■之を楽しむ者に如かず(その2)

 数学の世界には,ごく稀ですが,4次元や高次元の世界をイメージできる人がいます.たとえば,ペトリーは子供の頃から数学に対する異常な能力を示し,4次元図形を直観的に見ることができたといわれています.

 しかしながら,3次元の世界を視覚化できるだけでも十分に希有な能力であって,数学者であっても2次元のイメージで何とかやっている人がほとんどです.

 高次元図形では,高次元球や高次元正多面体の理解が進んでいるわりに,高次元準正多面体をなるとさっぱり(お手上げ状態)でしたが,いま私は高次元準正多面体に関する大きな難問を克服したばかりです.その発見にいたる試行錯誤の経過はコラム「n次元の立方体と直角三角錐」シリーズに書きましたが,300回を超える随筆になってしまいました.

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 私は数学者ではありませんが,たとえ数学者ならずとも数学の研究には,「しつこい性格」が必要と思われます.数学を習得するのには忍耐と根気が要求されるからです.幾何学に王道なし,たとえ一国の王といえども努力しないで数学を習得するための近道はなく,自分の足で目的地へ到達しなくてはなりません.

 そのためにはじっくりと時間をかけて,たとえば,幼児が大好きなおもちゃで何時間も飽きることなく遊び続けるように,無邪気に数学と遊ぶこと,アタマだけでなく,目耳鼻手を働かせて真剣に遊ぶことが大切です.数学(の難しさ)を楽しむ心,遊び心による自由な発想によって良い結果を得ることができるでしょう.

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 逆説的ですが,数学の楽しみはその難しさに由来します.普通の人なら敬遠するような難問に挑戦するのも楽しみではありますが,過度な難問は人生を棒に振るかもしれません.身の丈にあった「適度な難問」がよいでしょう.適度な難問であれば自分でしっかりわかるまで時間を惜しまず考えることによって,克服したときの喜び・感動も大きいからです.

 また,数学は遺伝子との相関がもっとも少ない学問ともいわれています.そこで「自分はすごいことをやっている」だとか「やってみせる」とかいう気負った妄想をまず捨て去ること,そして先入観を捨て,謙虚にかつ貪欲な好奇心で探求を続ければ,私たちも年齢を問わず日常の身近なところに多くの発見をすることができるはずです.

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