinθ2cosX

  cosθ2=cosθ1cosθ2+sinθ1sinθ2cosY

より,

  S2=X+Y+Z−π

 球面五角形の面積は

  2S1+S2

これが12枚あるので

  P5=12(2S1+S2)/4π,P6=1−P5

となるというわけです.

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【4】tossingとrollongの確率比較

 切頂正20面体群に対して,t=1/2とおくと

 12・20面体(tossing)  五角形面:三角形面=0.713749:0.286245

 12・20面体(rolling)  五角形面:三角形面=0.856054:0.143946

 t=1/3とおくと

 切頂20面体(tossing)  五角形面:六角形面=0.31379:0.68621

 切頂20面体(rolling)  五角形面:六角形面=0.229493:0.770507

 t=(7-√5-2√(10+2√5)/3))/(6-2√5)=0.242947とおくと

 双心切頂20面体(tossing) 五角形面:六角形面=0.162779:0.837221

 双心切頂20面体(rolling) 五角形面:六角形面=0.067601:0.93024

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 切頂正12面体群に対しても同様の式を立てて計算すると,t=1/3で

 切頂12面体(tossing)  十角形面:三角形面=0.8751:0.1249

 切頂12面体(rolling)  十角形面:三角形面=0.975902:0.0240984

 t=1/2で

 12・20面体(tossing)  五角形面:三角形面=0.713754:0.286246

 12・20面体(rolling)  五角形面:三角形面=0.856049:0.143951

が得られました.

 切頂正12面体群では切断面が正三角形となりますから,その分tossingの確率計算は易しくなります.また,12・20面体に対しては2つの異なる方法で計算して値が(誤差を除いて)一致したわけですから,ここに掲げた計算結果が正しいことを裏付けてくれます.

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