■メビウス変換とシュタイナーの定理(その5)

 江戸時代,和算は算額という表現の仕方を通じて人々の間に広まっていきました.とくに幾何の問題を額に描いては神社仏閣に奉納したのですが,その多くは互いに接する円の複雑な配置に関する問題でした.

 それらはシュタイナーの定理,アポロニウス・パッキング,フォードの円,ファレイ数列などメビウス変換の範疇にあります.たとえば,そこには,ソディーの公式

  (1/a+1/b+1/c+1/d)^2=2(1/a^2+1/b^2+1/c^2+1/d^2)

も現れます.

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【1】ショットキー円族

 2つの円を対にする2つのメビウス変換を考えると,何百という接する円の美しい集合(ショットキー配列)を生み出すことができます.

 ところで,トレースには共役をとっても変わらないという性質があります.

  T’=STS^-1,TrT’=TrT

このことから,2つの円を対にする変換a,bにおいて,

[1]Tra^-1=Tra,Trb^-1=Trb,Trbab^-1=Tra,Tra^-1b^-1=Trab,TrI=2

[2]aba^-1b^-1のトレースは放物型で−2でなければならない

ことがしたがいます.

 また,

  Traba^-1b^-1=(Tra)^2+(Trb)^2+(Trab)^2−TraTrbTrab−2

ですから,マルコフ方程式

  (Tra)^2+(Trb)^2+(Trab)^2=TraTrbTrab

に簡略化されます.

 たとえば,

  a=[1,1]  b=[1,−1]

    [1,2]    [−1,2]

は前述の条件を満たしています(モジュラー,すなわちa,bの行列式は1).

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【2】フラクタル図形

 ショットキー円族の考え方を応用すると,シュタイナーの定理,アポロニウス・パッキング,フォードの円,ファレイ数列などメビウス変換の範疇を超えて,フラクタル図形も描くことができます.

  [参]マンフォードなど「インドラの真珠」日本評論社

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