■書ききれなかった数の話(その39)

 素数が無限に存在すること,√2が無理数であることは,ギリシア数学のなかでも有名な定理です.それぞれユークリッドとピタゴラスが背理法を用いて証明していますが,その証明はだれしもが容易に理解できるものです.eの無理数性も背理法を用いて,わりに容易に示すことができます.そこで,・・・

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【1】eは無理数である

(問)e=1+1/1!+1/2!+1/3!+・・・+1/n!+・・・が無理数であることを証明せよ.

(証)整数p,qが存在して,

  p/q=1+1/1!+1/2!+1/3!+・・・+1/n!+・・・

のように書けるものと仮定する.

  p/q=(1+1/1!+1/2!+・・・+1/q!)+(1/(q+1)!+1/(q+2)!+・・・)

 両辺をq!倍すると,

  p(q−1)!=(q!+q!/1!+q!/2!+・・・+q!/q!)+(1/(q+1)+1/(q+1)(q+2)+1/(q+1)(q+2)(q+3)+・・・)

ここで,p(q−1)!は整数,(q!+q!/1!+q!/2!+・・・+q!/q!)も整数.

 また,

  1/(q+1)+1/(q+1)(q+2)+1/(q+1)(q+2)(q+3)+・・・

 <1/(q+1)+1/(q+1)(q+1)+1/(q+1)(q+1)(q+1)+・・・=1/q

となり,

  1/(q+1)+1/(q+1)(q+2)+1/(q+1)(q+2)(q+3)+・・・

は小数であることがわかる.

 以上より,整数=整数+小数となって矛盾.eが有理数であるという仮定に誤りがあり,有理数ではあり得ないことを示している.したがって,eは無理数である.

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 なお,2<e<3は次のようにして示すことができます.

(証) n!=1・2・3・・・n>1・2・2・・・2=2^(n-1)

より,

  e=1+1/1!+1/2!+1/3!+・・・+1/n!+・・・<1+1+1/2+1/2^2+・・・+1/2^(n-1)=3

  2<eは明らかである.

(問)n→∞のとき,数列 Sn=1+1/1!+1/2!+1/3!+・・・+1/n! が,数列 Tn=(1+1/n)^n と同じ極限eに収束することを示せ.

(証)2項定理により,

  Tn=1+n・1/n+n(n-1)/2!・1/n^2+・・・+n!/n!・1/n^n

   =1+1+(1-1/n)・1/2!+・・・+(1-1/n)(1-2/n)(1-(n-1)/n)・1/n!

 n→∞のとき

  Tn→1+1/1!+1/2!+1/3!+・・・+1/n!+・・・=e

 分母の階乗の値が急速に増大するため,数列Snは非常に速く収束しますが,数列Tnの極限値を直接計算するのは収束が遅くて非効率的です.

[補]ド・モンモールの問題

 n個の宛名を書いた封筒にn個の手紙を無作為に入れるとき,すべての手紙がその宛名と違う封筒に入る確率は,

  1−1/1!+1/2!−・・・+(−1)^n1/n!

n→∞のとき,

  (1−1/n)^n → 1/e=0.3678・・・

に近づく.

[補]シュタイナーの問題

 y=x^(1/x)の最大値を求めよ.

y’=(1−logx)x^(1/x-2)より,y=x^(1/x)は,x=eのとき,最大値e^(1/e)=1.4446・・・をとる.

[補]オイラーの問題

 xが[e^(-e),e^(1/e)]=[0.0659・・・,1.4446・・・]の間にあるとき,y=x^x^x^x^x・・・が,ある極限に近づくことをオイラーが示した.e^(1/e)=1.4446・・・は1より大きいことに注意.無限大に発散しないのであろうか?

[補]階乗進法

 階乗進法表記を()fで表すことにすれば,オイラーの数eに対する表記は,

  e=2+1/2!+1/3!+・・・+1/n!+・・・=(10.111・・・)f

また,

  cosh(1)=(1.010101・・・)f

  sinh(1)=(1.101010・・・)f

より,

  cosh(1)+sinh(1)=(10.111・・・)f=e

 なお,大平氏によると,10進法から階乗進法へのエンコード・デコードによって,すべての順列を生成するプログラムを作成することができるとのことでした.

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【2】πは無理数である

 1744年,オイラーはこのようにしてeの無理数性を示したのですが,さらに,1873年,エルミートはeが超越数であることを証明しました.これに対して,πが無理数であることを示したのはランベルト(1761年)であり,最終的にリンデマンがπが超越数であること証明しました(1882年).リンデマンはエルミートの方法を発展させ,πの超越性を示したのです.

 π=q/pと仮定する.また,

  f(x)=x^n(q−px)^n/n!

  F(x)=f(x)−f”(x)+f^(4)(x)−・・・+(−1)^nf^(2n)(x)

と定義すると,f^(k)(0)は整数となる.さらに,f(x)=f(q/p−x)=f(π−x)より,f^(k)(π)も整数となる.

 また,F(x)+F”(x)=f(x)より,

  {F’(x)sinx−F(x)cosx}’=(F”(x)+F(x))sinx=f(x)sinx

  I=∫(0,π)f(x)sinxdx

とおくと,I=F(π)+F(0).これも整数となる.

 0≦x≦πにおいて,0≦q−px≦qより,

  0≦f(x)sinx≦f(x)≦q^nπ^n/n!

  0<I<∫(0,π)q^nπ^n/n!dx=q^nπ^n+1/n!

nを十分大きくとれば

  0<I<F(π)+F(0)<q^nπ^n+1/n!<1

となって,矛盾.

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【3】x=(√(28/27)+1)^1/3−(√(28/27)−1)^1/3は整数である

 x^3=2−xが成り立つことより,x=1はひとつの実数解となる.(x−1)(x^2+x+2)=0において,x^2+x+2=0は2つの虚数解をもつので,x=1でなければならない.

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