■色即是空・空即是色

 切頂操作により

  立方体←→切頂立方体←→立方八面体←→切頂八面体←→正八面体

と連続的に変形させると,外接球を有するという条件を保持したまま遷移していくわけですから,その中間段階で外接球・内接球を併せもつ多面体を見つけることができます.

 実際,このようにして発見されたのが正方形面6枚と不等辺六角形面8枚の合計14枚の面で構から構成される「朝鮮サイコロ」であって,

  立方体←→切頂立方体←→立方八面体←→★←→切頂八面体←→正八面体

に位置しておりました.→コラム「切頂立方体の計量」,「朝鮮サイコロ・中国サイコロの数理」参照

 これと同様にして

  正四面体←→切頂四面体←→正八面体←→切頂四面体←→正四面体

  正12面体←→切頂12面体←→12・20面体←→切頂20面体←→正20面体

の切頂系列にも外接球・内接球を併せもつ多面体が存在するはずです.今回のコラムではこのような立体を探索することにしました.

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【1】準正多面体と外接球

 正多面体はf=4,6,8,12,20の5種類あります.これらは外接球・中接球・内接球をもっています.少し条件を緩めて構成する面が必ずしも同一正多角形でなくてもよいとすると,準正多面体は13種類観察されています.

 準正多面体はサッカーボールでおなじみですが,それは正二十面体の切頂形であって正五角形が12枚,正六角形が20枚の合計32枚の面で構成されています.この準正多面体は正20面体(頂点が12個,正三角形の面が20個ある)の各頂点からのびている5本の辺をそれぞれ1/3の長さの所で切り取り,五角錐をはずした姿をしています.

 切頂八面体は名前のとおり正八面体の各辺を三等分して頂点を切り取った後に残る多面体です.また,立方体の各辺の中点を結んで頂点を切り落とすと,6枚の正方形と8枚の正三角形の合計14面からなる準正多面体ができます.正八面体についても12本の辺の中点を結んでその頂点を切り落とすと全く同じ多面体ができます.このように立方八面体は立方体と正八面体の両方から中点を結ぶという同じプロセスでできあがる準正多面体です.

 準正多面体は正多面体よりも球に近い多面体となるわけですが,すべて外接球をもっています.また,辺の長さがすべて同じですから中接球をもつことも理解されます.しかし,正多面体とは違って内接球はもちません.

 正多面体の各辺の中点を頂点とする準正多面体に立方八面体と12・20面体があります.前者は立方体と正八面体,後者は正12面体と正20面体の中間に位置する準正多面体です.3次元正多面体の切頂によって,2種類の正多角形からなる準正多面体ができるのですが,切頂の深さがその頂点と辺の中点との間にあるもの,辺の中点にあるもの,辺の中点を越えたものがあり,結局,ひとつの正多面体からそれに双対な正多面体に至るまで3段階の準正多面体があることになります.

 たとえば,

  立方体←→切頂立方体←→立方八面体←→切頂八面体←→正八面体

  正12面体←→切頂12面体←→12・20面体←→切頂20面体←→正20面体

と3段階を経過して変化するというわけです.(切頂立方体,立方八面体,切頂八面体は14枚,切頂12面体,12・20面体,切頂20面体は32枚の面をもつ.)

 しかし,自己双対な正四面体の場合は

  正四面体←→切頂四面体←→正八面体←→切頂四面体←→正四面体

となり,2種類の多面体が繰り返しながら現れるのみです.このように正四面体は厄介な存在といえるわけです.(切頂四面体は8枚の面をもつ.)

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【2】外接球・内接球を併せもつ多面体(1)

 まず最初に

  正四面体←→切頂四面体←→正八面体←→切頂四面体←→正四面体

の切頂系列について考えてみたのですが,この場合,解析幾何学的な方法を用いずとも解決することができました.

 一様な棒の重心は両端の間の距離を1:1に,三角形の重心は中線を2:1に,四面体の重心は頂点と向かいあう面の重心との距離を3:1に内分します.すなわち,四面体の重心は1つの面の重心から対頂点に引いた直線の1/4の点にあります.

 この性質に由来することなのですが,任意の三角形の外接円の半径をRおよび内接円の半径をrとすると,

  R≧2r   等号は正三角形のときに限る.

という三角不等式が成り立ちます.三角不等式は3次元空間へも拡張できて,4面体では

  R≧3r

n次元単体でも同様に

  R≧nr

が成り立ちます.

 正四面体ではR=3rで,重心は頂点と向かいあう面の重心との距離を3:1に内分しているわけですから,内接球をもつように切頂するためには各辺の中点で切頂しなければなりません.こうしてできる多面体は「正八面体」というわけです.

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 次に,

  正12面体←→切頂12面体←→12・20面体←→切頂20面体←→正20面体

の切頂系列を探索してみました.

