■書ききれなかった数の話(その30)

【1】ヤコビの恒等式(ポアソンの和公式)

  1+2exp(−π/t)+2exp(−4π/t)+2exp(−9π/t)+・・・=√t(1+2exp(−πt)+2exp(−4πt)+2exp(−9πt)+・・・

  Σexp(−πm^2/t)=√tΣexp(−πm^2t)

すなわち,

  θ(t)=Σexp(−πm^2t)

とおくと,テータ関数に関するヤコビの恒等式(1829年)

  θ(1/t)=√tθ(t)

が成り立ちます.

 初項1も含めると

  θ(t)−1/√t・θ(1/t)=1/2(1/√t−1)

となります.

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 これが跡公式のはじまりと考えられていますが,量子力学の発見はヤコビ(あるいはポアソン)とセルバーグの2つの跡公式の間に位置しています.跡公式がどこから来たか,オイラーまで遡ってみることにしましょう.

 オイラーは1744年,史上初めて代数関数

  π(1/2-x)=Σsin(2πnx)/n

を三角関数で表しています.ここでx=1/4とおけばライプニッツ級数

  Σ(-1)^(n-1)/(2n+1)=π/4

がπ/4を表すという事実の別証明が得られます.また,この式はオイラー・マクローリンの公式の基礎となり,ポアソンの和公式も導き出されます.

  Σf(i)=∫(1,n)f(x)dx+1/2{f(n)+f(1)}+2Σ∫(1,n)f(x)cos2πmxdx

  Σf(i)=1/2{f(p)+f(q)}+Σ∫(p,q)f(x)exp(2πimx)dx

  ∫(p,q)f(x)exp(2πimx)dx={f(q)-f(p)}/2πim-{f'(q)-f'(p)}/(2πim)^2+∫(p,q)f''(x)exp(2πimx)dx/(2πim)^2

 ポアソンの和公式が応用される級数としてはテータ関数が上げられます.

  θ(y)=Σexp(-πn^2t)=1+2Σexp(-πn^2y) (y>0)

ζ(s)の重要な性質(の一部)は,テータ関数に関するヤコビの恒等式

  Σexp(−πm^2/t)=√tΣexp(−πm^2t)

すなわち,

  θ(t)=Σexp(−πm^2t)

とおくと,

  θ(1/t)=√tθ(t)

およびガンマ関数

  Γ(s)=∫(0,∞)t^(s-1)exp(−t)dt

から導出されます.

 これらを用いると

  ξ(s)=π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)

      =∫(0,∞)1/2{θ(t)−1}t^(s/2-1)dt

      =π^(-(1-s)/2)Γ((1-s)/2)ζ(1−s)

より,関数等式

  ξ(s)=ξ(1−s)

が得られます.

 sを複素変数とするとき,関数等式

  ζ(s)=π^(s-1/2)Γ((1-s)/2)/Γ(s/2)ζ(1-s)

を用いればζ(s)をs=1(極)を除くすべての複素数に対して意味をもたせることができ,sを−1とすると値が−1/12,2とすると値が0になるというわけです.Γはガンマ関数です.

 また,

ξ(s)=1/2s(s-1)π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)

あるいは

ξ(s)=π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)

で定義すると

ξ(s)=ξ(1-s)

のように完全に左右対称な美しい形に書くことができます.

 関数等式は

(1)sを複素変数として複素全平面への解析接続を与えることができること

(2)ζ(s)がRe(s)=1/2を対称軸とする美しい対称性をもっていること

を示しています.

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 跡公式とは非可換版のポアソンの和公式と考えられますが,数論的にみれば,素数とゼータの零点を橋渡しする公式の総称で,具体的には,

  Σf(p)=Σf~(λ)

の形の等式として書くことができます.ここで,f~はfから決まり,逆にfもf~から定まるフーリエ変換みたいなものと考えて下さい.

 正規分布のフーリエ変換は再び正規分布になりますから,まったく無関係に思われるヤコビの恒等式

  θ(1/t)=√tθ(t)

も,オイラー積=アダマール積

  Π(1−p^(-s))^(-1)=−π^(-s/2)/s(1−s)Π(1−s/λ)

も同じ範疇に属する公式であるということになります.

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