 この計算に必要とされる数値は互いに相貫する

  正二十面体の中心から頂点までの距離(外接球の半径):R20

  正二十面体の中心から面の中心までの距離(内接球の半径):r20

  正十二面体の中心から頂点までの距離(外接球の半径):R12

  正十二面体の中心から面の中心までの距離(内接球の半径):r12

  R12=sin(π/3)=√3/2

  r12=cot(π/5)cos(π/3)=((5+2√2)/5)^(1/2)/2

  R20=τsin(π/5)=τ(10+2√5)^(1/2)/4

  r12=τcot(π/3)cos(π/5)=τ/√3・(√5+1)/2) 

です.

 正二十面体の切頂比を(0≦t≦2/3)とおくと,内接球をもつための条件は

  切頂面までの距離:r12+(R20−r12)(1/2−t)

  正二十面体面までの距離:r20

が等しくなることです.

  r12+(R20−r12)(1/2−t)=r20

はtに関する1次方程式で,その解は

  t=(7-√5-2√(10+2√5)/3))/(6-2√5)=0.242947

となりました.

 すなわち,正二十面体のある頂点から隣接する頂点までの距離の約24%のところを五角錐状に切り落とすと,正五角形面12枚と不等辺六角形面20枚の合計32枚の面で構成される外接球・内接球を併せもつ多面体になるはずです.

 この多面体はサッカーボールと正二十面体の間,

  正12面体←→切頂12面体←→12・20面体←→切頂20面体←→★←→正20面体

に位置することも予想されます.

 なお,正十二面体の切頂として内接球をもつための方程式を立てると

  r20+(R12−r20)(1/2−t)=r12

  (0≦t≦1+1/√5)

より

  t=1.1128

が得られました.

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【3】準正多面体の双対と内接球

 立方八面体と12・20面体の各面の中心をつないで余分なところを切り落としてみましょう.すると,それぞれ対角線の長さの比が1:√2(白銀比)の菱形12枚の面で構成される菱形十二面体,対角線の長さの比が1:τ(黄金比)の菱形30枚の面で構成される菱形三十面体が現れます.これらは,面が正多角形ではないので準正多面体ではありませんが,準正多面体の双対多面体でもありますから一種の準正多面体群として考えることができます.

 このように,プラトン立体の双対は正多面体ですが,アルキメデス立体の双対は準正多面体とは異なる一群の立体となります.菱形十二面体と菱形三十面体は準正多面体の双対ですから内接球をもちますが,外接球はもちません.

  立方体←→切頂立方体←→立方八面体←→切頂八面体←→正八面体

                ↑↓

              菱形十二面体

  正12面体←→切頂12面体←→12・20面体←→切頂20面体←→正20面体

                   ↑↓

                 菱形三十面体

  正四面体←→切頂四面体←→正八面体←→切頂四面体←→正四面体

                ↑↓

               立方体

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【4】外接球・内接球を併せもつ多面体(2)

 おのおのの準正多面体に対してそれぞれ双対多面体があるわけですか,ここでは

  立方八面体←→菱形十二面体

  12・20面体←→菱形三十面体

の切頂系列だけを探索してみます.すなわち,菱形十二面体では四辺が集まる頂点だけ,菱形十二面体では五辺が集まる頂点だけを切頂して球に内接・外接するようにしたいわけです.

 しかし,この場合は内接球を有するという条件を保持したまま遷移していくわけではないので,その中間段階で外接球・内接球を併せもつ多面体が見つかるとは限りませんが,・・・.

 計算方法はコラム「4次元正120胞体の3次元投影(その2)」に掲載したのでご覧頂きたいのですが,切頂菱形十二面体では

  t=1/3・・・・外接球をもつ

  t=2−√2・・・内接球をもつ(切稜立方体)

切頂菱形三十面体では

  t=1/√5=0.447214・・・・・・・・・・・・・・・外接球をもつ

  t=4/(10+2√5)^(1/2)+2)=0.919299・・・内接球をもつ

ことが確かめられました.

  立方八面体←→菱形十二面体

  12・20面体←→菱形三十面体

の切頂系列では,外接球・内接球両方を同時にもつことはないのです.

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【5】雑感

 先日,東京都荒川区南千住の乙部融朗住職(円通寺)を訪問,高次元の準正多胞体に関する講義を拝聴することができました.氏は「多胞体」と呼ばずに「多体胞」と呼んでおられます.面は2次元,体は3次元,したがって胞は4次元に使う用語であるべきということを主張しているわけです.

 氏のことは

  石井源久・山口哲「高次元図形サイエンス」,京都大学学術出版会

にも取り上げられていますのでここでは紹介しませんが,「かたち」以外の領域にも並々ならぬ関心を寄せられ,知力,そしてご高齢にも関わらず夕方5時から朝方5時までビールを飲みつつも一睡もせず講義される体力に驚かされました.

 その際,立方体(四角六面体)が菱形十二面体(四角十二面体)に,菱形十二面体が正十二面体(五角十二面体)に連続して変化するアイディア満載の模型を見せていただいきました.すべて氏が自作された模型で,針金製,紙製,竹製,木製など大小取り混ぜて200個くらいはあるそうです.

 今回のコラムのネタも一種の「遷移図形」と考えることができますが,

  t=(7-√5-2√(10+2√5)/3))/(6-2√5)=0.242947

なる遷移図形を発見したことで,乙部融朗住職への御礼に代えたいと存じます.

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